天空龍、降臨
「……」
もはや、この戦場を支配しているのは、人ならざるものたちだった。
人知を超え、属性すらも飛び越えた───人ならざるものたちの共演は、滅多に見られることのないものである。
「……ではまた、迎えに来る」
「ええ……」
天帝がそう言い、彼らの姫が頷く。
それを見た彼らが、スッ……と消えていった。
────残ったのはもちろん。
「オーレリア……」
「……アリア」
そう呟いたのは、双方の国王───。
背を向けているデュカリアスたちを振り返り、彼女は仄かに笑った。
儚くて、今にも消えそうな笑みを───浮かべて。
そして、朗々たる声で詠う。
「天地開闢より在りし天空の龍よ
我は願う、忘るる事なき契約のもと
大空を舞いし天の龍たちよ
今一度の恵みを────」
「────天空龍、召喚」
彼女が紡ぎ終えた、そのとき。
真っ赤に染まった大地に、巨大な魔方陣が描かれる。
複雑な幾何学模様を描いた魔方陣に込められた神通力が、解き放たれた。
「────神話っ、そのものだな……っ」
大地が光に包まれるなか、自棄になったように言葉を吐いたのはジースセント王国国王、サーレルバード。
そして、溢れ出す光から逃げるように、みなに指示を出す。
「……っ、アリア!」
視界が光に喰われていくのも気にせず、サーレルバードは愛しい女性の名を呼んだ。
───だが。
ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!
という、召喚された天空龍たちの咆哮で掻き消される。
「天空龍……」
ハッと天を見上げた人々が、茫然と呟いた。
『大空を舞う天空龍
我が母にして、すべての母なる姫の護り人である』
荘厳な声が辺りに響き、人間たちに威厳を示す。
視界が開けた───と人々が思ったとき、すぐ天空龍を召喚した本人がいる場所を見て──。
『か弱き人間よ、汝らがしたことを姫は気に病んでおられる』
────息を飲んだ。
天を舞う天空龍たちよりひときわ大きい天空龍が、オーレリアを守るようにそこにいたのだ。
そして、言葉を発していた龍もこの龍と気づく。
──神話の中で、似たような物語があったからである。その時も、言葉を発していたのは、姫を守っていた龍だった────。
『人間たちよ、姫は戦争が何よりも苦手とされる。
───そのことを承知しておくように』
荘厳なる声がこの場を支配する。
姫を守る龍たちが、天空龍の長の声に反応して咆哮を上げる。
当の姫は、ただただ。
「……」
無表情に、なんの感情も浮かばない瞳で、前を見ているだけ────。
「オーレリア……」
みな、気がついていた。
既に。
けれど気づかないフリをしていた。
そうであってほしくなかった。
願っていた。
違う、と。
違うのだ、と信じたかった。
だがそうでなければ、今までの行動に辻褄が合わなくなる。
認めてしまえば、辻褄が合う。
だから、
認めざるを得なかった。
──────彼女が、天空の姫巫女であることを。
創造主であることを。