王妃候補・アリフェアと魔法
「いつまで下らないことをしているのです」
「さて……下らないこととは?」
ある日の午後。
オーレリアは王妃候補の一人、アリフェア・フレス・スティアーズの相手をしていた。
……と言うよりも、彼女によって邪魔された。
「本を読むことは良いことだと思うのですが?」
そう、読書を。
突然部屋に訪れた彼女は、こちらの事情などお構いなしに行動している。
まるで、こうしても許されるのが当然とでもいうかのように。
その態度に侍女のアリスも不機嫌そうなオーラを出しているが、アリフェア姫も姫付きの侍女も全く気がついていない。
「そのようなことなど、わたくしたちは致しませんわ。庶民がすることなのですよ、貴族令嬢ともあろう者が庶民のやることなど致しません」
「……では、あなたは本を読んだことがないのですか?今までに」
「……え?いえ、ありますわ」
「それでは矛盾しているのではないのでしょうか。あなたは本を読むことは庶民がすることで、貴族令嬢はしないと言った。ですが、あなたは本を読んだことがあると言った……。庶民がすることをしないのならば、今までに一度も本を読んだことがないということになりますのよ?」
「……っ」
「本を読むということはとても大切なことです。先人の知恵を受け継ぐ書物は貴重なものなのですよ」
ですから、この世界を知るということにも繋がるのです。
そう言ったオーレリアに、もはや言い返す言葉もないアリフェアはかすれ声で呟いた。
「……魔法が、ありますわ」
「……?」
「魔法がありますわ。魔法は万能。しかもその知恵は師匠から教え子に伝えられる。書物はそこに必要ありませんわ」
力強く言った彼女。
確かに知恵は師匠から教え子へと伝えられるが━━━、一つ間違いがある。
「いいえ……アリフェア様。
魔法は、万能ではありませんわよ」
「……えっ?」
どうやら、この令嬢は箱入り娘らしい。驚いたようにこちらを見るアリフェア姫に、オーレリアはゆっくりと話し始めた。
「魔法とは魔力が原動力となりますが、そこに言葉という媒介が必要です。無詠唱で使うことは余程の者でなければ扱えないでしょう」
確か、無詠唱で扱うことができるのは世界にたった3人ほどと、いつか聞いたことがある。
「魔力は個人によって多い少ないと分けられます。
誰しも無尽蔵ではなく、決まった量が身体の中に流れているのです。その魔力を使って現象を起こすのが魔法なのです……、魔力が尽きれば、当然魔法を扱うことはできません」
オーレリアだって、神通力は膨大な量が身体の中に流れているが、無尽蔵ではないのだ。
ゆっくりと説明するオーレリアをアリフェアは真面目に聞いていた。
「それと、魔法は難易度が上がるにつれ、消費する魔力が大きくなります……、特に物質召喚や空間転移などは大きく消費しますわ。
神を召喚することもできるかもしれませんね……膨大なる魔力があれば」
「……ですが、神は召喚することがなかなかできません。人の、強い願い。それが力となって神を召喚することができるのです。魔法で神を喚ぶことは出来ないのですわ。ですから、魔法は万能ではないのですよ」
「たとえ、魔力が膨大だったとしても、できないことはできないのです……神でさえ、未来は分からないのだから」
説明し終えたオーレリアは、ふぅとため息をつく。
その隣ではアリフェアが「そうだったのですね……」と呟き、後ろではアリスが感心していた。
「オーレリア様、博識でいらっしゃいますわ……!」
キラキラと輝く瞳を向けるアリスに苦笑を返すと、アリフェアが、用ができましたので失礼させていただきますわ、とあわただしく部屋を出ていった。
「あの子が王妃候補、ねぇ……、そうそうに落第しそうだわ」
ひそりとオーレリアが呟く。
その声は、大気にゆっくりと溶けていった。
☆
「彼女は……博識であるな」
たまたまオーレリアの部屋の前を通りすぎようとした宰相、ラリスは彼女の知識の深さに感嘆していた。
「内容は……、魔法のことか」
たまたま聞こえてきた彼女の説明を、気になってひそかに聞いていたのだ。
彼女の知識はなんらかに役立つだろう……そう考えたラリスは、彼の主に報告するため、執務室へと向かった。
近々、大きな出来事が起ころうとは……誰も予想していなかっただろう。
ファンタジー小説には、やっぱり悪役令嬢はつきものでしょうか笑
前回が良い子さんだったので今回に!
さて、オーレリアはどうなることやら笑