出会ったのは…
ある日のこと。
オーレリアは外で散歩していたとき、大人数で彼女のもとへやって来た獣たちを見つけた。
焦っているように見えたので、落ち着かせてから問いかける。
「……どうしたの?」
『竜!』
『竜がいる!』
『しかも、力強いやつ!』
『でも怪我してる!』
『早く!』
こんなときでさえ素晴らしいほどの連携プレイを見せる獣たちだが、それに感嘆する間も考える暇もなく。獣たちはキャンキャン喚いてとまらない。
「え、ちょ」
そんな急かされても……と言うと、獣たちは彼女の纏う巫女装束をくわえて引っ張りながら急かす。
怖いのだろう、精霊たちも心配そうにオーレリアを見つめていた。
何しろ竜だ、力が強いと言う。
それがドデーンと森の中に現れては、たまったものではないだろう。
そっとため息をつくと、獣たちに宥めるように優しく言った。
「分かったわ。行くから、ね?」
そう言うと、獣たちは大人しくくわえていた装束の裾を離した。
オーレリアは、ほっとしたように笑うとそれどころではないと気を引き締める。
「どこか分からないから、案内お願いするわ」
『もちろん』
早足な獣たちに案内されて、歩くこと約10分。
少し拓いた場所に出た。ちょっとした広場、のようだ。
「……」
この場所はそれほど広くはないのだが、黒い巨体が踞るようにして座っていた。
『……姫……』
「大丈夫よ、心配しないで。ね? あと、私が言いと言うまで傍に来たらダメよ。良いわね?」
『……うん。分かった』
「良い子達」
不安そうにオーレリアを見上げている獣たちに笑いかけそう言うと、頭のある方向からわざと歩き出す。
獣たちと精霊たちが不安そうに見守る中、当の彼女は怯えもせずに竜のもとへと向かっていた。
『…………?』
ゆっくりと近づいてくるオーレリアを、竜がその瞳を怪訝そうに瞬かせる。
竜の視界に入る位置から歩き出したのは、竜に恐怖心と不信感を与えないためであり、また、自分は獲物ではないのだと知らせるためである。
竜に限らず、生き物全般に効き目があることも重要だ。
竜の近くに来ると、オーレリアはふわりと微笑む。
安心させるように。怯えさせないように。
そして、認めてくれるように。
「怪我をしているの?」
そう言うと、竜は躊躇いつつも頷いた。
「どこ?」と更に問い掛けると、竜が腹のところに手をやる。
そこなのね、と直感的に感じ、そこに歩みよりそっと手を添えて力を注いだ。
それが終わると、竜に他にある? と問い掛け、竜が手をやったところを治療していく。
応急措置を終え、オーレリアはうーんと考え込んだ。
何故、力が強い竜がこんな酷い怪我を負ったのか。
そして、何故ここに降り立ったのか。
目下このふたつが最重要項目だったりする。
何より。
「ここに放置しておくのも可哀想だしねぇ……」
この竜をどうするかである。
悩みに悩んだ末、竜を神殿に連れていくことを決めたオーレリアは、これまで放置していた可哀想な獣たちを呼んだ。
『なあに?』
「この子を神殿に連れていくわ」
『……えぇぇえっ?』
嫌だよ、と不満そうにしながらも頷く獣たちに笑うと、竜に神殿に連れていくことを伝えた。
自分より強い存在が身近にいることに不安を感じるらしいが、こればっかりはしょうがない。
「さあいくわよ!」
オーレリアの言葉を合図に、神殿の中の大広間に向かった。
◇
「うん。大広間があって良かったわぁ……」
『…………』
運良く大広間があったので、良かったとしみじみと呟くオーレリアと、キョロキョロと周りを見る竜。
「あ、傷治したばかりだから休んで?」
ここにいるから、と笑いながら竜を座らせ、寝かせる。
オーレリアも座り、甘えるように顔を寄せてきた竜の目元を優しく撫でると、竜は程なくして眠りに落ちた。
よほど疲れていたのだろう。
傍でその様子を見ていた精霊たちがほっとしたように笑い、獣たちは『良かった』と呟いた。
しばらくそのままでいたオーレリアは、起こさないように離れて、スッとテレポートで自室へと戻った。そして、テーブルの上に置いてある本を取り、椅子に座って読み始める。
しばらくして、目を覚ました竜がオーレリアを探している、と精霊たちが彼女を呼びに来るのはまた別の話。