9-5 小さい子の挑発
ローリアが玄関に行くと、デュドネ・カユザクと、いつか石のビジョンで見た黒髪の妻コロネリア、息子ネヴィル、娘ノラがいた。ノラは腕にモフモフを抱いている。
あの人たち、本当にいたのね。
ローリアが遠巻きに一家を眺めていると、
「おう、遅れて悪いな」
デュドネがローリアに笑いかけた。
「大雨で馬車が走れなくてな」
コロネリアが男のような口調で言った。ビジョンで見たときも美人だと思ったが、実物はもっと美しかった。長身で細い。端正な彫像のようだ。
「私はコロネリア、この子がネヴィル、こっちがノラだ」
「存じております」
ローリアはおじぎをした。
「ここは広いから好きなだけ暴れられるな。ククッ」
デュドネが変な笑い声を発した。
「爆発物を投げるのは禁止だぞ」
「ピッキー!」
コロネリアが言い、モフモフが鳴き声を発した。
「僕疲れた。休みたい」
ネヴィルが言った。
「えー!遊びたい!」
ノラがモフモフを地面に下ろしながら言った。
「ずっと馬車に乗ってたら身体がなまっちゃったもん」
「じゃ、お前はこのお姉さんの訓練を手伝え」
デュドネがローリアを指さした。
「えっ」
ローリアはノラを改めて見た。まだ5歳くらいの子どもだ。何をさせる気なのだろう。
「さっそく広場に移動するぞ」
「ピッキー」
モフモフが牧草地に向かって走り出した。ノラが追いかけていく。コロネリアは息子と一緒に屋敷に入っていった。そこでローリアは気づいた。ケッパー夫妻と屋敷の使用人たちが集まって、おびえた顔でこちらを見ているのを。
「どうしたの?」
ローリアが声をかけると、
「デュドネ様が来たので、みんな怖がっているのです」
デリルが言った。
「前に来たときは、実験で納屋を爆破しました」
ナルシーが言った。
「えっ……」
「侯爵がそりゃあもうお怒りになって」
デリルが言った。
「また何か起きやしないかとみんな不安なのです」
「おい! 早く来い!」
デュドネが叫んでいる。
「だ、大丈夫よ、たぶん」
ローリアはごまかすように言って走り出した。
「ノラがお前を攻撃するから、回避しながら走り回るモフモフを攻撃しろ。10回当たるまでな」
デュドネが言った。
「今回は難しいぞ。同時に2カ所に注意しなくちゃならないからな」
「わかりました」
「あと、間違ってノラを攻撃したらマイナス1回な」
「あんな小さな子、攻撃しませんよ」
「それが、パニックになると間違えるんだよな」
デュドネが笑った。
「じゃ、とりあえず走れ!」
「ピッキー!」
モフモフが走り出した。
「待てーっ!」
ローリアは追いかけながら光の玉を放った。モフモフの少し横をかすめて飛んでいった。
ノラを見ると、両手を頭上にかかげて……赤い玉を作り出している。炎だ!
「えっ」
ローリアは慌てた。てっきり自分と同じ光の玉で攻撃してくると思っていたからだ。
「てーい!」
ノラの声とともに、炎の線が複数、ローリアを追いかけてきた!
「キャー!」
ローリアは逃げた。
「キャーキャー言うなと言ってるだろうが!」
デュドネが怒鳴った。
「モフモフを追いかけろ! もう遠くに行ってるぞ!」
見ると、モフモフは牧草地のはるか向こうまで行ってしまっていた。慌てて走る。しかし、
「てやー!」
走ってきたノラの声とともに、ローリアの足元の土が弾け飛んだ。
「えっ!?」
ローリアは足を取られて倒れた。どうやら土の魔法も使うらしい。さすが天才の娘。
起き上がろうともがいていると、ノラが近くまでやってきてのぞき込みながら、
「お姉さん、ちょろい」
かなり意地悪な顔で笑った。
「くっ……」
ノラが走り出した。
「待ちなさーい!」
ローリアはノラを追いかけてしまった。
「だからそっちじゃねえって!」
デュドネが怒鳴り、
「ピキッキー!!」
無視されたモフモフは怒って戻ってきた。
そんな三人と一人の様子、というより、炎や爆発が次々と起こる様を、屋敷の窓からみんなが怯えながら眺めていた。その中にはアルマもいた。
「今の爆発、見ました?」
パーシーが言った。
「女の子に向かってなんてことするんだ」
デリルが言った。
「ローリアは訓練とか練習って言葉が好きなのよ」
アルマが冷めた声で言った。
「わたしにはわからないご趣味ですけれど」
みんなが見ていると、ローリアの放った光の玉が、なぜかデュドネに当たった。怒ったデュドネが何かをぶん投げ、また爆発が起きた。
「ヒィッ」
ナルシーが怯えて夫にすがりついた。
「女の子があそこまでする必要あるのか」
デリルが言った。
「あるのよ。だってソムィーズの跡継ぎだもの」
アルマが言った。
「言っとくけど、ローリアは本当に魔力が強いんですからね。本気で怒らせたら──」
ローリアが放った光の筋が木に当たった。木はなんと、真っ二つに裂けて、ゆっくりと倒れた。
「あれよ」
アルマがなんてこともない顔で指さした。使用人たちは蒼白な顔でそれを見ていた。
「心強いでしょ?あんな子が将来みんなを守ってくれるんだから」
アルマは皮肉っぽく笑い、歩き出した。
3時間後。
「お前は挑発に弱すぎる」
7発で力尽きて倒れたローリアを見おろしながら、デュドネが呆れていた。
「モフモフよりノラと俺を攻撃した回数のほうが多かったぞ。簡単に敵に乗せられてどうするんだ」
「すみませぇん……」
ローリアは反論する元気がなかった。本当は『先生まで攻撃してくるなんて聞いてませんよ!!』と言いたかったのだが。
ノラはモフモフと遊んでいる。子どもの体力はすさまじい。3時間走り回ってもまだ元気だ。
「これが戦場だったら、お前は死んでるぞ」
「はい……」
「お嬢様! 大丈夫ですか?」
ユーナが走ってきた。
「次は3日後だな。もう1回同じことやるぞ」
デュドネは娘を抱き上げて去っていった。モフモフがそのあとを追いかけていく。
ローリアはよろけながら立ち上がり、ユーナに支えられながら屋敷に戻った。
「悔しい」
歩きながらつぶやいた。
「10発当てられなかった」
「あれだけ暴れたら十分ですよ」
ユーナが言った。
「屋敷の者はみんな驚いてますよ。お嬢様が素晴らしい魔法を使うから」
廊下にケッパー夫妻と使用人たちがいた。みんな、今までとは違う顔でローリアを遠巻きに見ていた。ローリアが通るとみんなさっと横によけ、中には敬礼する者までいた。
ローリアは部屋に入るなりすぐ、花柄のベッドに倒れた。
「お嬢様、寝る前に着替えてください!」
ユーナが起こそうとしたが、ローリアはそのまま眠ってしまった。




