桃太郎
「本日を持ってこの国の全都市を無防備平和宣言都市とします!!」
テレビでこの国の馬鹿総理がそう言った。
『無防備平和宣言都市』、戦争が起きた時にこの都市は武装をしていないので無条件で降伏しますよ、と言って武力的な衝突を避け、被害を最小限に抑える事を目的としたものらしい。
『国を他国に受け渡すつもりかこの売国奴め!!』と言う反対勢力の言葉を無視して国会で強引に可決に持っていった。
この宣言は戦争中で無いと宣言できないらしいから、軍隊を持たないことで他国に攻められたときにいつでも宣言できるようにするとの事。
軍隊を持つことを嫌っている自称人権団体達が歓喜の声を上げて万歳三唱をしている姿がテレビに映しだされている、カメラのその向こうヘルメットを被った怪しげな団体が余り目立たずに映っていた、僕の目はその怪しげな団体に釘付けになっていた、その団体は急に声を荒げ馬鹿総理の方へ走って行った、テレビの映像がズームアウトしていっている。カメラマンが現場から後ずさりながら撮影しているのだろう、馬鹿総理を警護していた警官隊と団体が衝突した直後にカメラの映像が途切れ、数十秒の砂嵐の後、上空からの映像に移り変わった、テレビのナレーターの話では極右の人たちによる暴動らしい、流石に見ていて気分の良い物では無かったのでテレビの電源を消して横になった。
馬鹿総理が無防備平和宣言都市を宣言してから一週間が経った頃、早速宣戦布告もなしに海を隔てた場所にある隣国が攻めてきた、それも隣国の周りにある国と同盟を組んで。
この国が攻められたときには遠くの大国が助けに来てくれるはずだった、その為にその国の基地も在ったはずなのだが、馬鹿首相が無防備平和宣言都市を宣言するために大国の基地を強制的に退去させたのだそうな、その国の大統領は呆れていしまって、もう攻められても助けに行くものかと言っていたらしい。
特に資源のあるわけでもないこの国が攻め込まれても他の国の人たちは助け舟を出してくれないわけで、そもそも、特に資源の無いこの国が攻め込まれること自体が意味不明なわけで。
テレビをつけてもずっと砂嵐のまま、連合軍が何時この町に攻めてくるかもわからない、家のドアが蹴破って銃を持った物騒な人たちがヅカヅカと家に入り込んできた。
唐突の出来事に体が一瞬硬直して、その場から動けなかった、いかつい男二人に捕まれて、もう一人の男が僕の額に銃口を向けた、ジンと額が熱くなった、何がなんだかわからない、抵抗しようにも動く事ができない、体の中心から恐怖がこみ上げてきて、止めてくれと泣き叫ぶ事しかできなかった。
「数十年前にわが国を占領し、大量虐殺をした島国の鬼の子孫共め遂に成敗する日が来た、鬼どもは一匹も残らずに殺しつくしてくれよう。」
銃口を向けてきた男の顔を見た、涙で少しかすれていようがその男が憤っているのがよくわかる、それは命令で町を占領しなければいけないことではなく、僕自身に向けられた、正確にはこの国に住む全ての人に向けられた怒りだろう。
『パンッ』
軽い音を聞いた、途端に額の熱の温度が急に上がり、上がったかと思うと急激に減っていった、もう腕や足の感覚など無かった、視界が徐々に真っ暗になってゆき、兵士たちの高笑いをする声も少しずつ遠くに聞こえるようになっていった、妹が兵士たちに連れて行かれる姿が目に入り、また、家の物を持っていく兵士の姿も見えた、それらが濃い暗闇も中に映像として流れているだけ、もはや感情の変化さえ無くなってしまった。
まぁいいか後二・三秒もすれば僕の存在自体亡くなってしまうのだから。