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遥とともに教室に入ると、いくつかの視線を感じた。
……待合室にいたやつらか…。
待合室では俺の魔法を見られている。
普通の天才では解析などできない魔法ではあるが、現状俺の魔法はあれただ一つ。
対策などもされたくはないし、これ以上情報を与えるのは控えるようにしないとな。
「――ぅ」
と思ったら、明らかに無視できないやつらが三人ほどいた……。
「………」
不気味ににこにこしている炎の女、レイチェル。
「…ッチ」
行儀悪く机に脚を乗っけながら、こちらを睨みつけてくる死神、紋羅。
「くくっ」
面白いものを見るかのように、意地悪い笑みを向ける護法十二天筆頭、帝釈天。
「おい、なんでこの三人と一緒なんだよ?!」
「え、なにが?」
つい小声で、しかし迫力を込めて遥に詰め寄る。
聞いてないぞ、こんな状況!
いや、遥に言ってもしょうがないのはわかってるけどさ。
遥は待合室にいなかった。
あの騒動を知らないのだろう。
魔法使いは普通、閉鎖的で、プライドが高い生き物だ。
そんな奴らが、自分に理解できない方法で必殺の一撃を止められた。
それだけで情報の流布をやめるには十分だ。
そして、自分よりも圧倒的に強力な術式を使うものを止めた、というだけで俺を見る目は不審なものを見る目になり、そして警戒し、やがて倒すために情報を秘匿するようになる。
結果、待合室での俺の情報は広がらずに済んだってことなんだろう。
個人的に助かりはしたが、それでも安易に情報を与えてしまったことは悔やまれる。
もしかしたら、この中に”亡霊”がいるかもしれないのだ。
あまり派手なことはしたくない。
「…こう、さ。躑躅森の権力であいつら三人と違うクラスにできたりしないか…?」
その派手なことをしたくない、という目標を(ささやかすぎないか、これ?)達成するためにも、確実に厄介になりそうなあの三人とは早急に離れたい!
俺自身も動かせる権力はあるのだが、先と同じ、派手なことをしたくない、そして”亡霊”に俺の存在を露見させないためにも、そうそう使いたくはない。
……結果、年下の、妹同然の従妹に頼るというのも情けないが。
しかし、俺は使えるものは何でも使うと決めた以上、情けなさを感じていても頼ることをやめたりはしない!
……ひもじゃねぇからな……………?
「んー、あの人たちって……権力者の子供、もしくは本人が権力者でしょ?私たちも無理してここに入れてもらってるわけだし、難しいかな」
「そう……か」
うっわいやだなぁ……。
こいつらと一緒とかどう考えてもトラブル起きんじゃん…。
「――ふぅ」
いや。
グダグダ考えていても意味はない。
そんなことよりも、状況をどう乗り切っていくのかを考えた方がいい。
「俺たちの席は?」
「んーと、そこだね。廊下側の、一番後ろ」
ボードに貼られていた紙を見て、遥が言う。
俺ものぞきこんでみると、確かにその場所に席があった。
「一番後ろか。らっきーだな」
「私はその前だよー」
「あれ?この席って……」
俺の席と書かれた、その隣を見る。
すると、そこには帝釈天の文字。
…帝釈天の隣じゃねぇか。
***
「いよう」
「やぁ、嬢ちゃん」
席に腰を下ろし、帝釈天に挨拶をする。
まずは世間話から、かな。
「おまえ、名前が帝釈天なんだな」
「おう、そうよ。変わった名前だろう?」
「あぁ」
敵意はなし、か。
ただ、待合室で俺の体を見て何かを感じ取ったあたり、油断はできない。
敵ではないにせよ、情報を知られる可能性があるし、ゆくゆくは敵にならないとも言い切れないからな。
警戒警戒っと。
「あの小さい嬢ちゃんとはどんな関係なんだい?」
「あ?……遥のことか。従妹だよ」
「ほう?……躑躅森といえば、昏い森の王の一族だ。そんな娘と従妹とはねぇ」
……躑躅森を知っている、か。
まぁ、躑躅森家はかなり有名な家だ。
護法に名を連ねるこいつが知らないわけもない。
しかし、葛葉は出てこなかったようだな。
公には葛葉と躑躅森に親交があるとは知られていないうえに、葛葉は隠密の一族。
表で活動することが多い者たちにはあまり知られていない。
まぁ、知られていたところで、もう俺には関係ないことだけどな。
「朔夜ぁー。お昼どうする?……あ、帝釈天さん、おはようございます」
「躑躅森次期当主様に挨拶されるとは、うれしいもんですなぁ」
「お世辞はいいですよー」
「あ、そう?」
「はい。ここで経歴なんて関係ない…とは言い切れませんけど、まぁ私は意味ないと思ってますし、何よりも年下ですしねー」
遥は速攻で仲良くなったようである。
コミュニケーション能力高いからなぁ、こいつ。
俺よりはずっと。
それに、ほかの二人みたいに、敵意むき出しってわけでもない帝釈天なら、仲良くもなりやすいだろう。
むしろ天才同士いいかもしれない。
……問題はあと二人か。
「…席が離れててよかった」
いや、ほんとに。
***
「どうも、こんにちわ。担任教師の城史八弥といいます」
その後、ホームルームが始まった。
日本人の教諭とは珍しいな。
魔法先進国とはいえ……いや、だからこそ、魔法を多く確立させてきた国家は魔法使いを外の国へと出したがらない。
当たり前だ。
魔法使いは一人で一個の軍に相当するものもいる。
そして、力を持つがゆえに敵対するものも多い。
そんな状態で、ふとした拍子に殺されでもしたら、一個の軍を失うことと同価。
そんなわけで、魔法使いは基本外には出ないのだ。
それゆえに、この”エデンの園”という場所は特異なのである。
様々な国から人材が集まっているうえに、戦闘による魔法交流も推奨しているのだから。
「……ということで、今日は授業はありません。明日からは授業が始まりますので、道具などを忘れないように。以上です。……では、遥さん、挨拶を」
「はーい!きりーつ、れーい、ありがとございましたー」
ありがとうございましたー、とほかの生徒からのあいさつも続き、八弥先生は去って行った。
…あの先生、相当強いな。
足運びに無駄がない。
魔法だけではなく、格闘術などにも精通しているのか、それとも、魔法が格闘術に特化しているのか。
どちらにしても、倒すのには苦労するだろう。
「……ほんとに、ここには優秀な人がそろうんだな」
本当に、俺がここにいるのは場違いだ。
「聞きたいことがある」
「………さっさと帰っておくんだった……」
今日は昼まで。
そのあとは自由なわけで。
考え事なんかしてる暇あったらさっさと帰ってりゃよかった…。
目線を上にあげると、そこには紋羅がいた。
朝よりは攻撃的な雰囲気は収まっているものの、相変わらずこちらを睨みつけているのは同じだ。
…もったいない。
小さな背丈…いや、俺の方が小さいが、それはともかく…に、整った顔立ち。
暗い雰囲気がそれにさらにアクセントをかけている。
もうちょっと攻撃性が少なかったら、引く手あまただろうに…。
「私も聞きたいことがあるのです。そこの死神、退きなさい」
「……ッチ、黙れ」
問題のもう一人もご到着でーす。
……めんどくさいことになるな、これは。
「あ、朔夜。お昼食べに行かない?」
「あぁ、いいぞ」
二人が言い争うしている間に、俺たちはさっさと帰ってしまうことにした。
「ですから――」
「貴様こそ…」「です――の」
「――ッチ」
あいつら、仲いいんじゃねぇかなぁ……。
言い争ってる二人を横目で見ながら、俺と遥は教室を後にした。
久しぶりなのと眠気で文変かも……。
更新頑張ります!