1話 引っ越し先
1話 引っ越し先
僕はある日突然、親に「でていけ」と追い出されてしまった。
それもそのはず、働いていて金もそこそこにあるにも関わらず、
親に一円も渡しも、ましてや貸しもせず、毎晩遊び歩いていた。
そんな僕にしびれを切らした両親が「引っ越し先は既に準備してあるから」といって
車で約50分ほど先の田舎にある〝あるアパート〟の前で降ろされた。
「母さん、もしかして引っ越し先ってここ?」
僕は眉間にシワを寄せて、母に問いかけた。
「そうよ?立派なアパートでしょ?」
どこからどう見ても今にも壊れてしまいそうなアパートを
見ながら、母は少しどや顔をしてみせた。
「僕にここに住めっていうの?母さん僕は…」
「いい加減にしなさい?まだ我が儘言う気?じゃあ、頑張りなさいよ?」
母は、僕の言葉を遮るように言って、足早に去っていった。
薄暗い森のような場所に一人残されどうしたらいいか考え込んでいると、
後ろから、少し高めの老人の声が聞こえた。
「やぁ。君が潺君かぃ?」
老人は、なぜか僕の名前を知っていた。
「はぁ…潺 天時と申しますが。」
「えぇえぇ…お伺いしてますよぉ…。私はここの大家をしておりますぅ。九重と申しますぅ。」
毎回、語尾に特徴のあるしゃべり方がある人だな、なんて思いながら、
「よろしくお願いいたします。」
と丁寧にお辞儀をした。
仕事柄、頭を下げる事には慣れていた。
「じゃあぁ…天時君…よろしくねぇ~まぁまぁ気を楽にして、こちらへどうどぉ~」
「は、はぁ…」
そんな事言われたって、こんな薄気味悪い所で気を抜いたりしたら、
後ろから、誰かに殺されるかもしれない。
なんて勝手な想像を膨らましてしまったせいで、気づくと自然ときょろきょろしてしまっていた。
「まぁ、見た目は物騒だけどねぇ…。住人は悪い人じゃないからねぇ…」
嘘だ、こんなに気持ち悪いのに、住人がいい人だなんて思えない。
一向に安心できずそわそわしている天時に大家が、水を渡した。
「それ飲みぃな?ちとでん、安心すると思うでぇ~」
毒を盛られているのではないだろうか…
てか、これ飲みかけ?!
大家の水をもらったことで余計にパニックになっていると
大家は、まるで天時の心を読んだかのように呟いた。
「心配せんでも、毒盛ったりしとらんけ…口もつけとらん」
「あ、え、あ、はい。ありがとうございます。」
咄嗟にでた言葉はなぜかありがとうございますだった。
自分でも正直びっくりしている。
少し警戒しながらも水を口に含むと
その水はなんともいえない柔らかい口当たりの水だった。
僕は、大家に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あの…先ほどは…」
「気にしないでいいんだよぉ。こんなアパートの大家なんだ、少しは疑ってもらわんとな」
大家はすごく親切でいい人なんだな…。
この時はそう思っていた。
これからどんな生活がまっているかわからないけど、
うまくやっていけるだろう…と。
大家は急に立ち上がってポツリと呟いた。
「今日も一日平和でありますように...」
「あの?大家さん?」
「やぁあ、すまないねぇ、お父さんに挨拶をするのが日課になっていてねぇ。」
「そうなんですね?凄く素敵な日課だと思います。お父さんもきっと喜んでいらっしゃると思います。」
僕は素で思ったことをそのまんま口に出して言った。
すると大家は言った。
「そうかねぇ。怒ってないといいけど。」
僕にはどういう意味か全くわからなかった。
でも、嫌な予感がした、鳥肌がゾッと立ち
異様な雰囲気に飲み込まれそうになって、はっとなった。
“これは訊いてはいけないことなんだ”と思った。
「そういえば、潺くんはどうしてこのアパートにぃ?」
思い出したように大家が急に理由を尋ねてきたが、
僕は何も考えることなくサラリと答えた。
「そうだったんだねぇ…きっとこれから色々あると思うけど、
きっと楽しい毎日になるよぉ。」
決め付けるのはどうだろかと、目を少し顰めたが、まぁ頑張ろうと思った。
初めての環境でどうやっていけばいいか正直わからない。
でも、住民と仲良くできる。なぜかそんな自信しかなかった。
僕は一流エリート社員なんだ。ナメルナヨ?
なんやかんやで30分ほど経過していた。
「さてぇ、そろそろ部屋行きますぅ?」
「えぇ、そうですね、行きましょう。」
「んじゃあ、ご案内いたしますねぇ。」
「お願いします。」
そして、大家に案内されるままに行くと
291号室の前についた。
ここである異変に気づいた。
部屋の号室の番号である。
※号室図____________________________________________
2階 014⇒317⇒291⇒591⇒459
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1階 008⇒101⇒444⇒361⇒961
___________________________________________________
「あの…?大家さん?」
いやな予感はしていた。
ただのアパートじゃないことぐらい、
一歩足を踏み入れただけで大体の人が分かるであろうこの異様な空気。
「はぁい?」
普通に返事をする大家に僕は不信感しか抱かなかった。
「もしかして、部屋の番号って語呂合わせですか?」
2・9・1。
に・く・い(?)
なんで“憎い”?
僕がなぜ憎まれた部屋に行こうとしている?!
だれに
・・・・。
「さぁ。どーでしょうねぇ、私が決めたわけじゃありませんからねぇ。」
「え?じゃあ、誰が?」
大家は質問には全て真顔で答えた。
数分前まであった笑顔は一体何処にいったのかと訊きたくなるほどに。
「…。さぁ、だれでしょうねぇ。」
「は?」
大家なのに、なんでこんなことも知らないのか不思議で仕方なかった。
ここに来た時から思っていたが、大家には謎が多すぎる。
「私はねぇ、いつの間にかここの大家になっていたんですよぉ。だから、何も・・・」
まるで答えになってない答えが返ってきた。
僕は呆れのあまりきょとんとしてしまった。
そして、なんとも言えないこの独特の喋り方に腹が立ってしまう。
「はぁ。そうですか、分かりました。もう結構です、今日は疲れたので休ませていただきますね。」
僕は少しキレ口調で言った。
「はぃい。あとで契約書をお持ちしますんで、契約日を11月4日で書いておいてくださいなぁ。」
僕の態度がどう変わろうとも、
大家の態度、接し方は一切変わらなかった。
「は?はぁ…分かりました11月4日ですね?では。」
僕は本当に意味が分からなかった。
どうして、そんなに先の日付を書くのか…。
だって今日は、9月22日のはずなのに。
閲覧ありがとうございました!
新規アカウント第二作目でございます(´;ω;`)
諸事情により投稿遅くなって申し訳ありませんm(_ _"m)
感想 レビュー 評価
おまちしております!
時間がある方、是非!
では、この先も見てあげるよ…って方!
次話でお会いしましょう!では(o^―^o)