平穏な日々
『姫!』
『オーレリア!』
「なあに?」
爽やかな風が心地よい日。
今日も今日とて、神殿の中に精霊や獣たちがオーレリアめがけて駆け寄ってくる。
実に微笑ましいのだが、、、
中には
「…………大精霊が何でここにいんのよ」
が、いることも。
『だって、王の言うことは聞かないといけないし……』
『精霊たちにお願いして姫のいるところを教えてもらったの』
『オーレリアに会いたかったから。そんでもって傍にいたかったから』
『姫さまの傍にいたいのは私たちもですよっ、主!』
『お前らは常に傍にいるだろ』
『うぐっ』
「……」
精霊たちの言い分と大精霊たちの言い分。子どものような言い合いにオーレリアはため息をついた。
そもそもだ、自分の欲のために可愛い可愛い精霊たちを使っていいものなのか。という疑問が浮かぶ。
ここにいる大精霊たちは火の大精霊・フレイアと光の大精霊・ディアシスだ。
全く、仕事はどうしたと言いたくなるオーレリアである。
そして、後から三柱の大精霊たちがオーレリアの元へと来るのだろう。確かな確信を持ってオーレリアはそう思った。
「……フレイア、それお願いじゃなくて脅しじゃないかしら?」
『違うわよ? お願いしたの、ね?』
『……! そそ、そうですっ!』
「やめなさい。精霊たちが可哀想よ」
『姫さまあああああああ!!!』
フレイアの鋭い流し目に、精霊たちが縮こまるのを見たオーレリアは、ため息をつきつつ助け船を出した。
それにフレイアがそっぽを向き、精霊たちがほっとしたように笑う。
一方、蚊帳の外だったディアシスは、いつの間にか椅子に座るオーレリアの膝の上に狐の姿に変えて座っていた。
しかも、うとうとと微睡んでいる。
当のオーレリアはとっくに気づいていたが、敢えて何も言わずにいたのだ。なに食わぬ顔で膝の上に乗ってきたディアシスもディアシスだが。
そのことに気づいたフレイアが、その切れ長の瞳を釣り上げた。
『おいしい所とってるわね!?』
「別に良いだろ」
このぐらい━━とのたまう光の大精霊と、ギロリと睨み付ける火の大精霊。その事に苦笑すると、オーレリアは狐を腕に抱いて立ち上がった。
「散歩に行きましょうか」
もう少ししたら他の大精霊たちが来るでしょう。
と一言告げると、自室から出て長い廊下を歩き出した。そのあとを、フレイアがふわふわとついてくる。
もちろん、ディアシスはオーレリアの腕の中だと言うことを忘れてはならない。狐の姿なので表情は分からないが、満足げな色が瞳を彩っているので、本当に嬉しいのだと分かる。
神殿から一歩外に出ると、周りは一面緑色。
目に優しい色を見つめてふと微笑をもらし、狐を土の上に降ろすとうーんと身体を伸ばした。
そこに精霊たちがわらわらと集まってきて、じゃれあったりたわわに実る果実をもぎ取ってかじりついたりしていく。
そんなとき他の大精霊たちもやって来て、更に賑やかになった森の中を眺めつつ、オーレリアは手の中の果実をもてあそびながらふ、と微笑んだ。
この小さな幸せと平穏と安らぎが、とても気持ちよかった。
この生活そのものが、幸せだった。
大事だった。