17-2
葵祭が無事に終了し、次の休日。
僕は電車を乗り継いで実家の前にいた。両手には近所のスーパーで買い込んだ食材が詰め込まれている。
カレーの材料。先日の宣言通り、僕は実家にカレーを作ることになった。そんなにすぐに行くつもりはなかったのだが、妹がしつこく一度帰れというので仕方なしに返ってきた。
「お兄ちゃん、やっと来た。……あれ、眼帯は?」
「やめた」
「……ふーん」
なんでとは言わなかった。どこか嬉しそうでさえある。
インターホンを押すよりも前に妹に出迎えられた。ずっと待っていたのだろうか。
妹は葵祭の後に実家に戻った。夏休みが終わったからである。僕の方も今度の週明けからは新学期。バイトのシフトも戻るし、授業だって再開する。
この夏休み、休んだ気がまるでしないのだけど。
出迎えた妹に宿題はやったのか、と何気なしに尋ねると、お兄ちゃんの家にいる時にやったと驚きの答えが返ってきた。分からないところは哀川に聞いたらしいが、どちらかというとあいつと話したいがために宿題をこなしていたのではないかと推測する。
そんなことを考えていると、「ほら、早く入って。この間の劇の話でもしよ!」腕を掴まれ自宅に引きずり込まれる。
「…………え」
僕は中に入って驚く。
絵が、飾られていたのだ。
それも一枚のだけではない。玄関から廊下に向かって壁に転々と飾っており、ご丁寧に額縁にまで入れられていた。
……僕の、絵。
自分自身てっきり捨てたと思っていた作品の数々。
家族を苦しめていたはずの負の遺産。
それが、我が家を彩っていたのだ。
「これって……」
そう言って、僕は玄関にかけられていた一枚の前で止まる。
「ん? ずっと飾ってあるよ? あーでも、お兄ちゃんが出て行ったくらいの頃かな。お父さんが飾れって。私のは飾ってくれないんだよ? もうまったく」
僕の絵はずっと家族を苦しめているといった。事実、それがこの家の不幸に繋がった。
だけど、家族は誰もそんなこと思ってはいなかったのだ。
僕が勝手に解釈して、勘違いしていただけ。
話もしないのに、理解しようともしないのに、決めつけ自己完結をしていた。
そんなに自分自身に呆れ、僕はそんな勘違いを繰り返してばかりだなと思わす自嘲する。
「あ、そうだ」
妹は振り返り、にかっと満面の笑顔で言った。
「おかえり」
今更過ぎるその言葉に、苦笑いをして僕は返答する。
簡単で、だけど久々で忘れかけてさえいた、その四文字を。




