とある日の訓練風景
「……ちょっとぉっ!?」
飛んできた弓矢を咄嗟に避け、続けて放たれた火の魔術攻撃を結界で撥ね飛ばす。
更には叫んでしまったオーレリアである。
オーレリアは、騎士たちの訓練に付き合っていた……というより、付き合わされていた。
服装は学生が着るような、制服である。
ただし、短いスカートの……。
もちろん、下にスパッツは履いているが。
「水滝壁」
造り出したのは滝の壁。
攻撃ではなく、防御用の魔法であるが実用性はかなり高い。
これで大抵の魔術攻撃や、弓矢の攻撃からは耐えられる。
「……かーらーのっ」
と呟き、オーレリアは高く跳躍した。
「仕返しは倍返しならぬ10倍返しに決まってるでしょぉおおおおおおおおおおおおお!」
「!」
どこかで聞いたことのあるセリフに付け加えながら、叫んだオーレリアが続けざまに力を放つ。
右手にはしっかりと細身の聖剣が握られていた。
「……力の媒介なだけだけど、役に立つものね」
オーレリアの倍返しならぬ10倍返しに耐えられず倒れた騎士たちを治療して回り。
……はたと我が身を振り返った。
「……そう言えば、制服のまんま」
白のカッターシャツに紺色のブレザー、同じく紺色のスカートに胸元には紅いネクタイ。
この世界には、ミニスカというものが無いわけで……。
「……」
皆から何かを言われる前にさっさと着替える。
あら不思議、一瞬で制服からドレスに早変わり。
模擬実戦を楽しむように溌剌とした雰囲気から、静謐で怜俐な……それでいて儚げな美貌の女に雰囲気をがらりと変える。
「ちゃっちゃと終わらせちゃいましょ」
ぱちん、と指を鳴らして全員に治癒の力をかけた。
すると一瞬の後、傷など全くない状態の騎士たちがその場に座り込んでいる姿が。
まとめて治療をしたのは、ただ単に面倒くさい、という理由である。
「……まぁいいかしら」
「姫ー」
「はーい」
「訓練付き合ってくれて、ありがとな」
「このくらい何でもありませんわー」
ポツリと呟いたオーレリアに話しかけたのは、騎士団団長オルガ・ステーフ・アルガフスだ。
若くして騎士団団長という大役を担っている彼は、銀色の髪と緑の瞳を持つ、どこからどうみても美青年そのもの。
そんな彼に、笑いながら返事を返すと瞬間移動で自室に戻った。
一時間ほどの模擬実戦の訓練風景を、デュカリアスたちが密かに見ていたことを、オーレリアは知る由もない。
☆
「……あいつは本当に人間か……?」
「確かに、規格外の存在ではありますね」
オーレリアの交じった訓練風景。
模擬実戦を見ていたデュカリアスとラリスは、100人近くはいるであろう騎士たちを一時間ほどで倒してしまったオーレリアに畏怖の念を抱いてしまった。
「魔力の量が多いどころではありません……むしろ無尽蔵のようです」
「……規格外だな」
「前から薄々と分かっていたことですが……これ程とは」
「戦争はどうなることやら……」
思わず頭を抱えてしまったことは、仕方がないことだと言えよう。
なにしろ膨大な魔力を抱えている。
いざ戦争となれば……。
頭が追い付かない。
「彼女に任せましょう……彼女自身のことは」
「……そうだな」
ラリスの呟きに、デュカリアスは一つ頷き執務室に戻った。