第十二話問答
第一章完結
(戦闘の音が止んだな。精鋭部隊がカイテル達を仕留めたか)
ドルクは岩の影からゆっくりと顔を出した。
そこには信じがたい光景が広がっていた。
(……バカな! こ、こんな事があり得るのか!)
ドルクの視界には精鋭部隊は一人もおらず、カイテルとサンドラ族の大人がこちらに向かっていた。
(戦ったのは一騎当千の精鋭部隊だぞ! 奴らはそこまで強いというのか!)
ドルクは急いで岩に顔を隠した。
(勝てない……)
ドルクは頭を抱えた。
(こうなったらあの二人に任せるしかない……か)
「シュディ。盾を出せ。時間を稼ぐ。必ず奴らの攻撃を防げ」
「了解しました」
女性の精鋭部隊隊長、シュディは巨大な盾を片手で持ち上げた。
それを確認するとドルクは岩影から出て叫んだ。
「おい! 俺はここにいるぞ!」
サイトとカイテルの視線はドルクに向いた。
「うわ〜、お父さんとカイテルさんスゴいな〜」
ノックは二人の戦闘を遠目ながらしっかりと見ていた。
「まだまだ、僕じゃ勝てないや。しかも今回は出番が無さそうだし」
ノックは完全に油断している。
そのため気配を消して近付いてくる二人の存在に全く気付く事は無かった。
「悪いが」「人質に」
「させて」「もらうぞ」
「へっ?」
ノックは両手を不意に捕まれた。
「「捕獲完了」」
そこには姿形が似ている、恐らく双子であろう二人がいた。
「あぁ〜! 油断してた!」
ジタバタしているノックを尻目に二人は冷静だった。
「しかし」「驚いた」
「まさか敵が」「あそこまで強いとは」
二人は交互に話している。
(なんか変なのに捕まっちゃったな)
ノックはなんだかガッカリした。
「「ドルク様!!」」
「子供を!」「捕らえました!」
「「しまった!!」」
二人は後ろを振り向いた。
それを見てドルクは額の汗を拭いた。
「カイテル!そしてそこのサンドラ族! あの子供を殺されたくなければ俺に従え!」
それを聞くとカイテルとサイトは向き合った。
「だから言ったじゃないか、ノックを戦いに参加させるのはやめろって」
「ふむ……流石にここからではいくら速く移動しても間に合いませんね。取り敢えずここは私に任せなさい」
カイテルはドルクに向かって叫んだ。
「おい貴様ら! もしその子供を殺したら……その瞬間にドルクを殺すぞ!」
カイテルはドルクに剣を向けた。
「カイテル! それじゃ逆効果だろうが!」
「こういう駆け引きは貴方には無理でしょう?」
カイテルはあくまでも冷静である。
「それはそうだが……」
「カイテル様、残念ながらそれはさせません」
岩影からシュディが現れた。
「シュディ……ですか」
二人は互いに目を合わせた。
(カイテル様……)
シュディの目に戦意は無かった。
「さぁ! 構えを解け!」
カイテルは剣を降ろそうとはしない。
「何を言ってやがる! 貴様らが優勢になったわけじゃない! ようやく膠着状態になっただけだろーが! 確かに俺たちは貴様らに手を出せないが、もし貴様らがノックに手を出したらお前達を殺してそれで終わりだ!」
「……くっ!」
敵は誰も動けなくなった。
「おいカイテル。そのお前の交渉でノックが死んだら……俺はお前を殺すからな」
「私はノック君を死なせるつもりは毛頭有りませんよ。大丈夫です。ノック君は強いですから」
カイテルは剣をドルクに向けながら、ノックの方を見た。
「さぁノック君! 今こそ修行の成果を見せる時です!」
「うん! 分かった!」
ノックの身体が緑色に光だした。
「この子供」「気が使えるのか」
二人は瞬時にノックの手を離し、距離を取った。
「これは少々」「痛めつける必要がある」
一人は気を、もう一人は魔力を練り始める。
「「喰らえ!!」」
二人は同時に気と魔力をノックに向かって放った。
ズドドォォォォォン!!
攻撃はノックに命中し、爆発が起こった。
「油断した」「不覚だ」
それと同時に敵の二人は倒れた。
そこにはそれぞれカイテル、サイトがいた。
サイトとカイテルは敵の二人がノックの手を離した瞬間に移動を開始していたのだ。
「ノック! 大丈夫か!」
煙が徐々に晴れてきた。
そこには両手をクロスして身を守るようにして立っているノックがいた。
「う、うん。なんとか大丈夫みたい」
ノックはゆっくりと両手を下ろした。
「服が汚れてはいるが怪我はないみたいだな」
サイトはほっとした。
「攻撃しようと思ったけど、相手が速かったから守りに精一杯だったよ」
ノックは少し残念そうな顔をした。
「いえいえ、あの威力の攻撃で無傷なら十分過ぎますよ」
そう言うとカイテルはドルクの方を向いた。
「さぁ! ドルク! これで貴様に勝ち目は無くなった! 諦めやがれ!」
ドルクは目を閉じて黙っていた。
「ドルク様。もはや私達に勝機はありません。降参しましょう」
シュディは守りのスペシャリストである。しかし攻撃能力に関しては皆無であり、ドルクは戦う事が出来ない。さらにここから逃げる事も不可能なのでドルクには敗北以外の選択肢は残されていない。
「…………………………………………………………くくっくーくくくっくっはっはっはっはっはっは! カイテル! いいだろう! 降参だ! しかし完敗とはこうも清々しいのか!」
そこでドルクは急に笑いを止めた。
「そこでカイテル! お前に問う! なぜそれほどの力を今まで隠していた!?」
カイテルは剣を納めた。
「いや、別に隠していたわけではありません。使う必要がないので使ってこなかっただけです」
「何故だ!? その力を使えばハーン王国がゾーア大陸を一つにまとめる事が出来る! いや! お前が自分の国を作る事も可能だ!」
「私はそういうことに興味はありませんから……成程」
カイテルは一つの疑問が解けた。
「今の言葉から察すると貴方がザック島にこだわった理由はサンドラ族の即戦力ですか」
「あぁ、そうだ! 今ゾーア大陸の情勢は不安定だからな! サンドラ族を率いて戦争をすれば間違いなくゾーア大陸はハーン王国の物だ! なのにハーン王は戦争は駄目だと腑抜けた事を言った! おかしいだろ! 例え戦争をしてでもこの大陸を一つにすれば平和になるはずなのに! お前がハーン王をたぶらかしたせいだ!」
ドルクは決して間違ったことは言っていない。今回の事件の根底にはドルクのハーン王国への忠誠心、そして戦争という手段を用いようとしながらも決して私欲ではなく、ゾーア大陸の全ての民の心を思う熱い心がある。
「そういうわけですか……正直反論のしようがありませんね」
「カイテル! 今度はお前が答えろ! なぜそれほどの力を持ちながらお前はハーン王に仕えるんだ!」
カイテルは素直に話してくれたドルクに応えた。
「ハーン王には昔お世話になりましてね。彼にはこの世界を変えられる力を持っています。それでぜひ将来を見守らせていただきたいと思って仕えさせていただいてます」
「ではなぜ力を使わない!」
「私や彼、サイトというのですが、この力がこの世に不釣り合いな物だと知っているからです。その点は今回の事で貴方も分かったはずです」
それを聞くとドルクは悔しそうな顔をした。
「では住む世界が違うと?」
「力、という点においてはそうです。しかし他の点では普通です。頭の良さならあなたの方が上回っていましたし」
「いくら頭が良かろうとお前のような力を持った者には敵わない……」
「そんな世界、つまらないでしょう。だから本当は今回の事を負けた、とは思って欲しくないです。もし私達が人並みだったら本当は負けていましたのは私達でした」
「しかし逆に考えるとゾッとする。もしお前が野心を持っていたのなら……」
「そういう時期もありましたがね……上には上がいましてね。それはもうコテンパンにやられました。」
「恐ろしい話だな」
ドルクは自嘲気味に笑っていた。
「もし、この世に私達のような力を持つ者が現れたら、その時は私達が対処します」
それを聞いてドルクはハッとした。
「カイテル……お前はもうハーン王国には戻らないのか?」
「いえいえ、まだまだ大臣として働くつもりですよ。勿論、力は今までのように使いませんが。後、先に言っておきますが貴方もですよ、ドルクさん」
「この俺を許すというのか?」
「その代わり、今回の事はきっちりと片をつけて、そしてこれからもお互いにハーン王国をより盛り上げていきましょう」
「……分かった。約束しよう」
「そうしていただけると助かります」
二人は近づくと固い握手を交わした。
稚拙な文章