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青春画廊のお姫様!  作者: えつを。
31/59

6-1

 私は、私の世界に取り残されていた。

 彩葉くんを見送ってから、ずっと、私は教室で一人体育座りをしている。

 辺りにはペンキの缶が無造作に並べられ、強烈なシンナーの匂いが鼻を差す。

 彩葉くんと二人で描いた、その幻想的な世界を見る。

 私のしたことといっても塗りの手伝いぐらい。

 彼は立体感を気にしていた様子だったけど、そんなことはない。

 そんな懸命に作り出した世界に一人になり、私は寂しさを感じていた。

 あれだけ彼に行けと言っておきながら、みっともない。少しぐらいは格好つけたらどうなんだと思う。

 哀川さん、彩葉くんにライブチケットあげてたんだ。

 そのことが一体、何を意味するのだろうか。

 彼女は教室で問題を起こしてから、別人のように練習に取り組むようになった。そのことは喜ばしいことだったが、あまりの変わりように周囲もやりづらそうにしていた。

 どうして彼女は突然やる気を燃やしたのだろう。

 ――負けない。

 それがきっと答えなのだろう。

 哀川さんは、彩葉くんが好きなのだ。

 だから、私を目の敵にした……のだと思う。

 だけど私にあるのは、彼に私の世界を描いてもらいたいという一方的な願望だけだった。

 そして、それは今叶った。

 だとしたら、残るのはなんだろうか。満足感、充実感。もう彼に対する興味は失うのだろうか。

 分からない。私が彼を実行委員に選んだ理由も、執拗に絵を頼んだ理由も、彼を見送って、胸のどこかがチクリも痛む理由も。

何も、分からない。

 ――自分の声を聞いたことがあるかえ?

 いつだったかの風変わりな少女の言葉が蘇る。あれは確か録音の声の話だったか。彩葉くんが私の朗読を録音していたことはあったけれど、私は耳を塞いでいた。自分が歌う時も、いつもヘッドホンをしていた。

 ……ああ、そうか。

 私は自分の声を聞いたことがないのか。

 その事実は思いの外、私の胸に重くのしかかる。耳を傾けないから聞こえないし、尋ねないから返ってこない。

 私が何をしたいかなんて。

 彩葉くんに私を描いてもらって、何か気づけると思ったのに。

 ……もしかして。

 不意に、一つの可能性に辿り着く。

 本当にそれはもしもの話。

 私は、私の声を誰かに聞いて欲しいんじゃないかって。

 少しだけ、そう思った。



 私は自分の世界に閉じこもっていた。

 周りの音なんて聞こえなかったし、自分の音さえ耳に入らなかった。

 だから、私は気づくことができなかった。

 夜の学校で行われていた悲惨な事件なんて。


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