第十三話灰色
新章突入……だけど……駄目だ……何も変わっていない……でもようやく書きたい話が出来るからテンションは高い。お気に入り登録が増えたのも嬉しい。いろいろテスト中。
魔方陣と共に船が消えるのを見たポチの上のギークは溜め息をついた。
「ふぅ、これで任務完了か。モエも上手くやってくれたし、後はあいつらに任せれば大丈夫……?」
誰もいないはずの暗い海のどこかにギークは何者かの気配を感じた。
(この感じ……どこかで……)
ギークは記憶を探った。
しかし思い出せなかった。
というわけで聞いてみることにした。
「おい、そこにいる奴。お前は何者だ?」
「あれあれ? 気付かれてるみたいだね? おかしいなぁ」
夜の闇の中からあどけない顔をしている少年が現れた。その少年は海の上に立っている。
「ねぇ君何者? ザック島の住民?」
「あのなぁ、聞いてるのはこっちの方だ。先にそっちが名乗るのが礼儀ってもんだろ」
「いやいや、逆でしょ」
「あれっ? そうだったっけ?」
ギークは首を傾げた。
「ふふふ、君、面白いね。まぁ別にこっちから名乗ってもいいんだけど……」
「だけど?」
「僕には名前がないのさ」
声の主はケラケラと笑った。
「じゃあ名無し君か」
「うん、それでいいよ。で、君の名前は?」
「私の名前はギーク。ザック島には住んでいない。」
「ギーク……まさか! 君があのギークなの!」
「ほぅ、私を知っているのか」
若干ギークの顔が曇ったが名無しは構わずはしゃいだ。
「当然だよ! 神話クラスの有名人じゃない!」
「それで、私の事を知っている名無し君は一体ここに何をしに来たんだ?」
ギークは口調を威圧的にしたが、名無しはケロッとしている。
「いやぁ、すごい偶然だなぁ。ギークなら話が早いよ。早速話に入らせてもらうと……まず『灰色の石』については勿論知っているよね?」
「それはまた懐かしい名前が出てきたな」
ギークは何かを思い出すかの様に目を閉じた。
「あれってザック島にあるんでしょ?」
「それなら私が持っている」
ギークは懐から、一見普通の石を出した。
サイズは豆粒ぐらいに小さく、灰色で鈍い光を放っている。
「ふ〜ん、思ったより普通、というかただの石みたいだね」
「それで? これをお前がどうしようというんだ、名無し君」
「慌てない慌てない。まずはこれを見てよ」
名無しも先程のと同じサイズの、石の様な物を出した。
違いとしては緑色の石で温かみのある光を放っている。
「『生命の石』、かこれまたレアな物を持っているな」
「これを得るのに相当苦労したよ。ギークならこれで分かるんじゃない?」
ギークはしばらく考えていたが、やがて結論に至った。
「……成程な。それがお前がしたいことか」
「どう? 面白そうでしょ」
「正直に言うとやってみたいな」
「じゃあ、協力してくれる?」
「で・も、私がそれに協力するはずもないし、そんなリスクが高いこと、させるわけないだろ。」
「えぇ? しないの?」
名無しは困った顔をしたが、すぐに切り返した。
「でも僕は知っているよ。ギークはあの人が好きだったんでしょ?」
「あいつか……」
ギークは一人の男を思い浮かべた。
その男は髪が真っ白でとても優しそうな顔をしている。
そこにもう一人顔が思い浮かんだ。
その男は髪が真っ黒でとても残忍そうな顔をしている。
「確かに私はあいつの事が好きだ」
「じゃあいいじゃん」
「でもなあいつは絶対にそのことを望まない。それは奴にとってもきっと同じ事だ。こいつらはこのままの方が幸せなのさ。だからそっとしといてやってくれ」
それを聞くと、名無しは下を向いて、何やら口を動かした。
「ん? どうした? 言っとくけど、どんな事をしても私の心は変わらんからな」
名無しは口を止めると急に顔を上げた。
その顔には歪んだ笑顔を浮かべている。
「分からないかなぁ? それが面白いんじゃん」
その瞬間、名無しの石とギークの石が空中に浮かび上がった。
「お前、まさか……」
二つの石は共鳴するかの様に光だす。
「クスクス、もう遅いよ。呪文は唱え終えたから。いくらギークでももう止められないよ」
二つの石は近づいて行き一つとなった。
「さぁ、どっちが出てくるのかな? はたまたどっちとも出てこないかな? それともどっちとも出てくるのかな? それとも……あはははははははは!」
(このままではまずい!)
ギークは手のひらを上に向け両手を前に出し、手に力を込めた。
(最悪の場合……奴だけが復活する)
するとそこに禍々しい色をした光を放つ巨大なエネルギーの玉が、威力としては半径五キロメートルの範囲を全て塵に出来る程のが出来上がった。
(そうなると……奴は誰にも止められない)
一つとなった石は辺りを照らす程の光を放った。
(今すぐにでも……これを撃って……破壊する……それが最善……)
その光の中で石は段々と形を変えてゆく。
(それが分かっているのに……体が……体が動かない!)
光が消えかかる頃には人の姿となり、最後の一条の光が消えると、そこには灰色の髪を持つ一人の男が宙に浮かんでいた。
(私は……期待をしているのか……またあの頃に戻れるんじゃないかと……)
その男の体はゆっくりと落ちてきた。
(……クソッ!)
ギークは急いで技の発動を中止し、ポチの頭の上で男を受け止めた。
その男はゆっくりと目を開けた。
そして二人は目が合った。
「ギー……ク?」
「セシル!」
男はそれだけ言うとそのままギークの手の内で気絶した。
「くっ! あはっ、あははははは! まさかこんな結果になるなんて……ね?」
名無しは首から上が闇のどこかへと飛んで行き、そのまま静かに海へと沈んだ。
ギークはそれを一瞥もせずに一筋の涙を流した。