朝から……
「ということだそうですわ」
「ふうん……」
爽やかな朝、オーレリアはお茶を飲みながらアリスの話を聞いていた。なんでも、今日国王であるデュカリアスの王妃候補が城に上がるらしい。
と言ってもオーレリアには関係のない話と思っていて軽くスルーしていたのだが……。
「あら、オーレリア様、あなた様も王妃候補なのですよ」
「!?」
……軽くスルーできない言葉を頂いた。
オーレリアがいる空間だけ時間が止まったように動かないオーレリアを見て、アリスはクスクスと笑った。
「ナニソレワタシシラナイ」
「あら、オーレリア様、片言になっていますわ」
思わず呟いた言葉は、思った以上に棒読みだったらしい。
オーレリアは座っていた椅子から立ち上がって低い声で「……ちょっとデュカリアスに聞いてくるわ」と笑いながら言った。
「オーレリア様、落ち着きなされませ!」
「大丈夫よ、落ち着いてるわ」
「怖いですわ!」
「そりゃしょーがないわ」
「オーレリア様ー!」
部屋から出て、スタスタと国王がいるであろう執務室の方向に向かって歩き出す彼女を、アリスは慌てて追いかけた。
☆
「……で、どーゆーことか説明してくれないかしら、王妃候補だのなんだのとか」
「俺にも」
いつの間にか外にいたはずの竜王まで執務室にいるこの光景に、執務をしていたデュカリアスも宰相も驚いていた。
「ああ、アレはな……、一種の女避けだ」
「……?」
「今回の王妃候補の件はいつもより多いんだ、候補の数が。だから、オーレリアに女避けとして来てもらったんだよ」
「……で、事後報告もそれも置いといて」
デュカリアスが簡潔に説明すると、オーレリアは一番の問題を口にした。
「私身分庶民よ? 庶民じゃなかったら巫女だわ」
「それについては、姫、私が」
突然の宰相の割り込みに驚いたが、「どういうこと?」と問い掛けるオーレリア。
「姫の現在のご身分は陛下の客人ならびにご友人ということになっております。ですから、ご身分の問題はありません」
「……なるほどね」
オーレリアたちが話すなかで竜王は黙って話を聞いているが、時々チラリとオーレリアを見ていた。
色々と複雑なのだろう。と思っていたのだが。
……。ん?
「いやいやちょっとお待ちなさい」
「どうかなされましたか? 姫」
「どうかしたわよ。友人はともかく、客人だなんて奴隷よりも遥かに不安定な身分だわ! デュカリアス、あなたが私のことを客人ではないと否定したら即座に私は城を出ていくことになるわよ!?」
姫君の剣幕に押されつつある宰相閣下と国王陛下が、互いの顔を見合わせて同時に言った。
「「客人ではないと否定することはまずないな(ですね)」」
タイミングばっちり。合いすぎて逆に怖い。
オーレリアは訝しんだ。
「……?」
「未来のことは確証できません。ですが、これだけは自信を持って言えますよ、姫。陛下が否定することはあり得ません」
「否定することは俺自身が許さん」
「……まあいいわ、信じてあげる。根本的な問題は解決した、のかしら?」
「そもそもこの国では身分は関係ありませんよ」
「ああ、平民出の王妃だっていたからな」
「あらまあ、寛大なこと」
少々驚きつつも納得したオーレリアは、一旦執務室を出て執務室の外で待っていたアリスのところに行く。
「どうでしたか?」
「また厄介なことになったわ……これ」
気遣わしげに見てくるアリスに、オーレリアは苦笑を返した。
アリスを伴い、また執務室に入った彼女は「仕事中お邪魔したわ」と一言言い、用は済んだとばかりに執務室を出ようと立ち上がった。
だが。
「……あれ、この話前にも聞いたことがあるような」
「……そうだな」
オーレリアの呟きに、返事を返したのはデュカリアス。
隣にいるセフィロスも考えたのち思いあたったらしく、「そういえば」と頷いた。
「……最近忘れっぽいわ……」
頭を抱えてぼやく彼女に、二人とも顔を見合わせてため息をついた。