第八話策略
カイテルがザック島についた日、ハーン王国のさまざまな町や村に立て札が置かれた。それには
ハーン王からの通達
先日カイテル大臣がハーン王を裏切り、ザック島へと逃亡した。私はは裏切者を許さない。従ってハーン王の名においてザック島に兵を送り込むことにする。
と書かれていた。これは国民にカイテルをハーン王国の悪者であるという事を認識させ、ザック島への出兵の口実とするドルクの策略の一つである。
この立て札の内容はあっという間に王国中に広まったが、国民の大半はこの立て札を信じられなかった。
これまでのカイテルの業績と忠誠心は国中に知れており、そんなことをするわけがないという考えがほとんどだ。
しかし身分が高い者等は急に出世したカイテルへの妬み、さらに身分制度をなくそうとする政策のせいで元々邪魔者扱いしていたので、ここぞとばかりにカイテルを批判した。
このように意見は真っ二つに別れていた。
ドルクはハーン城の屋上にいた。
そこには斥候もおり、国民の立て札への反応を聞いていた。
「……というわけでして、意見が二分化しております」
「そうか、引き続き調査を続けろ」
兵は「ハッ!」と敬礼をすると下へと降りていった。
それを見届けるとドルクは溜め息をついた。
(やっぱり意見が別れたか。まぁ思った通りだ。しかしいくら反対者が出ようと、ハーン王はすでに私の掌中にあるから問題はない。そんなことよりカイテルだ)
ドルクの予定ではカイテルが休暇の間にザック島進軍への準備を行い、カイテルを捕まえるはずだったが予定外の事が多く、計画は大幅に狂っていた。
(奴に計画書を見られて逃亡されたのはまずい。だがザック島にだけはは行けなかったはずだ。多分この国のどこかに隠れているはず……しかし……事件当日に食糧を大量に買い込んだという女の子がいた、という情報……いやそれはな……いや!)
その時ドルクは思い出した。
(確か奴には一人使用人がいたはずだ! しかし精鋭部隊の報告だと家には死体が一つも無かった!)
ドルクは最悪の事態を想定した。
(もし、万が一、その女の子がカイテルの使用人だとしたら……)
そこまで考えたが首を横に振った。
(考えすぎか。奴にザック島に行く手段はないはずだ。となると……準備中に襲う事が狙いか?)
ザック島に行くには船と船を引っ張るポチのような存在、海獣というものが必要になる。それはザック島への航路が潮の流れが激しく海獣に頼らないとザック島にはたどり着けないという事情があるからだ。しかも海獣はとても扱いが難しく、訓練を受けた操縦者がいないと海獣を操れない。その事がドルクにカイテルはザック島にいないという確信を与えていた。
(しかし例えどんな事があろうと私はザック島の占拠を成し遂げなければならない。これもハーン王国の繁栄のためだ)
ドルクは周りの景色を見渡した。
ドルクはゾーア戦争が終わったあと、ハーン王国に忠誠を誓い、自分の知謀を奮い、ハーン王国の発展に尽力した。今回思い切った行動をしたのもまたハーン王国のためだとドルクは信じている。
「困ってる?」
ドルク以外誰もいないはずの屋上で声がした。
「お前か」
ドルクの言葉には不快感がこもっていた。
「ふふふ、そう邪険にしないでよ。あんまり上手くいってないみたいじゃん」
声の主はあっけらかんとしていた。
「言っとくがなお前の手をこれ以上借りるつもりはないぞ」
「相変わらず、ドルクちゃんはプライド高いね〜」
「……」
ドルクは下に降りようとした。
「ありゃりゃ、しかと? せっかく情報持ってきてあげたのに。いらないの?」
ドルクは振り返ると息もつかずに早口に捲し立てた。
「おいおいなんなんだお前はふざけてるのか私は今忙しいんだそれをなんでわざわざ邪魔しにくるんだ情報があるならさっさと教えればいいじゃないかお前のその口調はすごく腹がたつだいたいお前は……」
「そ〜んなに怒らなくてもいいじゃな〜い」
声の主はドルクの小言を遮った。
「ごめんごめん、悪かったよ。ってかそんな怒り方するんだ……そうそう情報というのは〜チャララララララっ、はい! カイテルはすでにザック島にいます!」
「……………………………それは本当か?」
ドルクは腕を組んだ。
「それは100%。間違いな〜い」
ドルクは頭の中を早急に整理した。
「………………………………そうか」
「あれ? そんだけ? もっとリアクションしてよ〜」
「それどころではなくなった」
ドルクは急いで下へと降りていった。