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ざわざわと人があふれる学校区をひたすらに歩いていく。

上を見ればほかの生徒は箒や絨毯などを使って自由に飛んでいるようだ。

学校区は、ほかの区に比べて魔法の使用制限が緩いため、普通に空を飛んでいても問題視されることはない。

これが商業区や居住区になると、注意されることもあるようだ。

それにしても、自由に飛べないというのはなかなか不便である――箒も絨毯も使わずに空を自由に駆けるというのも、楽しいものなのだが。

まあ、それを魔法でやっていたのはとうに昔のこと。

今の俺では自力で飛ぶことなどできはしない。


「問題は、学校区は転移魔方陣が少ないってことだ……」


先ほど言ったように、学校区は魔法の使用制限が緩く、空を自由に飛べる。

《エデンの園》にいるような連中は基本的に空を飛ぶことができるものたちばかりで、俺のように魔法を使っての高速移動ができないものはほぼいない。

数少ないできない人間も、そもそも学校区に立ち寄らないために、学校区は転移魔方陣の数が非常に少ないのだ。

さらに、この《エデンの園》に存在している、魔力を注ぐことで動く移動用の魔導列車に至っては一機たりとも配備されていないという状況。

俺にとっては、とても動きづらいのである、この場所は。

太陽を見るとすでに傾きかけ。夕方である。

ということは、もう商業区の手前か。

少ない転移魔方陣を何とか駆使して、今のところは予定の時間には間に合っている。


「………ん?あれは」


歩いてくる二人組。

片方は見覚えのない顔だが、もう片方はとても見覚えのある顔だった。

見たのは昨日。まあ、直接ではなく写真の中だが、要注意人物として一応名をあげておいた人間だ。

こんなところで直接会うことになるとは思わなかったが。


「マーシャ・リドル・マザーズ」


マグレガー・メイザースの子孫。

魔神を率いるモノ。

そして――欠陥品。

だが、おかしい(・・・・)

俺の目には、マーシャの姿が普通に映っている。

事前情報では、欠陥品とされたものが、普通の魔力………いや、普通よりもずっと強大な魔力を持っている……?その魔力は、法外であり――――俺のクラスにいる三人の天才魔法使いの持つ魔力を合わせてすら足りないほどだ。

さらに、魔法を使うにあたって考えられる障害なども一切感知できない。

俺は、魔力を判別したり魔法を見破ることにかけては専門的だと自負している。

例えば、今マーシャがつかっている、おそらくその膨大な魔力量を隠すための隠ぺい魔法を軽く見破れるほどに。

だがしかし、その俺が一切何も異常を感知できないというのは――。


「”窓”、起動………いけ」


ふわっと、注意してみていなければわからないほど小さな粒子のようなものが、俺の髪から生まれる。

その正体は、ごくごく小さな、俺の魔法である”窓”。

もちろん、ここまで小さければ内部、精神的なものである術式記述はともかくとしても、小さくそして脆いため、普通の魔法に対してすら対抗魔法術式を作ることなどできはしない。

だが、俺の感覚器の延長線上にあるこの”窓”は、粒子ほどに小さくてもその情報を俺に伝えることができる。

普通に窓を起動して魔力を判別するだけではまだ足りない。

もっと、奥のものを見なければ、このマーシャに抱いた違和感は払拭できないだろう。


「……だよ。……限……ちゃう」


マーシャから少し離れたところを歩き、通り過ぎざま、”窓”を接触させる。

小さなちいさな窓は、マーシャと接触し、その魔力の質、魔術の種類、そして――中に存在している魔神の存在を見つけ出した。

俺とマーシャ、たがいに歩き出して五歩。離れて十歩の距離。

こんな距離で思いっきり振り返れば不審に思われることを分かっていながら……俺は振り返らざるを得なかった。

その、”天才”という言葉が当てはまるにふさわしい少女を見るために――。




***




「……なにが、欠陥品だよ」


そも魔神とは――。

膨大な魔力を持って組み上げられる、魔力でできた生き物だ。

その本体は魔界と呼ばれる、このセカイとは違った次元に存在している生物たちである。

魔力によってつくられているため、このセカイで消滅しても決して滅ぶことはなく、再度召喚を行えばまた魔界から現れる。

この魔神召喚の魔法――これは、できるものがとても限られる魔法であることで有名だ。

なぜかというと――召喚した魔神が、認めたものにしか従わないからである。

魔神は、このセカイの外の生命体。

強大な力を持ち、魔法使いをすら上回る魔力の量、それぞれの魔神が一つだけ持つ特殊能力、脅威の生命力と、何度でも召喚に答えることができる、不滅さ。

これらを持ち合わせる魔神を無条件にしたがわせることができる存在は限られているのだ。

魔神を使役する条件は、魔神に己を認めさせること。それには、二つの段階と二つの方法があるという。

まず、一つ目の条件として、まず魔神が召喚に応じるかどうか。魔神を呼ぶのは魔法使いだが、その魔法使いが魔神と合わなかったりすれば、魔神は召喚に答えず、現れることはない。

そして、二つ目が従えることである。

魔神をしたがわせる条件は、血筋ともう一つ、力ずくだ。

ありとあらゆる魔神は、かつて並み居る無敵の魔人たちを一人で調服して見せたソロモン王の血筋に無条件でしたがうという盟約を持つ。マグレガー・メイザースは、正確にはソロモン王の血筋ではないが、ソロモンの魔術を研究し尽くし、魔神に血筋を認めさせた猛者だ。

ゆえに、マグレガー・メイザースの子孫たちは魔神を無条件でしたがわせることができ――これが魔神使役の一族といわれる一番の原因なのである。

魔神は、力ずくでも使役することができるが、そのためには、この《エデンの園》にいるような魔法使いでも一柱従わせるのに十人以上でかからなければいけない。

あまりにも不確実で非効率であり、さらに、魔神の中でも七つの大罪になぞらえられる最高位の魔神たちは事実上一族以外は使役ができないとまで言われているのである。

故に、魔神の使役はメイザースの血族に許された特権であり――それを失敗した今代のマザーズ家の子は、欠陥品と呼ばれることとなった。


「――だが、その実態は違った」


魔神は、召喚と維持に膨大な魔力を使う。

魔神自体も魔力を持っているが、それは魔神のものであり、魔神だけが使用する。

召喚者はそれ以外に、魔神維持のための魔力を使用しなければいけないのだ。

いかにマザーズ家の人間――メイザースの子孫だろうが、その前提条件は変わらない。

すべての魔神を使役できる権利を持っているとしても、すべての魔神を同時に使役する魔力があるわけではない。

ゆえにマザーズ家は通常時は魔神を召喚しておらず、その都度ごとに魔神を召喚しなければいけないため、一瞬での魔法の打ち合いには出遅れる。

そこが魔神使役の一族の唯一の弱点でもあった。

だが(・・)、今代のマザーズの当主は、それを軽く覆した。

マーシャの中には、一瞬で戦闘態勢に入れる待機状態の魔神が、二柱存在していた――それはつまり、魔神の維持を日常の生活に取り入れることができるほどの魔力量を持っていることと同儀。

さらに、その魔神は――大罪になぞられられる魔神、アスタロシュとレヴィアタン。

維持に膨大な魔力を使うそれらの魔神を、魔法を使わない待機状態とはいえ、二柱同時だと……?これを天才を言わずしてなんというか。

マザーズ家の失敗の逸話を調べなければいけない。

なぜ、欠陥品などと間違われているのかを。

スマホを取り出す。


「はい、主。今日は連絡が多いですね」

「はっ、ここはとんだ化け物ばかりみたいだぞ、リズ」

「……?それはいったい――」

「マザーズ家の、魔神使役の試練。マーシャの時のそれを可能な限り正確に調べ上げてくれ。法外な化け物の可能性が出てきた」

「……欠陥品がマザーズの策略と?」

「いや、もしかしたらマザーズの家すらも勘違いをしてるかもしれない。とにかく、早くだ」

「かしこまりました。すぐに手配します」


その言葉を最後に通話が切れる。

さて――情報が怖いな、まったく……。



***


太陽はとうに沈み、頭上には月が昇っている。

もう完全に夜といえるだろう。俺はやっと取引場所へとたどり着いた。

商業区は転移魔方陣が学校区よりは多く、魔導列車も走っているため学校区を歩いていた時よりは早く移動できたが、それでも太陽が沈むには十分すぎる時間であった。


「……ここだな」


頭に入れた港の地図を思い浮かべ、その入り口に立つ。

立ち入り禁止の看板や、車止めの柱に申し訳程度に結び付けられた、錆だらけの鎖を避けて港の中へと入っていく。

港といいつつ実際は建造の途中で放棄された場所。

埠頭などの建設は終わっており、船が繋留する物揚場などがあるが――荷物を実際に運ぶガントリークレーンなどは存在していない。

それとは別に、広大な港の中には、多数のコンテナが無造作に置かれているが、風雨にさらされて赤茶色に錆びついていた。

俺が向かう場所は、その中の埠頭である。


「……ここらへんだな」


埠頭の下の波を見て、揺れがおかしいところを見つける。

あたりを付けてそこに立つと、じりじりという音を立ててそこに船が現れた。


魔導戦艦ヴァルキュリア、《エデンの園》への逗留まであと少しです、主。明後日には装備の運搬および射出準備も伴うかと」

「わかった。遥が手配してくれた装備もそろそろ届くころだ。これで――死にはしないだろう」


勝てるなどとは明言できないあたり、悲しくもあるが。


「とりあえず高速移動ように高速艦ブリュンヒルデを向かわせました。迷彩機能などを求めるならば最高かと」

「いい判断だな。警戒に越したことはない」


通話状態になったスマホからリズの声が聞こえる。

音が消え、完全に姿を現した船は、丸い紡錘形をもととしたのっぺりしたもので、船と呼べるかといったら、まぁ呼べない――そんな形をしている。

これは水中を早く静かに進めるように設計されているためだ。

燃料はガソリンと魔力をどちらでも運用可能なようにしてある。

魔力は、持ちがいいが、この《エデンの園》に接近させるには探知される恐れがあり危険なので、今回は積まずに、ガソリンだけでここまで運んだようである。

すうっとスリットが入り、紡錘形の後ろが開かれる。

そこには、直系一mほどの丸いボールのような機械や、半透明の銃身を持った中折れ式の単発銃、それから十字型をしたイヤリングがあった。

それぞれ、玫瑰、四葩、隠れ兜(typeM)である。


「隠れ兜のオリジナルを使わなくてよかったのですか?」

「さすがにコストのことを考えれば、不用意には使えない。実際、隠れ兜のオリジナルが必要になるほどの隠密行動はまだ予定にはないしな」


それよりも、俺自身の秘密を隠蔽する方が大事である。


「玫瑰には熱光学迷彩をセットしております。魔力探知や音までは隠せませんのであしからず」

「わかった。ありがとな」

「この程度なら、いつでも――」


装備を埠頭に搬入すると、《ブリュンヒルデ》は後部を閉じ、ジジッという音を姿が見えなくなっていった。

そして、完全に姿が消えた後、ボゴンッという音を立てて海が窪み――小さな水泡をあげながら去っていった。

本体たる《ヴァルキュリア》のもとへ帰って行ったのだろう。


「……さて」


玫瑰を見やると、その白いボディの周囲に”窓”が展開、起動準備を始めていた。

――この”窓”は、玫瑰を作った時に俺が仕込んでおいたものだ。

俺の”窓”は、使用するときに俺の身体を削っていく……体をリソース(もと)にして使用しているのだが、人間では無い俺の身体は、放っておけば自己修復が進む。

不便だが、便利な体だよ、まったく。

なお、初日に魔法を防いだ際に俺の右腕が破損したのは、そのためである。

破損が完全に治るまでにはもう少しかかりそうだけどな。


「―――起動完了です。これより仮の身体としてこの玫瑰を使用します」

「玫瑰を完全に使いこなせるのはAIであるお前だけだ。頼んだぞ」

「――お任せあれ」


全方向に多重展開した”窓”が、一斉に閉じる。

魔術的な起動プロセスを組み上げ終え、その役割を終えたためだ。

そして、最後に一つ、大きな”窓”が立ち上がる。



――――Vengeance is mine!!!!



『復讐するは、我にあり』………その窓にはそう書かれていた。



会話すくねー(自業自得。

そろそろ他キャラとの絡みを増やしたいですね。

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