2-2 ソムィーズの宝物庫
「道順は誰にも教えてはいけないよ」
宝物庫に続く通路で、侯爵が言った。
「ここは、ソムィーズの当主とその後継者しか入れない。たとえ王様でも、パトリシアでもだめなんだ」
「王様もだめなんですか」
ローリアが尋ねた。
「だめだ」
侯爵が歩きながら答えた。
「権力者には絶対に渡してはいけないとされている。それくらい、魔力の強い石だけが、ここに隠されているんだ」
通路の壁には等間隔で丸い光る石がはめ込まれていて、淡い光が道を照らしている。建物全体を強い魔力、結界が覆っているのがローリアにも感じられた。おそらくここに侵入しようとした者は、恐ろしい目にあうことだろう。
赤い、金の装飾がされたドアが見えてきた。侯爵が何か呪文をつぶやくと、カチリという音がした。侯爵が扉を開き、ローリアを中に招き入れた。
部屋の両側に大きな四角い石があり、その上に、ベルベットの箱のようなものがたくさん、不規則に並んでいた。ローリアはその数の多さと、箱の色とりどりの様子に驚いた。
「君に守り石を渡しておかないと」
侯爵が箱を見回しながら言った。
「守り石?」
「常に身につけて、魔法を使うときの助けにするものだ。貴族はだいたい一つは持ち歩いている」
「そうなんですか?」
「君に似合いそうなのは──」
侯爵が視線を走らせると、箱のうちの4つが開いた。触ってもいないのに。ローリアは驚いてびくっと身を震わせた。
「どれが好きかな」
血のように赤い石、深い青の石、淡い緑の石、優しいピンク色の石が、ローリアの目の前で光っていた。
「あの、私には、高価すぎます」
「何を言ってるんだい」
侯爵が笑った。
「ここにあるすべての石は、もう、君のものでもあるんだよ」
「えっ……」
「とにかく、まずは一つ選んでごらん。この中に、常に持ち歩きたいものはあるかい?」
ローリアは石を一つ一つ見た。赤い石は、なんだか怖い。青い石は高貴すぎて気後れがする。緑色の石が一番きらめいているが、なんとなく合わない。
「これにします」
ピンク色の石を選んだ。
「じゃあこれを、身につけられるようにネックレスか指輪に加工させよう」
侯爵がピンク色の石が入った箱を手に取った。すると、いきなり箱の蓋がパタンと閉まった。
「あ、あの」
ローリアが控えめに言った。
「その子は、加工されるのが嫌なんだと思います。冷たい金属に乗せられるのが好きじゃないんです」
「そうかい?」
「そう感じます。なので、アクセサリーにはしないでください。自分で袋を縫って、それに入れて持ち歩きます。それが一番いいと思います」
「そんなことまでわかるのか」
侯爵は感心していた。
「なるほど。わかった。そうしよう」
それから侯爵は、
「一番大切なあの石は、あそこにある」
一番奥の、特別に作られた祭壇を手で示した。壁に掘られた穴に女神像が置かれ、その前に、見覚えのある箱が置いてあった。
ローリアは呼ばれたように自然にその前に行き、無意識に、
『開きなさい』
とつぶやいた。すると、箱が開き、中の石があいさつするように淡い光を放った。
「君は本当に、その石に好かれているみたいだね」
侯爵が言った。
「でも、触っちゃいけないんです。嫌がるから。なぜか知らないけど、わかるんです」
「やっぱり君が後継者にふさわしいよ!」
侯爵が笑った。
「しばらく『二人きり』にしてあげよう。石と会話するといい」
「会話?」
「そうさ、長い付き合いになるんだからね」
侯爵はそう言いながら部屋の外に出た。
ローリアはしばらく、光る石の美しさに見とれていたが、
「あなたはきっと女の子ね」
なんとなく思いつきをつぶやいた。
「石に性別があったら、きっと女の子だわ。触られたくないなんて。でも、今までは男の子ばかり選んできたんでしょ? どうして今回は私なの?」
石はなにかをつぶやくように光を強めたり弱めたりした。
「なんて言ってるのかしら」
ローリアは考え込んだ。
「これから、私はどうしたらいいと思う?」
ローリアが言うと、石は光を強めながら、10センチほど浮き上がった。ローリアが驚いて少し後ろに下がると、ゆっくりと元の位置に戻り、光るのをやめてしまった。
「よくわからないわ、あなたが何を言いたいか」
ローリアはどきどきしながらつぶやいた。
「でも、やるしかないってことよね?」
石は答えない。
「わかった。あなたにふさわしい人間になれるように努力してみる」
ローリアはが言うと、石は返事をするようにちょっとだけ光った。それから、箱の蓋がゆっくりと閉まった。
「今日はもう話したくないのね。難しいわ」
ローリアがつぶやくと、侯爵が部屋に戻ってきた。
「私、本当にこの石に選ばれたのかしら」
「もちろん」
侯爵が笑った。
「じゃなきゃ、箱は開かないし、そもそもここに入れないはずだからね……じゃあ、そろそろ戻ろうか。屋敷について説明するよ。それから、パトリシアと昼食だ……言っておくけど、彼女は厳しい先生だからね。真面目に話を聞くんだよ」
「もちろんです」
二人はもとの通路を戻っていった。




