マイ・ピュア・ガール
『恋に落ちるには、ほんの少しのきっかけがあればいい』
なーんて、誰かが言ってた気がするけど。ホントにそんなのあるの?
そんな都合のいいきっかけや出会いなんて、一昔前の恋愛マンガじゃあるまいし。あるワケないじゃない、常識的に。
あったら、私はこんな苦労してないわよ……。ふーんだ。
「なーに、アミ。タメイキなんてついちゃってさ」
「分からない? 私だって色々疲れてんのっ」
そう言いながら、授業内容を必死にノートにまとめている私。
「いつになったら終わんのよ〜、そりゃアミは人一倍板書遅いけど」
「人一倍って余計ッ」
ミスズは隣りでクシシって笑ってばっかだけど、今の私にはそれを小突く余裕もないの。
それは誰も、四時限目が終わって昼休みになって、んでまだノートとにらめっこしてるなんてイヤに決まってるじゃない。
でもね! しょうがないんだってば、私成績低いんだもん……しかもさっき授業してた数学は特に。
「こんなの、公式応用すればパッパと解けんじゃない? ホラこの問2」
「それができないからこうしてんのっ」
一々覗き込まないでよ。いーよねー、ミスズは頭よくて。だから隣りで私を余裕でからかってられるんだろうけど。
そう、私は小さい頃からドの付くぶきっちょ。家ででも学校ででも何ででも、お母さんになんか何回文句言われたことか! 『アンタって本当に不器用だねぇ』って。
好きでやってんじゃないのよ! いい加減直したいくらい。
おかげで高校生になったら勉強面で散々だし、友達だって! 新学期になったばっかりの時はいなかったのを、席が近くのミスズが積極的に近付いて間を取り持ってくれたからできたようなもの。色恋の一つや二つ……だって。ずっといつも友達のを聞いてるばっかなの。……失敗続きなのっ。オクテなんて言わないでよ。
あ〜あ、今私の周りじゃみんな昼休みを満喫してるのに。それにその外じゃ、陽射しポカポカな春がやって来てるっていうのに。
私の春はいつになったら来るのよぉ……。
「どぉこ見てんのっ! 早く進めてよっ」
校庭の開きかけの桜を見ていたら、今度はミスズにどやされる。
それはミスズは早く学食行きたいよねー、食べたがってた日替りのB定食、大人気で即売切れ御免だもんね。
私は私で、ナミダの一つや二つ出ちゃいそうだよ……。
すると。
「あ」
ノートの脇に置いた消しゴムが、勢い余って……コロコロコロコロ……スポン。
「消しゴム落ちたよ」
……言われなくても分かってるっ!
あ゛〜〜!! もうどうしてこうなるのよっ! 私ばっかりこんな目にっ! 私ばっかりっ! 私ばっかり! 私ばっかり、私ばっかり……私、ばっかりぃ……。
私、こんなでも花の女子高生よぉ。まだなりたての一年生だけどっ。それでも女子高生だよ? ……今時ケータイも持ってないけどっ。
…………。
とりあえず拾お。
悲しくなってるとキリないもんね……。
そうやって、諦めて手を伸ばした時だった。
「……えっ」
そっと、私の反対側からも手が伸びている。
それで少し驚いて顔を上げると。
「……小原、君?」
「ん、あぁ……これ松田のだったのか」
目の前にあったのは、クラスメートの……小原君の顔。
何なんだろう……今何か、胸の辺りがトクンっていったような…………。
「…………松田。ホラ、消しゴム」
「……あ、ああ、ありがと」
それっきり。
じゃな、ってだけ言って小原君は教室から出て行った。
その時──たった数秒間だったんだろうけど──周りの音が、全部ヒュッと静まった……のは、私の気のせい、なのかな。
「……アミ。アミ? おーい、どーしちゃったの? アミ〜」
いつの間にか、私の視線は……空っぽな教室の入口、小原君が出て行った後に釘付け。
「アミ〜、アミ。……アミってば!」
「わ、わひゃっ!? 何ですかっ!?」
脳天をバシンとやられてやっと正気付いた私に、ミスズは一言。
「……アミ、アンタどーしたの?」
私の奇行には、流石のミスズも首をかしげる。そりゃそうよ、私自身だって……。
でも、そこはミスズ。私のキョトンとした顔と、その視線の向いてた先を代わる代わる見た上で、ポツリと言う。
「……何見てたの」
「…………」
「今の……小原君?」
「……ウン」
今度は、廊下に顔を向ける。
「……小原君よね」
「……ウン」
それで。
私もまた、誰もいないドアの辺りを見詰め始めちゃう。
廊下の窓から吹いたのか、そよ風がドアを小さく鳴らして過ぎて行く……。
「……フフフッ」
「……?」
「……フフフフフッ、ウヒャハハハハハ」
……何よ?
今度はミスズが笑い転げ始めてっ? 今何かヘンなことあった!? 今日ヘンなこと起こり過ぎっ!
「……ミ、ミスズっ?」
「ハハハハハ、ウヒャハハハハハハ……、ご、ゴメンっ、ウフフフフッ」
どーしたのよー……?
今なら十円払っていいから教えてよ……。
「フフフフフッ……、分かった分かった。そーかそーか、そういうことね。分かったよぉ、アミちゃん」
分かった分かった、って……私はさっきから何一つ分からないでキョトン顔なんですけど。
満面の笑顔で私の背中を何度もバシバシ叩くと、いきなり『ここじゃマズいから、学食行くよ』なんて言って私の手を引っ張り始める。
「ち、ちょっとぉ? 私、まだ板書が」
「アタシの写させてあげっから! 個人キョージュもやろっか! 出血大サービスっ!!」
そ……それなら助かるけど。って、ムリクリ私を引っ張ってくのはやめてよーっ!
というワケで、私は食券の為の財布を取るのもそこそこに、教室を後にしたのであった……。
そんなこんながあって、今日はその次の日。
土曜日。一応、休みの日。
朝の薄い光が、頭越しに射す部屋の中。
カーテンの向こう、もう賑やかに響いている小鳥のさえずり。
んで。
ベッドの上、これまたキョトンとした顔をして上半身を起こしただけの私。珍しく、起き抜けなのに眠くない。
いつもは盛大に朝寝しているはずの時間なのに。
何故?
そりゃ決まってるわよ。
一つのショックのせい。
ウン、カンペキにミスズが"あんなコト"言ったせいよね。そーそー、"あんなコト"をあんな風に言ってくれたんじゃ。ねぇ。"あんなコト"を、あんな風に、"あんなコト"を、"あんなコト"を、"あんなコト"を……。
「あ゛〜〜っっ!!!! ミスズのバカヤローっっっ!!!!」
そう言うなり、私は頭を抱えて布団の上に突っ伏した。
第一声がこれなんて、最悪の目覚めよね。
だって、だってぇ!!
……ま、不満爆発させて叫ぶのはここまでとして。
あの時、ミスズに拉致されて学食まで連れて行かれた私の行く末はというと…………じゃじゃん。
「アミ、さては小原君に気があるね?」
お膳を準備してまず最初に言われたセリフがこれだもの、さすがの私も吹き出したわ。
「……な、な、何言い出すのよぉ!」
とすぐさま反論した私だけど、まぁ落ち着いて、ってなだめられてミスズから真相(勿論ミスズの憶測だけど)を聞かされた私は、顔が火を吹くぐらい熱くなったのを覚えてる。
ミスズいわく。
『消しゴムを落とした時』、小原君と同時に拾おうとした私は、『小原君と目が合って』一目ボレ、それで小原君の『去った後をじっと見ていた』っていうことなんだとさ。
違ぁーーうっ! なんて、無論私は反論する。けど、
「アミと小原君って、確か中学時代からの付き合いでしょ? 前言ってたじゃん」
『だからよ、きっと』って言いながらミスズは、B定食の代わりのラーメンを豪快にすする。その余裕な態度に私は抵抗する手段もなく、うぐ、と言葉詰まりになった。ミスズは逆に、
「ある意味B定食よりオイシイ話のネタが聞けたから満足」
ってホクホク顔だったけど。
私はというと、なけなしの五百円でミスズにそのことを黙らせた後、猛スピードで昼ご飯を食べ終えた。そして一直線に教室へダッシュ………………ってしたかった所だけど。
私の足は、階段途中でいきなり失速。後教室まで十メートルもないってとこで、私は立ち止まった。
──何よ?
何なのよ??
一体何なのよ!?──
それはぁ、小原君とは一緒の中学出身よ? しかも二年から同じクラスで! でも特に会話したこともなかったし、何もなかっ……席ぐらい隣りになったことはあったけどっ。
特に仲良くした覚えはないわよっ! そう、腐れ縁ってヤツ、腐れ縁! ……『腐れ』縁っていうのはちょっとヒドいかな。
と、とにかくっ! 私と小原君は何でもないのっ!! 何でもないっ! クラスメート、トモダチ以上の関係は絶対にないんだからっ!
私は、踊り場の壁に向かってうつむきながら思考を巡らせた。
ヘンに見えたかもしれない、周りからは。
でも、それぐらい私の心は苦しくて、全てを否定したい気持ちで一杯だった。あんな些細な出来事が、こんなことになるなんて……。
──でもそれって
自分のホンネ?──
……それでも必ず、どこか片隅でそうポツリと問い掛ける自分がそこにはいた。『トモダチ以上の関係は絶対にない』
……本当……なの? それって……。
私は、苦しかった。
意識の外、遠くに五時限目の予鈴がボンヤリ響いて聞こえた。
……それで、今。
胸がドキドキしてる。
風邪とか、病気とかのそれじゃないことは分かってる。
これは、昨日から続いてる"ドキドキ"だ。
ふと、ベッドの向かいにある姿見に目が行く。
そこには、潤んだ涙目でベッドにいる私が映っている。
「……バッカみたい」
そんなカワイソウな自分の姿を見ている内に寝床が居苦しくなった私は、とっとと起き出して下に降りることにした。
「あら……どうかしたの、いつもより早いじゃない」
一階に降りて、ダイニングに顔を覗かせた私を見てお母さんは目を丸くした。
そりゃそうよ。いつもなら、グースカ布団の中で寝てる時間だもんね。
「雨でも降るのかしら、今日」
「降らないよっ」
私は、ちょっとスネてみせる。元からスネてたようなもんだけど。
それからテレビをぼーっと見ながら朝ご飯を食べた私は、『少し散歩して来るね』と言ってお母さんを更に驚かせた。
「雨じゃなくて雪が降るのかしら」
降らないってば、しつこいよっ。
単にこんな休みの朝早くから家にいても、つまらないだけ。それが理由。私、休日は休日なんだから勉強なんかせずに休む主義ですから。
それにしたって、私は気がヘンだったのかもしれない。
……玄関の扉を開ける。
薄暗い部屋に目が慣れた私は、思わず目をつぶった。
春らしい、まぶしい日の光があふれる空。
雲もそんなにない、文句なしのブルースカイ。
絶好の散歩日和だった。
「だからってホントに散歩したい訳じゃないけどね」
心の内に、そんな皮肉の一つなんかを呟きながら、私は歩き出した。
その日は風も強くない、天気予報いわく『またとない行楽日和』。その通り、誰も彼も浮かれ出て来そうな麗らかな日だった。
まだ朝早くだったから、風が夜中の冷たさを残してヒヤッと吹き抜ける。でもそれは心地よいくらい。
体が洗われて、自然と足が進まされるようで。
家々はもう起き始めている。私の家は住宅街の真ん中にあったけど、周りの家はみんな、まだ黙っていながら生気に包まれている感じがした。
そんな光景が、一筋の道沿いに、クリーム色の朝日に包まれながら続いている。
「……早起きっていうのも……いいかもね」
私は、それまでの胸の中のモヤモヤが和らいで、どことなく清しい気分だった。ほほ笑みを見せる、余裕があるくらいにね。
そんな時、私はちょっと上着のポケットを探ってみた。出て来たのは……キラリ銀色に光る丸いもの。
「ラッキーアイテム……ね」
どこからどう見ても、タダの百円玉。それが、散歩のお供だった。
朝ご飯を食べてた時、テレビの星座占いで『本日あなたの運気をよりよく高めてくれるでしょう』なんて言われてたものが、『コイン・硬貨』。それで、財布の中を見てみたら、小銭入れに……たった一枚。何つー貧弱な私の財布。
ってことで、ついでに持ち出してみたんだけど。
「……ホントに効くのかなぁ」
そういう気持ちが半分。
何せ、私はいつもそーゆー占いのたぐいは信じてないもの。当たったこと少ないし。信じてる子、多いみたいだけど。
でも一方で、
「昨日、別な占いでラッキーアイテム『ミニ消しゴム』だったしなぁ……」
なんて数少ない的中例を思い出してみる。
ま、当たったら儲け物、外れたらそれまで、か。
そう考えながら、手の平で百円玉を転がす。そうだ、この百円でミスズのヤツにイタ電してやろうかな。ケータイ持ってたから。公衆電話があれば……ワンコインでも、無言電話ぐらいはできるでしょ。あれだけ私をからかったんだから、トーゼンよ。
……そんなこと考えてたから、バチが当たった……のかな。
「あ」
二回目、ね。
手の平に転がしてた百円玉が、ツッと手の平を滑って……脇から、ポトリ。
「あっ」
なんて声を上げる前に、百円玉は地面へ。そして、チャリ、チャリンって軽い音を立てながら、見事に路上を転がって…………。
「ちょ、ちょっとぉっ……!!」
……ホント、マ〇クのCMじゃないんだから。ってそんなこと言ったって転がって行ったのよ!? 自転車か何かの車輪みたいに、こう、ツツーッて!
「ちょ、あ! ま、待ってよぉーー!!」
こーなったら、追いかけるしかないよね。それこそマ〇クのCMみたいに。
ところがこの百円玉、中々しぶといって言ったらしぶといのよ! 百円玉相手に何だ、って感じだけど、生きてるんじゃないかってくらい止まらない止まらない。都合の悪いことに、その道は緩い下り坂……。
ほ、ホントに待ってよぉーーっ!
「…………何だこれ」
そんな時、丁度角からやって来た人の足に百円玉がぶつかる! た、助かったぁ……。
チャリ、と音がして百円玉は止まった。観念したのね。
私は、肩で息をしながらそっちに近付く。
「……す、す、すい、ません……、それ、わたし、の……百円玉、で……」
ちょっと走り過ぎたかしら。
何はさておき、私は百円玉を拾おうとする。
……すると。
「……あれ?」
朦朧とした視界に見える、向こうからも差し延べられる手。
ちょっと……これって前にもあったような……?
「……あ、何だ。松田じゃんか」
……私は。
その聞き覚えのある声に、恐る恐る顔を上げる。まさか……。
「これ。松田んだろ?」
そう言って……百円玉を差し出すその人……それは誰あろう。目の前にいたのは他でもない、小原君だった。
私は即座に固まっちゃう。
「小……原、君……?」
「……おう」
道の上、二人っきり。
目と目がしっかり合って、私は動けなくなる。
朝の白い空気が、急に無音になって行く……。
「えぇぇーーっっ!!??」
「な、何だよ、いきなり叫ぶなよ!?」
叫びたくもなるよっ! だってトツゼンにさ、小原君がやって来たんだもの! 百円落っことして、それを拾ってくれたのがたまたま鉢合わせした小原君でっ!? 何このデジャビュ? どーしてっ? 何も考えられないよ!? 目の前を向けば小原君! 目の前を見れば小原君! 目を向ければそこには小原君ッ!
「……松田?」
「ハ、ハ、ハイッ!?」
「……何だよそのリアクション。それよか、顔真っ赤だぞ」
そんなこと言ったってぇ……小原君のせいよ? ううん、百円玉のせい? それとも今朝の星座占いのせい? それとも? 運命の神様とかのせい……??
……後で小原君から聞いたら、私が突っ立ってた時間は十分にもなるって……私って、バカ……なのかな。
「……松田。大丈夫か?」
「ダ、ダ、ダイジョウブダヨ」
「……手と足同じ方出して歩いてんのにだぞ」
大丈夫、なワケないよ。
その後、特にアテもなかった私は『この後何もないのか?』なんて小原君が声をかけてくれたから……二人で並んで散歩を続けることにしたけどっ。
どーしよ、どーしよ……あの小原君が隣りにいるのにっ! 私、何にもできてないよっ? 手も触れてないしっ! 何も話せもしないで、ロボット歩きしてるだけだしっ!
顔が湯気立ってるみたいに熱いし、頭の中もボーッとするぅ……芯から熱くなってるみたいで、色々なものがぐるぐる渦巻いてて……。風邪なんかよりよっぽどヒドいよ。
何? この渦巻いてる『ナニカ』って。
私自身にも分かんない。分かってたらこんな風になってない。
今までのどんな時より苦しいよ。初めて……こんな感覚は。
胸が張り裂けそう。鼓動が耳元で直接響いて来るくらい。
何なのよ……これって?
もしかして、これが……?
「……なぁ、松田」
そんな時に小原君は話しかけて来る……びっくりさせないでよ。
「な、なぁ、なぁにっ!?」
「……お前そんなにオーバーリアクションだったか。……その百円玉、どーするつもりだったんだよ」
え、えぇ……? 百円玉?
「ひゃ、百円玉っ?」
「そーだよ。さっき落としたヤツさ」
何よ……、どうして女子と二人っきりってシチュなのに。そんなどーでもいい話題するのよっ。
「……ちょ、ちょっと電話」
私はツイッと顔を背けて言う。
「ヘー、朝っぱらから」
「と、友達ん家にっ! 電話しようと思って」
……私。もしかしたら、さっきから歩いてて、ちっとも小原君の顔見てないんじゃないの……?
「公衆電話で、か?」
「そーよ! 何が悪いのよ」
「いや……ケータイ使えばいいじゃん」
む、とますます顔がフキゲンになる私。やっぱり私、小原君の顔見れてない。
「……ケータイ持ってないんだってば」
小さく、それでいて一番すねた声で、それだけ言う。
あ〜! カッコ悪いとこ暴露しちゃったよ……、もう呆れてるよ、小原君。顔見なくたって何にも返して来ないもん。分かるよ。
やっぱり。
私ってぶきっちょなんだな。こうしてさ、いざって時に失敗するから何ででもダメなんだよ。何もかにも、上手く行かないで終わるんだよ。
私のばかぁ……。
そう決め付けて、深く深く、私はうつむく。
けど。
「……なぁんだ、松田もだったのか?」
私を救ったと言っても過言ではない一言。
それに、私がふと顔を上げると、そこには嬉しそうな小原君の笑顔があった。
「……松田……も?」
涙ぐんで、もう泣き出しそう……っていう情けない顔で、ポーッと見上げる私。
「……実を言うとさ。俺も持ってないんだよ」
照れくさそうに、頬の辺りを少し赤くしながら言い出す小原君。
「……ふぇ……小原君……も?」
「そーなんだよな、高校生にもなって。みんなからよく言われるよ」
そして更にポケーッとした顔になる私。
これ、本当? 夢、じゃないの?
小原君が私と同じようにケータイ持ってないなんて。偶然? それにしてはでき過ぎてない? でも何か嬉しい……。
「うちの母さんがさ。高校生になるまでケータイ持つなって。もう高校生だっつーの」
「あ……うちも」
「何だよ、松田ん家もか?」
「……うん。何か色々危ないからって」
「ふーん。じゃ、その危ないって何がだよ」
「……えっ?……え、えっと、確か……迷惑、メール」
「あ、やっぱりか!」
「……小原……君の家でも?」
「そ。心配し過ぎなんだってな。迷惑メールぐらいで何が危ないってさ……」
……何だろう。なんて言うのは何回目か知らないけど。ホントに、どうしちゃったんだろ? 私。
"あったかい"。さっきまで、頭の中でボーッと熱くなっていた『何か』がストンと落ちて、逆に胸の奥が……ホコホコする。丁度、この春の陽射しみたいに。
歩きながら、それが段々確かになって来る。
どうして?
小原君と、一緒に歩いてるから……なのかな。
この時、私はハッキリと思った。小原君と言葉を交わした時、どういう理由か分からないけど気持ちが軽くなった。それは確か。
今の今まで体の中にぐるぐる重たいとぐろを巻いて居座っていた何かが、スウッと消えてしまった。何だか、生まれ変わったみたい。ううん、そう言っても全然おかしくない。
小原君と、彼と一緒にいれたから。
彼と触れ合うことができたから。
それが……理由、なんじゃない?
いつの間にか、その時の私はいつもより多く喋っている気がしていた。何がなしに、気兼ねなく、フレンドリーに。
あれ、私ってこんな喋れたっけ。
そっか。
『自分は喋れない』なんて、気のせいだったのかな。
『ぶきっちょ』『気弱』なんて逃げ口上に甘えて、自分から出もせずすねている。それが、前までの私。閉じ籠っていたのよね? 結局。
……こういう風に表現したらちょっとオーバーかもしれない。
けれども、今はそう余裕で考えてられるくらいに軽い気分で楽しいの。
「……何だかさ」
「?」
「俺達って……似た者同士だな」
小原君が、白い歯を見せてニッと笑ってみせる。
「そ、そんなことないよ」
そんな一言が、私は恥ずかしいようで嬉しいようで。照れ隠しに一歩、小さくスキップした。『ラッキーアイテム』の、百円玉をしっかり握り締めたまま。
何か、私の春が始まったみたい。よく、春は全てが動きだす季節、って言うでしょ。言わない? "気持ち"だって動くのよ。春がもう来てたってね、桜は……確かこれから、なんだよね。ハナヒラク春。そういうことよ。
まぶしくなった朝の光が、一筋の道を、私達二人を照らし出す。
空気もあたたまって来たみたい、肌をサッと撫でて行く風がこの上なく気持ちいい。
私、たった今"恋"しています。
どうも。
今回の小説は、全くもって勢いで書いた小咄です。普通に懐メロのCDを聞いてたらパッと思い付いた話ですが、やはり『勢い』っていけませんね。『勢い』は『ソッコウ性』があり過ぎです。勢いで書けば話は即浮かんで来るんで『即効』ですが、『即行』で効き目が切れる、そういう『ソッコウ』でもあるのですよ。
さて、その『懐メロ』って何なんだ、というと。分かる人は分かるんじゃないでしょうか。『アミ』と来て『小原』と来て『ミスズ』と来て。『ブルースカイ』に『コイン』。ですが元となった曲はもう少し大人っぽそうな感じで、それが書いてみたら何かそうでもないような……。ま、話は一応できたので。
ですので以上の点を考えても、ここまで読んでいただけただけで感謝、なのです。
本文は、曲から感じたイメージを元にしつつ、こういう恋の始まりって、アリかな、という感じで書きました。恋の始まりって、色々ありますよね。色んな所に、色んな形で。読んでいただいた皆さんはどう感じて下さったでしょうか。
ではでは……。




