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帰宅後。妹の「観光してくる」という書き置きを見つけ、僕はポケットから封筒を取り出す。捩じ込んだためによれてしまっていた。
僕は特に期待もせず中身を見た。そこに書かれていたのは、愛の告白でも喧嘩の日時と場所でもなかった。しかしなんとなく予想はしていた。
「もう、三年か」
誰にも聞かれることのないそれは部屋の中で反響し、僕の心でも反響し、重くのしかかる。
眼帯に軽く触れてから、右腕を抱くように掴む。少し激しくなった鼓動の音を聞きながら、目を閉じる。
とくん、とくん。
命のリズムを聞き、自分が確かにここにいることに安堵する。
思わず止めていた息を吐き、妹の書置きとその手紙をまとめてゴミ箱に放る。そして、僕は床に倒れ込んだ。
年季の入った木造の天井をぼんやりと眺めながら、書かれていた言葉を思い返す。
『人殺し』
期末は国語より英語の点数の方が良かったなと思い返しながら僕は、自分の感情をうまく表現できない代わりに、小さく呟く。
いぐざくとりー。