別離(ゆづき 翼から見た、羽川 ミカサとゆづき 翼の別れ)
本当に嫌なんだけど、
その人はおちゃらけて
私のことを呼ぶ時、よく《つばす》と、
どこかのお国なまりのような口調で呼んだ。
何度も何度もやめてよねって
抗議したんだけれど、
あの人、他人の言うことなんて
聞く耳持たないから
あの人の呼びたい時には
いつだって私は《つばす》だった。
その日は、
もう酔ってはいたんだけど
珍しく真顔で私のことをつばす、と呼んだ。
アルコールが入った彼女にしては、
すごい低いテンションで。
つばす、すべてほっぽらかして、
ふたりで旅に出ようか?
(小さく笑って)
もう、還らずの旅。
ちょっと、待って。
ほんき?
なら、整理しておかないといけない問題が
いくつかあるからね、
少し、時間をくれる?
ハッ!
と、笑い声で頰はられてしまい、
私は涙目になる
いや、でもね、…………
ばっかだねぇ。
今いけないやつは、
永遠にどこへも行けやしないのさ。
その言葉を置き去りに、ミカサは、
部屋を出て行ったのだった。
旅に、出たのだ、還らずの。
それで、最後だった訳だ。
それ以来、一度も会っていない。
なんか、勝ち逃げ許した気分さ。
だから、私は、
ミカサが私に言った最後の言葉を、
けっして忘れることなく、
いつか誰かにきっと言ってやろうと、
心の中で何度も何度も固く誓ったのだった。