人型の竜
竜が神殿に来てから、三日目。
竜の言葉が脳に直接来るので、その時に名前を聞くと『……セフィロス』と教えてくれた。
声からして雄ということがまるわかりなので、でしょうね、と言う感じだったオーレリアだった。
ところで。
……セフィロスってどっかで聞いたことが。
気のせいかと思いつつオーレリアは彼を見上げる。
「ね? ちょっと本を取りに行くだけだから」
『………………』
「こら。放しなさいっ」
『……………………』
「すぐ戻ってくるから!」
『…………………………』
この会話(?)も何度目か分からないオーレリアは、叫びつつため息をついた。
───今の彼女の状況を説明しよう。
オーレリアはいつもの巫女装束、竜は巨大な体のまま。
だがオーレリアは身動きができないでいて、その華奢な身体をよじっている。
何故ならば、竜の大きな手が器用にオーレリアを傷つけないように抱え込んでいるからだ。
だからオーレリアは、竜───セフィロスに離せ! と叫んでいるのである。
『『『……………………』』』
周りにいる精霊たちと獣たちが、困惑の中に呆れの感情も入れて彼女たちを見ていた。
『姫さま、助けた方がいいのかな』
と思いつつも傍観する周り。
……当事者である二人は全く気づいていないが。
「……」
ここは強行突破したほうが良かったらしい。
セフィロスを見上げると、そっと頭を撫で──いきなりのことで動けない隙にテレポートでセフィロスの手から逃れる。
そして本を取りに、自室へと向かった。
一人呆然としているセフィロスと、その手際に感動している精霊と獣たちを置いて。
所変わってここはオーレリアの自室。
いくつもある本棚には、書庫から取ってきた膨大なる本がところ狭しと並んでいる。
タイムリミットは5分以内。オーバーするとセフィロスが暴れるのでさっさと選ばなければならない。
「えっと……これとこれと……」
と、適当に本を選び、両腕に抱える。
そして選び終わった彼女は自室のドアへと向かい、出ようとしたところでふとあることに気づいた。
「……竜って、大抵は人型になれるんじゃ?」
ということである。
魔力が高かろうが低かろうが、大抵の竜族は人型になれるはずだからであり、人と馴染むには人型になる他あるまい。
しかも、あれだけの身体と魔力の大きさから考えれば、人型になるのは簡単だろう。
だが、セフィロスは三日間しか一緒にいなかったが一度も人型をとっていない。
少なからず魔力の消費量が少ないから、と言って人型をとるものなのだが。
考えても分からないので、直接本人に聞くことにした。
「……。うん。セフィロスに聞いてみよう」
そう呟くと、オーレリアはテレポートで大広間に向かった。
◇
一方でセフィロスは、オーレリアに逃げられたためか不機嫌オーラを隠すことなく振り撒いていた。
『オーレリアぁ~』
『姫……』
『お願いです、姫……早く来てください……』
『怖いです…………』
精霊たちや獣たちの叫びを知ったのか、良いタイミングで彼女が戻ってきた。
『『『『姫……!』』』』
安堵したように笑う精霊&獣たち。
それを見た彼女が、怪訝そうにセフィロスを見た。と、すぐに「ああ……」と納得がいった顔になる。
「セフィロス……その不機嫌オーラ、やめようか」
呆れた顔のオーレリアに、セフィロスがふっと周りの空気を緩めた。
そのことにため息をつきつつ苦笑すると、気になっていたことを話す。
「……そういえば。セフィロス、あなた人型になれる?」
『…………?』
セフィロスの怪訝そうな気配を感じて、オーレリアが理由を説明した。
「いや、大抵の竜は魔力の消費量を抑えるために人型になるはずだし、セフィロスはまだ三日目だけど、人型になる気配全くないし」
と言うと、セフィロスが答えた。
「……これか?」
「…………」
うん。まばたきの間に人型になったわよ、この人。
……一瞬の後には見目麗しい青年の姿をとっていたセフィロスである。
少し驚きつつも、その威圧感に圧倒されたオーレリアはため息をついた。
「……うん。人型になれるんだし、部屋を用意しましょうか」
「……」
そう言ったとたんに、不機嫌になるセフィロスはもう総無視だ。
ああ……また心配事が増えたわ……とぼやくオーレリアだった。
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