冥王姫-めいおうき-
───この世を形成する全てのもの。
それを造り出したのは────創造主である。
創造主は自ら造り出した箱庭に入り、世界の調和を、秩序を守っているのだと言う。
大地の調和が乱れたとき、自ら生贄となり、その身をもって鎮めるのだと言うことも。
創造主は別名、天空の姫巫女と呼ばれるが、今ではそちらの名前で呼ばれることが多い。
また、母なる大地に例え、『大地の巫女』と言われることも多々ある。
───全てを見守り、優しく正しい道を導き出す。
慈母として崇め奉られ、全能神として信仰される。
母である彼女を棄てるなど、許されることではない。
それが、全世界共通の一般常識である。
☆
天界を統べる天帝、全世界の魔界の長を統治する大魔王────は、創造主と同じ祖神である。
天帝はあらゆる全てのものの秩序を司り、また、創造主の子である人間や動物たちに助言を託す役目を担う。
魔王は闇を司り、魔に属する者たちを統べる。
更に、世界の中心部に存在する混沌を封じる役目を担う。
つまり───天帝は静、魔王は動を司っているのだ。
天と魔は相対するふたつの属性であるので、本来ならば気が合うことがな───
「……アリアに会いたい……」
「同じく」
「いっそ迎えに行こうか」
「やっぱりノーフェストか」
「当たり前だ、あの世界はあいつのためだけに造った世界だからな」
「……だろうな」
「行くか?」
「……夢渡りしなくていいのか……?」
「……、……忘れてた」
「……。お前絶対アリアのこととなると視野狭くなるよな」
「お前に言われたくはないぞ……」
「……」
──いのだが、彼女に関してだけは気が合うのだ。
愛しているからこそ。
天帝も魔王も、お互いがそのことを知っている。
だが、当の本人だけが気づいていない。
──どれだけ鈍いのか。
何度そう思ったことか分からないが、その鈍さによって救われたこともあるので目を瞑っている。
☆
───して、話は戻るが、創造主が冥王姫と呼ばれている所以について。
創造主はものを造り出したとき、またその分何かを消滅させねばならないと言う役目を担う。
つまり、生死を司るのである。
例えば人が死に、冥府に行くとしよう。
そこには創造主がいて、楽園の死者都市か償い場所か───裁判を行うのだ。
それこそ公正に。平等に。
傍には冥府の女王セレティアが見守り、死者の魂たちを導く。
だから、冥王姫と呼ばれることがあるのだ。
戦場での召喚呪文は、大抵が冥王姫であることが多い。
召喚するには長々とした召喚呪文が必要となるが、かなり切羽詰まった状況であれば「冥王姫」だけで呼び出すことが可能である。
だが、それを成し遂げることができるのは、呼び出す者の強い願いが原動力となる。
強い願いや祈りが、神々を呼び出す原動力なのだ。
それが出来たことはたった一度しかないと言う。
───そう。
先の大戦であった。




