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入学式までにはまだ時間がある。

講堂の横に控え室があったはずだからそこで一休みするとしますかね。


「…うっ」

入ってすぐにわかった。

ここは魔境だ……。


さまざまな人が魔法を使っていて、濃い魔力で満ち溢れている。

これが制御されてない状態だったら妖怪とか魔物とか発生し放題だろうな。


魔物などは、制御されてない地球から溢れている魔力から生まれる形而上生物。魔力でできた肉体を持つ獣の仲間である。

それがさらに力を得ると、知性なども得て龍や吸血鬼になったりするわけだが…。

まぁ、今はそんなことどうでもいいな。


とりあえず、目についたのは三人。

鮮やかな金髪に青色の目を持つ、ヨーロッパ系の少女。


暖房の効いたこの部屋のなかに居ながらも、真っ黒な衣服を異常なほど着こんだ黒目黒髪の少女。


金髪――といっても、先の少女と違いくすんだ様な色――に、金色の瞳の、袈裟姿の大男。


俺の唯一( ・ ・)使える魔法をひそかに起動し、三人を見る。

……やはりな。

この三人は、体から放出している魔力量が半端じゃない。


関わると厄介なことになりそうだ。

あまり目線を合わせないようにしておこう。


そそくさと三人から離れた位置に座る。

まぁ、これで絡まれることはないだろうさ。


壁掛け時計をみると、入学式開始までにまだ三十分くらいあった。

少し寝るとするかね。




「――ですって!」

       「事実だろう……」

   「私への宣戦布告ということでよろしいのですね?」

           「やれるものならやってみろ、この売国奴め……」



「んあ?」

何か言い争うような声で目が覚めた。

とたん、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。


「え、なに、なに?」


皆の視線の先を見てみると、二人の少女が一色触発の気配を見せていた。

それも、先ほど関わりたくないと思った三人のうちの、二人( ・ ・)

ヨーロッパ風と黒いのだ。


皆が驚いたのは、あいつらが放出した魔力量にだろう。

ここに来るのは才能にあふれている奴らばかりだが、そいつらでさえ怖れ羨むほどの魔力を彼女たちは放出している……。



―――しかし、彼女たちはこれからさらに驚くべきことをして見せた。


ヨーロッパ風の少女の手に、紅蓮色の杖が現れる。

それと同時に、黒い少女の手のなかに、漆黒の鎌が現れる。


「―――おいおい、うそだろ?」

紅蓮の杖に漆黒の鎌、あんなもん魔法で解析しなくても理解できる。

火属性単体最上位魔法、灼熱の滅杖(レーヴァンテイン)

闇属性単体最上位魔法、死神(グリムリッパー)


世界を滅ぼした九つの鍵の杖(スルトの武器)と、西洋で名だたる神である死神(タナトス)の権威を象徴した、最上位( ・ ・ ・)魔法……!!


たがいに、神の力を再現したとされる魔法だ。

そんなもの、ぶつけたら周りにどんな被害が来るのかわかってんのか、こいつら!


「あいつはどこだ!」

この騒ぎを唯一止められそうな、関わりたくないもう一人を探す。

――いた!


「おい、あんたあれ止められないのか!」

立ち上がり、次々に防御魔法を展開し、また逃げていく生徒をかき分けて駆け寄っていく。


大男はおれに気づくと、

「お?嬢ちゃん、面白い身体してるねぇ」

そう言い放った。


―――――なに?


「おまえ、まさか…?」

気づいた?

俺の身体の秘密に?


魔力( ・ ・)がない。なぜそんな娘がここにいるのかね?」

――いや、完全ではない。


「また別の才能があるんだよ」

適当なほらをついてなぁなぁにしてしまおう。

これ以上みられるのは、危険だ。


それに、こいつにはこの騒ぎを抑える気はないらしい。

ニヤニヤ笑いながら席に座ってるのがいい証拠だ。


「…くそ」


これだから才能あるやつは――!

「少しは――」


振り返ると、二人の少女は今にも互いの得物をぶつけようとしていた。


「周りの迷惑を――」


そうはさせられない。

俺は死ぬわけにはいかないし、周りの人間に被害が出るのもいただけない。

理不尽に何かが奪われるのは、俺は大っ嫌いなんだよ!


「考えやがれ――!!」


二人の間に走りながら、俺の唯一の魔法を起動させる。

その魔法は、俺の身体から発生し、蒼く透き通った、まるでPCのウインドウのような形状を構成する。


「ッぐ」

俺の腕のあたりからジジッというノイズのような音と、ドット欠けしたかのような欠落が一瞬だけ生じた。


俺独自の無系統魔法”(ウインドウズ)

二人の間に入った後、二つ生み出した(それ)を拡大させ、それぞれ灼熱の滅杖と死神の前に展開する。

そして、接触した瞬間――。



―――――解析(アクセス)開始(スタート)

魔法を構成する術式が一気に頭の中に流れ込んでくる。

系統、構成、式の数、魔力量etc……。

全解析完了。


――対抗魔法術式(アンチマジック)構築開始。

反属性魔法……効果なし。

術式構成の変更による魔法の自壊を推奨。


問題提起……魔力。

二つの術式の余剰魔力では対抗魔法の術式に足りない。

問題提起……術式の緻密さ。

二つの術式の構成は非常に緻密。対抗魔法による自壊に若干の時間経過が必要。



だめだ、どうしてもエラーが起こる(しっぱいする)

魔力、魔力が足りない。


瞬間、目の前を光が奔った。

「嬢ちゃん、いいもん見せてもらったぞ。そのお礼だ、受け取れ!」

袈裟姿の大男――!


ったく、勝手に魔法を見んなっつの。

しかし、助かったのは事実だ。


飛んできた光の正体は、おおざっぱに術式が構成された、雷属性単体最上位魔法、金剛杵(ヴァジュラ)

しかし、術式がぐちゃぐちゃなこの魔法はぎりぎり魔法の体を成しているだけで威力も何もない。

あるのは、ただ膨大な余剰魔力。


しかし、俺はそれを待っていた――!



――エラー解決。

魔力問題解消。

時間経過……ウインドウをさらに二重展開し、二段構えで術式崩壊を起こすことで解決させます。


機械音に近い音を立てて再び窓が展開する。

それと同時に、また俺の肉体にノイズとドット欠けが発生する。


「崩壊術式、開始。一回落ち着けよアホ共……」


灼熱の滅杖と死神が、二段目の窓に接触した瞬間、無数の透明なブロックに変化し消えていく。


そして、二つの魔法がブロック化した瞬間、俺の窓も耐久を超えて崩壊し、

―――ピシッ。

音を立てて右腕が切り裂かれた。



「あっぶねぇ……」

金剛杵がなかったら俺死んでたぞ、あれ……。

と、なにやらずいぶん静かだな?


顔を上げると、控え室魔法使いが俺の方をじっと見ていた。

そして、魔法使いたちの心の声を、黒い少女が言葉にする。



「お前……なにをした( ・ ・ ・ ・ ・)?」


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