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第五話再びザック島へ

 朝日が昇る頃、ザック島の砂浜にノックはいた。


顔にゴーグルをつけ、上半身は裸だ。


ノックはまだ冷たい海の中へと入っていき、周りの水中を注意深く見渡す。


すると、魚が悠然と泳いでいるのをノックの目が捕らえた。


その瞬間、ノックはそこに飛び込んだ。


黒い影はその音に驚き逃げようとしたが、尾を掴まれて前に進めなくなり、そのまま海から空気中に引き出された。


「朝飯、ゲッート!」


ノックの手にはピチピチとはねる50cm程の魚がしっかりと掴まれていた。


「さてと村に帰らないと……あっ、あれは!」


ノックは沖の方にギークの船を発見した。


「ギークさーーーん!!!」


ノックは船に向かって叫んだ。




 船を浅瀬に固定すると、三人は砂浜に下りた。


「ギークさん戻ってくるの早かったね。ところでその人達は誰?」


ノックは二人を指差した。


カイテルはノックをじっと見ていた。


「私はカイテルと申します。そして、隣にいるのはモエといいます」


紹介されたモエは「よろしくお願いします」と深くお辞儀をした。


それにつられてノックも「こちらこそ」と慣れないお辞儀をした。


「そういう君はノック君ですよね」


「あれっ? 僕のこと知っているの?」


ノックが不思議そうな顔をするのを見てカイテルは笑った。


「やっぱりそうですか。若い頃の君のお父さんにそっくりだったのですぐにピンときましたよ」


「へぇ〜、お父さんの知り合いなんだ。よろしくね、カイテルさん!」


「いえいえこちらこそ。ところで私は君のお父さんにちょっとした用がありましてね。案内してくれませんか?」


さすがにこの島がハーン王国に狙われているとはノックには言えなかった。


「うん、いいよ。お父さんもきっと喜ぶよ!」


早速ノックは三人を村へと案内した。




 村の中心部にあるサイトの家は村長の家ではあるが、重要なことの話し合うための集会場があるため少し大きいだけであり、他の家と比べても後はほとんど変わらない。


それはノックは富や財産にあまりこだわっていないからであり、島民に尊敬されている理由の一つでもある。


今はその話し合いの場にサイトとカイテルだけがいた。話す内容が重大なことなので他の人達には聞こえないように、ギークがサイトの家を見張っていた。


「……というわけなのです。私の力及ばずドルクの企みを止める事が出来ませんでした。すみません」


「いやいや、危険を犯してその事を伝えに来てくれたんだ。むしろ感謝してるよ」


「そう言ってくださるとありがたいのですが、これからどうなさるんですか」


サイトは「うーん」と唸り目を閉じて深くうなだれた。


しばらくするとぱっと顔をあげた。


「分かんねーや」


サイトはさっぱりした顔でそう言った。


カイテルはそれを聞いてポカンとしたが、やがて大きな声で笑い出した。


「ぷっ、あははははは! そうですね。そうでしたそうでした。貴方にこんなことを聞くなんて! 久し振りですからついつい忘れていましたよ!」


「そんなに笑うなよ。結構傷つくぜ?」


「いや〜、すみませんすみません。このやり取りが懐かしくて」


「確かにそうだな。ノックが生まれる前だから十数年振りか」


「あなたよく村長になんてなれましたね」


カイテルは腹を抱えていた。


「うるせぇー。それだったらお前の方がおかしいじゃねーか。あのお前が一国の大臣だと? よく国が潰れないもんだな?」


「あっ?」


カイテルのムードが一変した。


「じ、冗談だ」


「ふふふ私もですよ」


場の空気は和やかなものとなった。


「では、私に今回の件は任せてくれませんか?」


「それが一番いいだろうな」


サイトはあっさりと認めた。


「相変わらず決断が速いですね。では自由にさせてもらいますよ」


それを聞いたサイトは付け加えた。


「ただし、あまり島民に被害を与えんなよ。後、相手側にもな」


「心配性ですね。もちろんですよ。ただこれは戦争ですから多少は覚悟してください」


カイテルの顔に一瞬残酷な笑いが見えた。


(……多分分かってないな)


サイトは少し不安に感じた。


「そうそう、そういやもう一つお願いがあるんだが」


「なんですか?」


サイトは話始めた。




 話は少し前に戻る。


「ノック、俺はカイテルと少し話すから外にいろ」


「何の話すんの? 気になるな〜」


「ギークさん、ここに人が入ってこないように見張っといてくださいよ」


「おぅ、分かった」


二人は家の中へと入っていった。


「どうしようかな〜?」


ノックは暇をもて余していた。


「そうだ!」


ノックはモエの方を見た。


「どうしましたか?」


「せっかくだから村の事を紹介してあげるよ。ついてきて!」


「えっ?」


ノックは返事も聞かず手を引き、モエを連れていった。




 「んで、ここが川であそこが水車。あれで畑に水を通してるんだ。今は日照りが続いててあんまり水が流れてないんだけどね。うん、これで大体村は回ったよ。どうだった?」


二人は数十分掛けて村を見て回った。


「そうですね自然が一杯で綺麗な所で、ここにいるとなんだか落ち着きます」


「気に入ってくれた? 嬉しいなぁ〜。そうだ! 僕のお気に入りの場所に連れていってあげるよ。ついてきて!」


ノックは《危険!立ち入り禁止!》と書かれてある立て札のある道に入っていった。


「こ、ここ通っても大丈夫なんですか!?」


「大丈夫大丈夫。たまになんか出るけどね」


「なんかってなんなんですか!?」


ノックは返事をせずまたもやモエの手を引き連れていった。


しばらく二人が歩いているとだんだんと不気味な所になってきた。


「モエちゃん、もうちょっと離れてくれない?」


モエはノックの手をしっかりと握って、離れようとしなかった。


そこに物音がした。


モエは悲鳴を上げて、ブルブルと震えていた。


「落ち着いて、モエちゃん。ただの風だよ」


「は、離れないでくださいね」


その時モエは背中全体に生暖かい感触がした。


「ノ、ノック君。私の背中に何かついてないですか」


ノックは後ろを振り返った。


「落ち着いて、モエちゃん。ただのジャックウルフだよ」


そこには鋭い爪と牙を持った自分の体長の何倍もの黒い狼がいた。


「な、なんだ。ただのジャックウル……アアアアアアアアア!?」


モエはポケットから反射的に魔具の一つを出すと、振り返り様に投げた。


その魔具の名前は[串刺魔球]という丸いボールであり、対象者に当たると内側からトゲを出し、相手を攻撃するものである。


しかし振り返り様に投げたため狙いが定まっておらず、ジャックウルフには当たらずに地面にぶつかると、その瞬間ボールから無数のトゲが出てきて地面に刺さり、そのまま動かなくなった。


ジャックウルフはそれを見ると警戒体勢をとった。


「お、落ち着いてモエちゃん。彼とは友達なんだ」


「ジャックウルフは肉食ですよ! 現に今食べられそうだったじゃないですか!」


「今のはほんの挨拶だよ」


「い、今のが?」


「ごめんね、驚かせちゃって。こっちにおいで」


ノックが優しく語りかけると、ジャックウルフは警戒を解いて近付いてきた。


そしてノックに体を擦り付けてきた。


「カニも驚かせて悪かったって」


「カ、カニって?」


「やだなぁ、これの名前に決まってるじゃない」


「あなた、ジャックウルフの言葉がわかるの?」


「うん」


モエは混乱した。


「えーと、ジャックウルフは私を食べようとしたんじゃなくて挨拶をして、それがノック君の友達で、カニって名前で、言葉がわかって……えぇーーー?」


モエの混乱が治るのに一分程かかった。その間にノックはカニにモエの紹介と何をしているかについて話した。


「カニが驚かしたお詫びに乗っけてくれるって」

「そ、そうなの。あ、ありがとうね」


モエは恐る恐るカニの頭を撫でた。するとカニは気持ち良さそうな声を出した。


(よ、よく見るとかわいいかも)


ついそんなことを思ってしまった。


「そういえばあれ何なの?」


ノックは串刺魔球を指差した。


その時モエははっとした。


「そ、それは……」


モエの頭にある記憶が蘇った。


そうそれはとてもとても嫌な記憶。いくら忘れようと思っても忘れられない記憶だった。


(やだ、また拒絶される……)


「あ、あの……」


「とってもすごいね。どうやってできてるの?」


「へ!?」


モエはびっくりした。


「こ、怖くないの?」


「え、なんで怖がらないといけないの?」

「そ、それは魔具なのよ」


「魔具? これが魔具なの!? 初めて見た! ということはモエちゃん魔具を作れるんだ! すごいね!」



ノックは興奮していた。


モエはその反応を見てただただ驚いた。


モエの記憶の中では魔具が作れることを知られると、カイテルを含む数人以外の全員に恐れられた。


モエは串刺魔球に触れるとただの丸いボールに戻った。


「それじゃ行こうか。後ろに乗りなよ」


「うん」


モエはノックの後ろに乗るとしっかりとノックの腰に手を回した。


それを確認するとカニは走り出した。




 しばらくカニは道を走っていくと、目的地についた。


「ここだよ。どう? 綺麗でしょ?」


「すごい……」


モエは言葉をなくした。


そこはザック島一高い山の頂上だった。


そこからは美しく雄大な自然が一望できた。


「でしょ? ここ、僕凄く好きな場所でたまにここに来てるんだ」


「ノック君、ありがとう」


モエはとても嬉しそうな顔をしていた。


ノックはしばらくその顔に見とれていた。


が、慌てて下を向き顔を真っ赤にしながら言葉を返した。


「僕も楽しかったよ。この島には同年代の子がいなかったんだ、だからこうして話し合ったりするのが夢だったんだ」


ちなみにモエもノックと同い年である。


「そうなんだ。よかったらまた一緒に行こうよ」


「そうだね一緒に行こう」


二人は指切りで約束をするとカニに乗って村へと戻っていった。




 「カニ、乗せてくれてありがとうね」

「カニさんありがとう」

二人は山へと戻っていくカニに手を振った。


二人は残りの道を手を繋いでサイトの家へとついた。家の前にはギークが待っていた。


「おぉ、遅かったな。うん? なんだ〜ずいぶん仲良くなってんじゃねーか、マセガキ供」


二人は顔を赤くすると慌てて手を離した。


「ノック、お前の親父が話があるってよ。集会場にいるぜ」


「お父さんが? なんだろう?」


ノックは首をかしげた。


「それはなかに入ってからのお楽しみだ。入れ」


ノックはギークに促されるまま家に入った。


そのまま集会場へと入っていくとサイトとカイテル、そして村の長老が並んで座っていた。


「おぉ、来たかノック。まぁ座れ」


ノックは皆に向かって座った。


「実はな、お前ももう十二才だしお前の成人式をしようと思っているんだ。知ってるだろ? 儀式のこと?」


「うん、知ってる」


ノックはザック島の変な儀式を思い出した。




 ザック島では成人式は村全体で祝うことになっている、が一つ特殊な儀式がある。それは成人男性と全力で戦い、負けるという洗礼儀式というものだ。成人男性と全力で戦い、負けることで自分の身の程を知り大人の仲間入りをするという事らしい。




 「それがどうしたの?」


「実はその相手の話なんだが、実はカイテルにしてもらうことになったんだ」


「え!? 島民じゃないの!?」


そこに長老が口をだした。


「この村にはもうお前より強い者がおらんのじゃ」


「それだったらお父さんがすればいいんじゃない?」


「いや、俺は村長だから勝負を見守んなきゃならん」


「でもカイテルさんって僕より強いの?」


「それはサイトからの推薦があっての。強いらしいぞ」


ノックはカイテルを見た。


カイテルは優しく微笑んでいた。


「ノック君、自分で言うのもなんですが私は強いですよ」


「というわけでノック、明日の夜に儀式がある。頑張れよ」


サイトはにっこりと笑った。


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