第九話修行開始
サイトの家ではカイテルの説明が終わりかけていた。
「……というわけです。分かりましたか?」
「あぁ、大体はな。でもノックを参加させるのだけは反対だ」
「なぜです? ノック君は素晴らしい素質を持っています。鍛えれば強くなりますよ」
「鍛える必要がない。そもそも今回のは俺とお前とギークだけで十分なはずだ」
「次世代の若者を育てるのも必要なことですよ。それに今回のことをあなたは私に全てを任せました」
それを聞くとサイトは黙り込んだ。
「では部屋に戻りましょうか」
二人は部屋に入った。
「モエ君、仲良く話してるところ失礼ですが手伝って欲しい事があるのでちょっと来てください」
「分かりましたご主人様。じゃあ、ノックまたね」
「うん、またね」
モエとカイテルは部屋を後にした。
サイトはそれを見届けるとベッドの横の椅子に座った。
「ノック、体は大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫! ほら、この通り」
ノックは立ってみせたがすぐにフラッとしてベッドに倒れた。
「無理すんな。体を横にしとけ」
「うん……」
二人の間にしばらく会話がなくなった。
「ねぇ、お父さんどうしたの」
「なぁノック」
「何?」
「カイテルと戦ってどうだった?」
「負けて悔しかったけど、それ以上に楽しかった!」
「楽しかった? どうして?」
「どうしてって聞かれると難しいんだけど……純粋にすごいなって」
「……そうか」(やはりこいつにも……)
サイトはしばらく目を瞑って考えた。
しばらくすると重い口を開けた。
「なぁ、ノック。お前強くなりたいか?」
「えっ? どうしたの急に?」
「ちょっと色々とあってな。で、どうなんだ?」
「まぁ強くはなりたいけど……お父さん気を教えてくれないじゃん」
それを聞くとサイトはしばらく考え込んだ。
「そうか……そうだったな……分かった。お前に気を教えてやるよ」
「いいの? いつもダメだって言ってたのに」
「実はな……」
ノックはこれまでの経緯を説明した。
「よくは分かんないけど悪い奴等がこの島に来るって事?」
「俺にもよくは分からんがそういう解釈でいいと思う。まぁ、そういう訳でこの島を守るためにお前にも協力してもらうことになった」
「僕も?」
「あぁ、お前はこの島では俺を除いて一番強いからな。お前もこの島を守るんだ」
「この島を守る……うん! 分かった!」
ノックはいつもの様に元気よく頷いた。それを見るとサイトはやはり不安になった。
「お前……本当に分かってんのか? これはいわば戦争と同じだ。死ぬかもしれないし、いざとなったら殺さないといけない。お前にその覚悟があるのか?」
「大丈夫だよお父さん。覚悟なんかしなくたって致命傷を負えば誰だって死ぬんだし、逆に致命傷を与えれば誰だって殺せれるんだから」
ノックは無邪気にそう答えた。
サイトはノックの今の言葉を聞いてぞっとした。
「……そうか。でもこれだけは約束してくれ。絶対に死なないと」
「勿論だよ。だって僕まだ死にたくないもん!」
それを聞くとサイトは安心した。
しかし心の奥底に何か嫌なものが残っていた。
「じゃあ早速修行をするか。ノックお前は確か内気功しか出来ないんだったな。とりあえずやってみろ」
「うん、そうだけど……えっ! 今から? でも、この状態で何すんの」
ノックの傷はまだ癒えてはいない。
「大丈夫だ。いいか、寝たままでいいから今から内気功をしろ」
「うん」
ノックの体が緑色に光だした。
「ところでお前はその状態を今からどのくらい続られるんだ?」
「う〜ん三分が限度かな」
「よし、その状態を十分続けられるようにしろ」
「じゅ、十分も!」
「あのな、三分できるのも本当はすごいんだぞ。でもお前だったら出来るよ。だからがんばれ」
ちなみにザック島民の平均は約一分である。サイトに関しては一時間は持続できる。
「いいか、この修行の目的は敵を倒す事じゃない。あくまでも敵の攻撃から身を守るための修行だ」
「分かった。やってみるよ」
「そうか、その意気だ。俺も色々と準備で忙しいから夜になったらまた来る。あまり無理はすんなよ」
そう言うとサイトは出ていった。
「よーし!」
早速ノックは修行を始めた。