7-5 お母さんたちに会いたい
『発現せよ!』
夕方、部屋に戻ってから、ローリアは何度も四角い石に向かってそう言ってみた。しかし、デュドネのような光の鏡は現れてくれない。一瞬、キラッと光を帯びたりはするのだが、それ以上の反応はしてくれなかった。
『呪文は自分で創り出すものだ』
と言われてしまったので、さっきから文章をいろいろ考えて言ってみたり、
「お願い。お母さんとお父さんに会わせて」
と頼んでみたりしているのだが、効果がない。
ローリアはどうしても、亡くなった両親の顔をもう一度見たかった。
お母さんに、きれいな服を着た自分を見せたい。
「きれいになったのね」
と言って、笑ってほしい。
お父さんに「私の選択は正しかったのか」聞いてみたい。教師だったから「これから何をすべきか」教えてもらいたい。
『発現せよ!』
また言ってみたが、四角い石は独特の魔力をゆらめかせるだけで、何も出してくれない。
デュドネ先生は、どうしてこの石の使い方がわかったのかしら。ちょっと見ただけで。やっぱり偉大な魔法使いなんだわ。性格はおかしいけど。
ローリアがそう考えていると、誰かがドアをノックした。
「ダイヤのネックレスを見せて」
アルマが部屋に入ってきて言った。
「あなたも買ってもらってたじゃない」
「私のとはちょっと違うもの」
アルマが、四角い石を持っているローリアを見て、
「そんな金属の塊みたいの見てて楽しい?」
と尋ねた。
「私、お母さんの顔が見たいの」
ローリアが言った。
「お母さん?」
アルマが疑問の顔をした。
「石とお母さんに何の関係があるのよ?」
ローリアは、デュドネ・カユザクがやってみせたことをアルマに説明した。
「だから、忘れてしまう前に、お母さんとお父さんの顔を見てみたいの」
ローリアが四角い石をなでながら言った。
「でも、なかなかうまくいかない」
「たぶん、今は見るべきじゃないからよ」
アルマが真面目な顔で言った。
「どういう意味?」
「ねえローリア」
アルマがローリアの手を握って言った。
「お母さんたちが恋しいのはわかる。私だって会えるものなら会いたい。思い出して泣きたくなることは毎日のようにある……でも、今は、私たちの両親は侯爵夫妻なのよ。あの二人がとってもよくしてくださってる。ここで亡くなったお母さんたちの話をするのはよくないわ。侯爵夫妻が悲しむじゃない」
「そうだけど……」
「あんた、侯爵夫妻に対してよそよそしすぎるわ」
アルマが言った。
「まだ召使いの女の子みたいな態度してるもの。ねえ、あんたは、ツヴェターエヴァのご令嬢を除けば、令嬢たちの頂点にいるんだから!もっと堂々としなさいよ」
「あなたはお金持ちのお嬢様になりすぎよ」
ローリアが言い返した。
「態度がどんどん悪くなっているように見えるわ。気のせいかしら?」
「それは私が令嬢に見えるように努力してるからよ」
アルマは平然と言ってのけた。
「村娘に見えないようにがんばってるの。パーティーの時のみんなの態度、忘れた?『平民の娘』ってさんざん見下されたじゃない。悔しくないの?」
「だって私たちは本当に平民の娘じゃないの」
「もう違うんだってば!」
アルマが感情的な声で言った。
「ローリア、大きな決断をしたのはあんたでしょ?なのにあんたが現実を見ていないのはおかしいわ。私たちはもう村娘じゃない。公爵令嬢なの。なめられちゃいけないのよ。私たちが何者か、みんなに教えてあげなくては。部屋にこもって本ばっか読んでたってだめよ。地位を見せつけないと。だから宝石もドレスも一流じゃなきゃいけないの」
ローリアはショックを受けた。アルマはいつからこんな子になったんだろう?ほんの数ヶ月前まで、もっとおとなしい子だったのに。金や地位は人を変えてしまうものなのだろうか。悲しくなってきた。
アルマはローリアの手を離すと、勝手にクローゼットを開けて宝石箱をあさり始めた。
ローリアはため息をつきながら四角い石を机の引き出しにしまい。ベッドに座った。
また、誰かがドアをノックした。
「ちょっといいかしら」
侯爵夫人だった。
「パトリックが、二人に話があるって」
「何でしょう?」
ローリアが尋ねた。
「私、何かまずいことをしましたか?あっ、もしかして、モフモフを攻撃してるときに何か破壊したとか?」
慌てるローリアと、横目で姉をにらむアルマ。
「何も壊れてないわよ」
侯爵夫人が笑った。
「かなりいい話よ。ディナーホールに来てちょうだい」
それから、侯爵夫人は、
「無理に私たちを親だと思わなくていいのよ。ここに来てまだ数ヶ月しか経っていないものね」
と言って、去っていった。
「話、全部聞かれてたっぽいわね」
アルマがネックレス片手に言った。
「そうみたいね」
ローリアは心がちくりと痛むのを感じた。侯爵夫人はあんなに優しい人なのに、なぜか『お母様』と呼ぶには抵抗がある。なぜだろう。
「早く行きましょ。いい話ですってよ」
アルマがネックレスをしまいながら言った。
「もしかしたら、あんたの結婚相手を見つけてきたのかも」
「えっ?」
「どっかの次男がプロポーズしてきたとか」
アルマがニヤニヤ笑った。
「やめてよ!」
ローリアが叫んだ。二人は笑いながらディナーホールに向かった。




