願い
翌日。
「……あら?」
他の王妃候補たちの姿が見当たらない。
そのことにすぐに気づいたオーレリアは、昨日の動向に記憶を巡らす。聞いたこと。見たこと。全て。
「特にはないはずだけど……視るしかないようね」
散歩に出かけると必ずといっていいほどの確率で出会う王妃候補たちと今日は出会わなかったのだ、おかしい。
そう、一人も。
怪訝そうに周りを見渡し、ふっと吐息をこぼす。
そして、力を使って昨日の動向を『視た』。
「……あぁ、実家に帰らせたの。応戦することを決めたようね」
『過去視』
過去に起きた出来事を『視る』力。
オーレリアの最も得意とするものだった。
本来ならば知り得ないはずのことも知ることができる力だ。
「……問題は私ね」
これから来るであろうデュカリアスたちに、オーレリアは密かにため息をついた。
オーレリアが住んでいた森も、王城も、もちろん戦場も危険だらけだ。いくらセフィロスとオーレリアがいたって、とても対処はできないだろう。
……分かっていた。
『過去視』で視たとき、分かっていたのだ。
いや、分かりきっていたのだ。
「だけど……、」
何かを言おうとして、止めた。
どっちにしろ、『本性』(あの姿)を出さなければならないことはもう決まっていることだからだ。
「……召喚」
一言で唱えた召喚呪文。
喚び出したのは━━━四神のうちの一人。
北方守護、亀に蛇が巻き付いた姿の━━━。
喚び出された本人は、人の姿となった。
「……玄武」
微かなる声で呼び掛ける。
今は、傍にいて。少しね。
そんな些細な願いを、玄武は二つ返事で了承した。
☆
「オーレリア」
コンコンと、ノックの音がしてドアから入ってきたのはデュカリアス。
本を読んでいたオーレリアは、「……なぁに?」と返事を返した。
「オーレリア、……」
「私のことでしょう?……戦時中の」
「……分かっていたのか」
「お見通しよ」
クスリと笑って彼を見れば、ほっとしたような笑顔を浮かべる。
「で、私はどうでもいいけれど、どうするつもり?」
「……戦場だが……連れていこうと考えている」
うって変わって真剣な声のふたり。
そう、と返したオーレリアは二つ返事で了承する。
「分かったわよ、あなたに背くつもりはないわ」
安心させるように微笑めば、あぁ、と返事が返ってきた。
それにオーレリアは足手まといにならないようにはするわ、と言う。
「大丈夫よー、いざとなったら私がどーにでもするわ」
「大胆だな、オーレリア」
「これぐらいないと世の中生きていけないのよ」
笑いながら言うオーレリアと、半分呆れ顔のデュカリアス。
そんな楽しさが幸せだった。
いつまでも、こんな幸せが続けばいい……とデュカリアスが願ったのは、オーレリアには秘密。




