プロローグ
はっ? えっ? ちょっと? なんで? ここは?
大量に沸き上がる、驚嘆を表す文字の断片。
混乱する思考。
まずは落ち着こうと、いつもの癖で鞄を探す。
正確には鞄の中身に用があるのだが。
しかしどれだけ室内を見渡しても鞄は見つからない。
私ならソファーの上に放りそうなものだが……。
「無い……。煙草だけでもどこかに置いてないかな?」
意味をなさない文字列から最初に言葉へ成ったのは、後になって考えれば状況を全く理解していない台詞だった。
「昨日そんなに飲んだっけ?」
酔って記憶を無くした事は今まで無かった。
だが、状況から推測するにとうとうやってしまったらしい。
ともかくここはどこなのだろう?
目を覚ましたのは見知らぬ部屋だった。
アンティーク調? な家具がそこらにある。
「というか、家具大き過ぎでしょ」
私が今まで寝ていたベットは、キングサイズどころじゃない。
当然だが、私の部屋でも、彼氏の部屋でもない。
こんなに広くないし、こんな家具類は趣味じゃない。
恐らくは私が来たことのないラブホだろうと想像はつく。
だが問題は誰と来たかだ。
彼氏ならいいんだけど、昨夜の記憶が飛んでいるだけに、不安に駆られる。
「やっぱり無い」
どれだけ探そうが鞄も煙草も見つからない。
当たり前だ。7歳児が持っているはずもない。
「……7歳?」
自分の思考に、再び混乱が頭をもたげる。
私は24歳だったはず。
頭が重い。
訳もわからずにイライラする。
もう一度ベットサイドのチェストや、ソファー、テーブルなどを探る。
――私は思い出のオイルライターに触れたいのだ。
私のイニシャルが彫られただけの、シンプルなオイルライター。
しかしもう二度とそれに触れる事は能わない。
「能わない? ……私は誰?」
使い古された文句が、口から零れる。
「私は……。あっ、痛うぅ!!」
何かを思い出そうとした瞬間、頭が割れそうな痛みに襲われた。
私は今野綾菜だ。
否。カタリナ・シェイルスだ。
違う。今の私はカタリナ・ウィンザーだ。
――――――――――――――――
頭の痛みが引き、幾分混乱も落ち着いてくる。
現状を少しずつだが飲み込めてきたから。
今の私はカタリナという体に、今野綾菜という人格が憑依しているようなものだ。
もっとも今野綾菜は死んだので、恐らくカタリナの前世か前々世か、それとももっと以前の人格なのかはわからないが、憑依したというのが、今の私の感覚としては近い。
死んだ? 何故?
……駄目。まだ記憶が整理出来ていない。
一つずつ思い出そう。
今野綾菜の事を。
カタリナ・シェイルスの事を。