ジースセント王国
短いです。
「陛下、我々が戦争を仕掛けたことをお忘れなきよう……」
「分かっている」
「……では、失礼いたします」
「……」
ジースセント王国、王都。
その王城のとある部屋で、先程まで会議が行われていた。
ジースセント王国の王は年若く、賢王として名を馳せていたのだが……いつも平和を望んでいた王が急に隣国に戦争を仕掛けたことで、民は混乱しつつも受け入れていた。
何か思惑があるのだろう、そう思って皆行動している。
「……アリア」
一人になった部屋。
若き王の息づかいのみが聞こえるこの空間で、王がぽつり、と誰かの名を呟いた。
低く、感情を押し殺した無機質な声。
それはひそりと大気に飲み込まれていった。
サーレルバード・ユーレル・ジースセント。
ジースセント王国の王であり、賢王と呼ばれる彼は紫銀の瞳に藍色の髪を持つ美丈夫である。
威圧的な存在感を見せつける美しさではなく、ただそこに佇む、静謐な美しさ。
齢23にして、その優秀な頭と人望で国を治める統治者である。
女の影もない彼だが、実は想いを寄せる女性がいることを彼以外知らない。
━━━━それが、隣国の王妃候補であることも。
そして━━━、此度の戦争が彼女を奪うための戦争であることも。
「……時が満ちた」
呟いた囁きは、誰にも聞こえず。
貴族と宰相、騎士団が待つであろう大広間へと、彼はゆったりと歩みを進めていった。
「陛下」
不安がる側付きの騎士が、ただただ彼を呼ぶ。
長い間この騎士は彼を見守ってきたのだ、この戦争に何か思惑があると、裏があると分かっているのだろう。
そのことに小さく笑った。
大広間につき集まる貴族と宰相、騎士団団長が入ってきたサーレルバードに最敬礼をする。
ここに集まったのは、最終確認。
魔術に長けた国であるため、どうしても魔術師が多くなってしまうが勝つ見込みはある。
顔を曇らせる面々に、サーレルバードはニヤリと冷たく笑った。
願わくは、昔会った彼女に幸くあれと。