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青春画廊のお姫様!  作者: えつを。
37/59

8-1

 帰宅した家には誰もいなかった。

 彩葉くんの離脱により寄り道をすることなく帰宅した私を出迎えたのは光の点っていない闇。

 時刻はすでに七時を回っている。お父さんは仕事だろうけれど、お母さんがいないのは珍しいなと思いつつも、特に気にすることなく、私は二階の自室へ向かう。

 両親がいようといまいと、私が一人なのは変わらない。

 やっぱりみんなと寄り道したかったなと今更のように後悔。バッグを部屋の隅に放り、自分のベッドに倒れる。制服のままで皺がつくかもと、枕に顔を埋めてから思うが、後でアイロンがけをするのは、自分なんだから別にいいかと開き直る。誰かに頼むよりは自分でやる方がだいぶ気が楽だ。

 私はスカートのポケットから紙切れを取り出し、仰向けになり電灯にそれをかざす。それを見たくもないもののかのように目を細める。あるいは明かりの眩しさか。

 葵祭優先チケット。

 全国から人の集まる葵祭は毎年大変な混雑が見込まれる。生徒主催の学園祭の方もその例に漏れない。そのため保護者に向けた優先券が存在するのだ。私が握っているのは以前クラス全体に配られた券。その数は二枚。人によっては受け取らない人がいたり、家族が多いともより多く申請したりするのだが、私は二枚だけお願いした。

 こんなもの、必要になるか分からないのに。

 何でもらったんだろうと過去の自分を嫌悪する。

 どうせ、誰も来ないのに。

 ……それどころでもないしなあ。

 それよりも今後の方針だ。クラスの信頼を取り戻すために何をしたらいいのだろうか。

 やはり、犯人探ししかないのだろうか。

 生徒会長の前では大口を叩いたけれど、現状うちのクラスの立場は危うい。

 マイナスからのスタート。彩葉くんのおかげでクラスのまとまりはできたけれど、学校の全てを疑わなければならない。

 そもそもその調査に割く時間も人手もない。だとすると、私がやらなければならないだろうか。

 部活には参加していないため横の繋がりは薄く、情報収集は難しいだろう。だけど、その分他の人よりも適任なのかもしれない。

私が誰かを疑うだけなら、私だけが他クラスから嫌われるだけだろうから。

 人の目は苦手だ。だけど、動かなければならないのだ。

 彩葉くんは何考えているんだろう。

 彼はついさっき、何も考えずに大見栄を張ったと言っていたけれど、恐らくあれは嘘。

 少なくとも何かをしようとしている。帰り道に妙にそわそわして見えた彼の言動はそう思わせた。途中で私たちと別れたのも気になる。もしかして学校に戻っていたりするのだろうか。何をする気なのかは分からないけど。

 突然、ポケットに入れていた携帯が振動した。

 私はチケットを握った手とは逆の手でまさぐり、少し使えながらも取り出す。メール。メールが来るなんていつぶりだろうと検索エンジンくらいしか利用していない私はなぜか緊張しながら開封する。

 差出人は新聞部。宛先は私だけではなく、学校の生徒全員に回っているらしかった。どこでアドレスを知ったんだろう? 迷惑メールだろうか。それさえも滅多にこない私は何気なしに書かれた内容に目を通す。そして、目を見開く。

 道明寺くんの妨害工作。

 身も蓋もない言い方をすれば、彼が各クラスのセットを壊し、全てを七組に濡れ衣を着せたという内容。

 本文の最後にURAが貼り付けてあり、そこへ飛んだ。

 飛んだ先は、動画投稿サイト。

 一番上にあった動画。題名は、昨日の日付になっており、アップロードされたのはついさきほどとなっていた。

 その動画が紛れもない証拠だった。動画に映っているのは道明寺くんとその取り巻き。道明寺くんははっきりと顔が映っていたが、他は妙にぼけて見える。何か加工でもされたのだろうか。カメラには気づいていないらしい。盗撮。だけど誰が。

 まるで狙ったかのようなチェーンメール。そこに誰かの意図を感じられずにいられなかった。

 ふと彩葉くんの顔が思い浮かぶ。

 もしかして彼が行ったのだろうか? いいや、新聞部の存在は最近知ったようだったし、所属しているとは考えにくい。それとも情報を流しただけ? 考えるが、答えは分からない。

 犯人の特定。それはとても簡単に分かってしまった。

 あまりにも、できすぎている。

 ……どうしようもないか。このメールの存在は消せない。これで信用が回復しないようならまた考えたらいい。

 トントン拍子に進むことに薄気味悪さを覚えながらも、もう一方の手に握ったチケットを見る。

 これ、どうしよう。

 いや、どうしたいんだろう、私は。

 両親に渡してみようか。――できるはずがない。

 分かっている。理解してる。なのに、何で悩むのか。

 じっと、考える。

 考えて考えて考え続けた。

 翌日、彩葉くんに会うまで、ずっと。



 私が交通事故に遭う、その時まで。


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