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侯爵にお金を借りに行ったら養女にされました!  作者: 水島素良
第2章

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7/15

2-1 初日の朝

 次の朝。

 ローリアがベッドでまどろんでいると、誰かが急にカーテンを開けた。光が差し込み、ローリアはもぞもぞ動いてから、飛び起きた。

「おはようございます。お嬢様」

 三つ編みの女の子がお辞儀をしていた。顔は逆光でよく見えなかったが、自分と同じくらいの年齢に見えた。

「おはようございます」

 ローリアもあいさつした。

「あなたは……?」

「今日からお嬢様つきのメイドになりました、ユーナと言います」

 ローリアは驚いた。メイド?私に?

「あの、私、自分のことは自分でできるから、メイドはいら──」

「だめです!それでは、私の仕事がなくなってしまいます!」

 ユーナが言った。

「侯爵がお待ちです。朝食はもうできていますよ。侯爵はお部屋でとってもよいとおっしゃっていますが、運んできましょうか?」

「初日にそれは失礼な気がするから、行くわ」

 ローリアはベッドからはい出た。ユーナが服を持ってきて着替えを手伝ってくれた。

 先週まで、私もメイドだったのに。

 ローリアはそう思い、なんとなく気まずい思いをした。運命が違えば、この子と立場が逆だったかもしれないのだ。

「髪の毛がパサパサですね」

 髪を結い始めたユーナが言った。

「奥様に頼んで、ヘアオイルを使わせてもらいましょう」

「そんな高価なもの!私は使えないわ」

「何を言っているんです?お嬢様は侯爵令嬢なんですよ?高い化粧品だっていくらでも使えます」

「こ、侯爵令嬢……?」

 ローリアはその言葉の響きにうめいた。確かにそうなのかもしれないが、まだ慣れない。いや、一生慣れそうにない。

 服がまだ届いていなかったので(公爵家は跡継ぎに男の子を想定していたので、女物を用意していなかった)、昨日と同じ慣れた服装で、ユーナに案内されて朝食を食べる場所に案内された。ソムィーズ侯爵は新聞を読んでいて、夫人も記事をのぞきながら何か話していた。

「やあ、おはよう」

 侯爵がローリアに気づいて気さくに笑った。こうして見るととても優しそうに見えた。昨日のハイエナのような様子とは大違い、まるで別人だ。

「おはようございます」

 ローリアはおじぎをした。

「よく眠れた?」

「はい」

 あんなことがあった後だったのに、ふかふかのベッドが心地よすぎてすぐに眠ってしまった。疲れていたのかもしれない。

 ローリアが席につくと、男の従者がパンと卵を運んできた。お茶は別な女性のメイドが、ポットごと運んできた。

「さっそく今日から、必要なことを教えるよ」

 侯爵が言った。

「午前中は、宝物庫の魔石をひととおり見てもらう。昼食の時に、パトリシアがテーブルマナーを説明する」

 隣の侯爵夫人がにっこりと笑った。

「私は教師をしていたから、教えるのは上手いのよ」

 聞いたことがある。夫人の実家は没落し、一度、外国デュロソに逃げるように留学して、教師になった。それから、ずっと夫人を探していた侯爵に熱烈に求愛されて結婚した──というのが、ローリアが村で聞いた噂だった。

「午後は空けておいたから、邸宅の中を自由に見て回ってくれ。ユーナか、必要なら執事が案内してくれるさ。すまないが私は午後、王様に会いに行くのでね」

「跡継ぎが決まったことを報告しないとね」

 夫人が言った。ローリアは不安になった。侯爵家の跡継ぎがこんな田舎の『女の子』だと知ったら、王様はどう思うだろう?反対したりしないだろうか。

「心配いらないよ」

 ローリアの気持ちを察したのか、侯爵が優しく笑いかけた。

「王様も、跡継ぎは一人娘のカイエナ姫に決めているからね」

「えっ?」

「この国は近いうちに、女王が治める国になるのさ」

 侯爵が言った。

「だから、侯爵家を女性が継いだって、王様は何も言わないはずだよ」

 侯爵が夫人を横目で見て笑い、夫人もそれに応えて微笑んだ。

 この二人、すごく仲がいいのね。

 ローリアはそう思いながらお茶をすすった。それにしても、これから自分の予定は全て侯爵が決めるのかと思うと、不安にもなるのだった。

 本当に、私で大丈夫なの?

 その思いは、まだ消えていなかった。

「あと、夕方に仕立師が採寸に来るから」

 夫人が言った。

「大変よ。服をひととおり仕立てないといけないから。パーティーの準備もあるし」

「パーティーですか?」

「来月、ここに貴族を招くんだよ」

 侯爵が言った。

「なんと、ツヴェターエヴァの当主もいらっしゃるんだ。失礼のないようにしないとね」

 ツヴェターエヴァ。

 女神の代理人と呼ばれる、王家に次いで権力のある家で、代々『長女』が跡を継ぐめずらしい一家だ。

「だから、とびきり上等のドレスを作らないと」

 夫人は楽しそうに言ったが、ローリアはますます不安になった。

 貴族たちは、自分をどう思うだろう。

「心配いらない。パトリシアが必要なマナーを教えてくれるから。ただ、彼女はちょっと厳しすぎるところがあるけどね」

 侯爵がおどけた笑い方をした。

「そんなことないわ。あなたがだらしないのよ」

 夫人が言った。

 食事の間、侯爵夫婦は他愛のないことを仲良く話し合っていた。貴族はもっと冷たいものだと思っていたローリアは、それを見て少しだけ安心した。でも、これから『侯爵令嬢』として偉い人の前に出なければならないと思うと、胸の奥が重苦しくなってきて、せっかくの朝食もあまり喉を通らなかった。



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