ーもうちょっとだけー
「……っ」
目を潤ませているおばあちゃんに手を引かれ、私と弟は、ある棺の前に立たされた。
「ねえ、何で箱の中でおじいちゃんが寝てるの?」
私は聞いた。
「もう、起きられないからよ」
「どーゆうこと?」
「その内分かるわ」
ふーん。と分かったふりをして、私はおじいちゃんを眺めた。でもそのころの私には、どうしても理解できなかった。
「あっ」
弟が突然走り出した。
向かった先を見ると、そこにはお母さんがいた。
久しぶりのお母さんだ。
私達の両親は “離婚” をしている。
よくは知らない。分かることと言えば、一緒に暮らしてはいけないこと。
そして多分それは、これからずっとだということ。
「ママ!」
弟がお母さんに抱きつく。
それをお父さんは遠くから眺めていた。
「あのね、もうちょっとだけ待っててね。パパのお仕事、まだあるみたいだから、まだ一緒にいれないんだ。だから、もうちょっと待っててね。すぐ迎えに行くから!」
何も知らない弟は、笑顔でお母さんに言った。
近くで見ていたおばあちゃんや、親戚の人達が泣いていた。
泣いている理由は、よく分からない。
けど、一つだけ言える。
おじいちゃんの死よりも、周りを泣かしたのは弟だということ。
バイバイ おじいちゃん。