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「ちょっとじゃま」

「あ、はい、すいません…」


道を歩いていたら、同じ学校の人に怒られちゃった。


「もう、マーシャ。ああいうのにはちゃんと言い返さないと!」

「うーん、あんまりそういうの得意じゃなくてさ…」


リガルディー学院に来てから、一番最初に話してそれから一番の仲良しになった私の友人、アナ・ファリントンが言う。

アナは、人と話したり、強く出られるのが苦手な私の代わりに、人と人とをつないでくれたり、引っ張って行ってくれる頼もしくて、大切なお友達です。


「もう、それでマザーズ家を継げるの?」

「あはは、私結構大失敗しちゃってるから、継承権は下の方なんだよね」

「そんなの関係ないの!まったく、やればできるのにやろうとしないんだから……」


リガルディー学院の制服に身を包んだ、小柄な体で憤慨する。

とても表情豊かで、言うと怒るけどとてもかわいいらしい少女なんだよね。

肩までのショートカットと、そこに着けられたチャームポイントの大きな満月を模したヘアピンが動きに合わせて揺れる。


「あ、そうそう、明日の模擬戦、黒薔薇十字(ローゼン)とだってさ。最初から嫌なところに当たったよねー…」

「そうなの?」」

「マーシャ、いろいろ知らなさすぎ……。いい?黒薔薇十字は、このエリアの今年度のディーヴァ校、つまり今年で一番才能あるやつらが集まってんの!まあ、マーシャに勝てる人なんてそうそういないと思うけど、それでも強敵なんだよ」


強敵……。

それに一番最初に当たっちゃったっていうことか。

運が悪いんだなー。

なんて、他人事みたいにいっていると。


「マーシャも出るんだよ?選抜戦はクラス対クラスの大規模戦だからね」

「……え?」


戦い…いやだな…。

自分()にいる二人の魔神に意識を向けて――やめた。


「まあ、怪我しないように頑張るよ」

「本当に消極的ねー…本当に魔法使い?」


そのことばを、軽く笑ってごまかした。



***



「あー終わった終わったー!半日って素晴らしい!」

「アナ、一応自主訓練時間なんだから、あんまりそういうこと言っちゃだめだよ?」

「いいのいいの、あれは結局怪我しなければいいってことなんだからさ。それより、これから商業区いかない?」

「何か買うの?」

「服と、触媒買おうかなって」


アナの魔法は、触媒を利用した魔法だから、それを買わないといけない。

だから、結構頻繁に商業区に言ってるらしい。

それならついて行ってもまあいいかな。


「でも、あんまり遊んじゃだめだからね!」

「うう、お堅いなぁ…でも、あんまりっていうあたりに優しさを感じる!じゃ、行こう!」


私の腕をとって、元気よく歩き出す。

リガルディー学院は、立地的に南の商業区に近く、簡単に行き来できる。

移動用魔方陣いらないくらいにね。

だから、私たちはあるいて商業区まで行った。



「あー、買った買った!」

「結構買ったね。……服を」


触媒は実際のところ全荷物の三分の一くらいしか買ってない。

やっぱり遊びに来ただけだった…。

まあ、私にとっても気分転換になってよかったけどね。


「でももう夕方だよ。寮の門限すぎちゃうんじゃない?」

「んー、ぎりぎり大丈夫なくらいかな。さあ、ちょっと早歩きで帰ろう!」

「はいはい」


そう言って、赤い夕陽が照っている中を歩く私とアナ。

すると、目の前で珍しい髪の人とすれ違った。

とてもきれいな、真っ白な髪と、透き通るクリアブルーの瞳。

アナよりもさらに小柄な体で、どこか陰のある顔立ち。

静かな、新月をイメージさせる少女だ。

思わず見とれて、立ち止まってしまう。


「マーシャ、どうしたの?門限遅れるよ?」

「え?あ、ごめん、すぐ行く!」


アナに急かされていたから、気づいていなかった。

その少女が、私のことを――そして私の中にいる魔神を見て驚きの表情を浮かべていたことに。



***


がしゃっというおとがしてめがさめる。

となりをみると多脚機械がいた。


「おはようございます、主」

「あー、おはよー……」

「さあ、早く起きてください」

「りぃずぅ……おみず―」

「……赤ん坊ですねー…」

「うー…」


りずにたすけられながらせんめんじょにいってかおをあらって――ちゃんと目が覚めた。


―――俺は低血圧…まあ、心臓も血管もないから、体が生前の行動をトレスしてんだろうが……で寝覚めが悪い。

具体的にいうと、会話が非常にしづらい。

ほかの人の話によると、あー、とかうー、とか、赤ん坊のような返答がおおくなってしまうらしい。

いや、俺自身は寝起きの記憶をほとんど覚えてないから、人伝に聞いた話なんだが。


「相変わらず主の寝起きはひどいですね」

「そんなにか?」


フライパンで焼いたベーコンエッグと、食パンというとても簡単な食事を食べながらリズに聞く。

もう制服も着ており、いつでも出れる状況だ。

今日は確か半日だったな―と日程を思い出しつつ、リズの言葉を聞いた。


「ええ、非常に大きなギャップです。あれがギャップ萌えというやつなんですね、私を萌え殺すおつもりですか?」

「……すまん、何言ってんのかわからねえ」


もしかして、バグだろうか。

自己成長型AIとはいえ、バグが発生しないとは限らないし、今度ヘクターにでも点検させよう。


「今日は半日ですね?」

「あぁ。午前授業が終わったら、装備とかもろもろ回収したり、セッティングしたりする予定だ。あと商業区に行っていろいろと買い物してくる」


明日の模擬戦にそなえて、いくつか自衛用の武器を持ってこないとな。

とはいえ、ガチ戦闘ということにはならないだろう。

黒薔薇十字の学校には異常に強い奴らが何人かいるからな。

むしろ、そいつらから身を守るために使用する可能性の方が高いかも。

そんなことを考えていたら、ピンポーンというインターホンの音が響いてきた。


「はーい」

「あ、朔夜?」

「遥か」


どうでもいいが、こういう風に日常生活で使われるような機械はふつうに魔法使いも使っているのに、電話やら移動手段やらはまったくもって機械を使わないのはなぜなのだろうか。

本当に不思議である。


「そろそろ学校いこうよー」

「あいよ、わかった」


少し早いかなくらいの時間。

たしかに、もう出ても問題ないだろう。


「今出るよ」


そう言って、扉を開けるとすぐ前に遥がいた。

当然か、インターホン押してたんだから。

黒薔薇十字の制服を着ている遥。

制服は黒を基調としたセーラー服で、襟は金色の、蔓が絡み合ったような模様が一筋入っている。また、スカーフではなく紅いネクタイが着けられているのが特徴か。

胸当ては、白い下地に、校章たる黒い薔薇が。

下は、プリーツスカートでこちらは完全に黒一色である。


「……朔夜、なんで学生服なの?」

「え?いや普通だろ」


俺の格好を見てはぁー…という表情を浮かべる遥。

何かおかしい格好しているだろうか。


「たしかに学生服を幼女に着させることはギャップ萌えの定石にして最強だけど!朔夜はやっぱりセーラー服の方が似合うと思います!」

「今日はよくギャップ萌えって聞くな」


流行ってんのか?

それにしてはおれは聞いたことなかったけど。

つか誰が幼女だ。

背が小さいだけだっつの。


「そんなんどうでもいいだろ?実際、黒薔薇十字は服自由のはずだし」

「わかってないね!」

「おう?!」


効果音がつきそうなくらいの勢いで強く反論する遥。

これってそんなに強く反論するようなことか?

遥は俺の手をバシッとつかむと、そのまま部屋の中へずるずるとひきずっていく。

学校に行くんじゃないのか


「さあ、こんなこともあろうかと持ってきておいた予備の制服に着替えさせるよ!」

「そんなことはありえねえよ?」


予備の制服って、ふつう持つものじゃない。

あ、でもヘクターに聞いた話だと学校においておくこととかも稀にあるらしいな。


「――ちょっとまて、俺は着ないぞ」

「だーめ!朔夜はこれを着るの!」


すり足で遥から離れる。

扉の方に向かおうとするも、先回りされた。っち…。

こうなったら窓からの脱出だ。

リズがいるから鍵の心配はいらないし、すでに人では無い俺ならばこの高さから落ちてもダメージにはならない。

とおもって窓に手を触れたら、何か固い感触があった。


「……ん?」


振り返ってみると窓に結界が張ってあった。

結界というのは無属性魔法の接続干渉を利用した魔法で、外界との接続を魔法的および物理的に断絶させるものだ。

遥の、躑躅森家はこういった魔法を大の得意としている一族である。

こんな無駄なことに魔法使ってんじゃねーよ…


「さあ!」

「…やれやれ」


セーラー服を掲げて近寄ってくる遥。

俺は諦めてされるがままになった。





「朔夜、まってぇ…!」

「お前が着せ替えなんてさせてるからこんな時間になってんだろうが」


後ろでぜえはあと息を荒げながら追いかけてくる遥。

最近運動不足だったみたいだからむしろちょうどいいかもしれない。

結局セーラー服を着せられた俺だったが、意図しない形で意趣返しできただろうか。


「ほら、あと少しだ!授業初日から遅れるなんてことするなよ?」

「あ、見捨てないでー!」


自業自得だ。

俺は一足先に転移魔方陣に飛び込み、黒薔薇十字に登校した。



***




チャイム一分前に教室に入る。

遥もぎりぎりで間に合ったようだ。


「……二人とも、仲睦まじいのは結構ですが、余裕を持って登校するように」

「すいません」

「あううー…ごめんなさい」


担任の男教師、城史八弥が俺たちに注意する。

まあさすがに学校二日目で遅れかけるというのは注意するだろう。

とはいえ、俺は実際被害者なのだが、それを見ていない城史に求めるのは酷というものか。

しいて言うならば、時間ぎりぎりだったおかげでいろいろ絡まれずに済んだというのはラッキーだった。


「おはよ、帝釈天」

「おう、おはようございますっと。今日はぎりぎりかい?」

「服の着せ替えのせいでな」

「…服?」


帝釈天の不思議そうな顔は放っておく。

それにしても、こいつは服変わんないんだな。

黄色い袈裟姿のままである。

違うのは、首元に黒い薔薇がモチーフになったロザリオがかけられていることである。

……黒薔薇十字は先ほども言った通り服に厳密な指定はない。

正確には、魔術礼装などといった服に意味を持たせる魔法もあるため指定できないというのが正確なところであるが。

しかし、学校の生徒であると知らせるため、ロザリオの装着は義務づけられている。


「……袈裟姿にそれは全くにあってねえなあ」

「なに、異文化を認めるのも仏教界の在り方の一つだ。そんなこと気にしてたら世界が終わっちまうぜ」


――日本の仏教というのは、海外の神を取り込み、日本なりに加工したものである。

そういうところで育ったものなら、こういう考えを持つということもあるのかもしれない。

なお、問題のあと二人は一応制服を着ていた。

とはいえ、紋羅はかなり改造していたのだが(レイチェルはまじめに着ていた)。

そこでチャイムが鳴り、城史が今日は半日である旨と、少々の連絡事項を通達してSHRが終わった。

この後は授業だ。

やらなくでもわかっていることではあるが、一応の確認ということで魔法の基礎的な学習を進めるらしい。


「朔夜ぁー……足が、足が動かないよー…」

「もっと運動するんだな。そんなんじゃ戦闘時困るぞ」

「戦闘に時は魔法使って強化するもん!」


自分の使いたい魔法を自由に使えて便利なことで。

応用がきくというのは本当に役立つのだな。

俺の魔法は基本的に対魔法とそれなりの物理防御にしか使えないから、うらやましい。

そんな雑談をしていたら、一時限目のチャイムが鳴った。


「――では、今日は魔法理論の復習から始めたいと思います」


そして、担任教諭の城史が授業を開始した。


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