1-5 「君が後継者だ!」
その後、石は少しずつ光を失っていき、ゆっくりと落ちてきた。侯爵が石を受け止め、男の子たちのほうを見て言った。
「これでわかっただろう。石が誰を選んだか」
「えっ?」
「なんだって!?」
「ハア?」
動きを止めていた男の子たちが、いっせいに反応した。
「この石は、安易に触ってはいけないものなんだ」
侯爵が言った。
「石から湧き出ている魔力を感知できれば、そのことはすぐにわかったはずだ。しかし、みんな気づかずに触っていただろう。実はね、この試験は、この石に触った時点で失格なんだよ」
侯爵はそれからローリアを見た。
「でも、彼女は違った」
それから、心から優しい顔でローリアに近づいてきた。ブローチの緑の石から放たれる魔力からも、警戒感は消えていた。
侯爵は、驚きで固まっているローリアの手を取り、
「おめでとう!君がソムィーズの後継者だ!」
と言って、強く握った。
「ふざけるな!」
「後継者が女?ありえない!」
「こんなのインチキだ!イカサマだ!」
男の子たちが一斉に抗議し始めた。クィルだけは、心配そうな顔でローリアを見ていた。
「ち、違うんです!」
我に返ったローリアが慌てて言った。
「私はただ、病気の妹のために薬代が欲しくて、侯爵なら親切だから貸してもらえると思って!」
「妹さんが病気なのかい?」
侯爵が尋ねた。
「すごく珍しい病気で、薬がとても高いの。村には出せる人がいないから」
「もちろん?薬代は僕が出そう」
侯爵が言った。
「君が僕の娘になってくれたらね」
ローリアは怯えて、後ろの壁にはりついた。
「だから!そういうつもりじゃなかったんです!私は後継者になんかなれません!」
ローリアはすがるような目で侯爵を見た。
嘘よ。
嘘でしょ?
嘘だと言って。
「いいかい」
侯爵が寂しさと厳しさの混じった目で言った。
「これは、僕にもどうにもできないことなんだ。魔石が君を選んだからだ。これはもう決まったことなんだよ。君はこのソムィーズ家を継ぎ、この国の魔石の管理者になるんだ」
どうやら、本当らしい。
それがわかったとたん、ローリアは目を見開いて侯爵を見つめた後、気を失って倒れてしまった。
「ローリア!!」
クィルが飛びついてきてローリアを抱きとめた。
「彼女を部屋に運んで、医者とパトリシアを呼んでくれ」
侯爵が従者に命じた。クィルがローリアを運ぼうとしたとき、
「俺は認めないぞ!」
「この魔女め!!」
男の子たちの何人かが、ローリアに襲いかかった。魔法を放ったものもいた。
しかし、
『止まれ!』
侯爵が怒鳴った途端、全ての男の子の動きと魔力が止まった。
「う、動けない」
殴りかかろうとした男が、空中で止まってもがいていた。他の男の子たちも体が石のように固まり、身動きができなくなった。
「ソムィーズ家は代々、魔封じの家系でね」
侯爵が冷たい声で言った。
「それは、魔力の強い王家やツウェターエヴァ家のような名家が何か間違いを犯した時、ソムィーズがそれを止める任務を担っているからだ。女性に負けたくらいで逆恨みして暴力を振るうような愚か者には、この重大な任務は務まらない」
侯爵は男の子たちに背を向け、
「外で馬車が待っているから、早く帰りなさい」
と言い捨てて、ホールを出ていった。男の子たちは、その後10分くらい侯爵の魔力から抜け出せず、その場でもがく羽目になった。




