王妃候補たちは
戦争が始まって何時間か経過した頃、とある屋敷にて───。
「わたくし、あの方が気になりますわ……」
「……オーレリア様ですわね」
「ええ……戦争に巻き込まれていないか不安ですの」
「城にもいらっしゃらないことですし、何よりもご実家がフェアリスト家でいらっしゃいますものね……」
「……どうしましょう」
───王妃候補たちが密かに集まって話していた。
戦争があるから、と国王に言われ、実家に帰されたものの何かできることはないか、と密かに集まったのだ。
……プライドも、身分もかなぐり捨てて。
日頃の嫉妬も、探り会いも何もかも、置いて。
「フェアリスト家のお屋敷ですが……、どこにあるか定かではございません。噂では、森の中にあるのだとかなんだとか……」
────もちろん、消えてしまった王妃候補の一人のことを調べることも忘れてはいない。
「一説では、焼き払われてしまったということも……」
「……どちらにしろ、お屋敷の件は引き下げるしかありませんわね」
「みたいですわね」
「……あの方は、帰る場所がないのですね……」
最後の一言が、やけに大きく響いた。
帰る場所がある、ということが当たり前だった彼女達にとって、オーレリアのことはあまりにも哀しかったのだ。
そんな時、
「……陛下は、あの方を愛しておられるのですね」
と、呟いたユリフェッカ。
その内容にみなが驚いたように反応を示す。
「……どういうことですの?」
「お分かりになられませんか。陛下が一番関わっていらっしゃったのは、お側におかれていたのは、オーレリア様ですのよ」
そう言われて、初めて気がつく。
確かに、常に国王の傍にいたのはオーレリア。
一番関わっていたのも、オーレリア──。
「……言われてみれば、そうですわね」
寂しげに、呟いた言葉。
けれど、薄々わかってはいたのだ。
彼女らが敬愛する国王が、神秘的で儚げな美貌の姫に心が傾きかけていることを。
それを認められなくて、逃げていただけ───。
──『陛下に選ばれるよう、行動せよ』
いつだって、親から言われるこの言葉を意識していた。
けれど、同時に飽き飽きしていたのも事実だ。
更なる権力を求めて、愛する娘でさえも利用する親の心を理解することが出来なかった。
だから、心のどこかでほっとしていたのかもしれない。
「……わたくし、あの方は好きですわ」
突然そう切り出したのは、ラリア。
「だって、あの方……お優しいのですもの」
そう言った時。
部屋が水を打ったように静まり返った。
「……っ!?」
そして、みなの顔に驚愕が走る。
「……」
声が出せないのだ。
先程までは出せていた声が、出ないのである。
何度か試して、無駄だと知った彼女達。
「「「「……」」」」
さっと目だけで会話をし、素早く屋敷を出た。
───原因は、この屋敷であろうと思って。
屋敷を出た彼女達は、また後日、と頷いてそれぞれの家に帰っていった。
──────ずっと話していた屋敷が、話題にのぼったフェアリスト家の屋敷であることに気づかずに。




