7-4 2回目の授業
衝撃の出会いから一週間後。
ローリアはビクビクしながらデュドネ・カユザクを待っていた。今度は何をする気だろう?また変なものを持ってきたらどうしよう。とりあえず光の玉を的に当てる練習はしたけれど……。
いろいろ考えていると、デュドネがやってきた。前と同じ紺色の服を着ているが、今日は半袖だ。暑いからだろうか。意外と腕に筋肉がある。胸元には白い毛の塊みたいなものを抱えていて、よく見るとそれには黒い目がついていた。
「よう。逃げずに来たな。ほめてやるよ」
デュドネが皮肉っぽい笑い方をした。
「ちょっと爆発物を食らわしたくらいで行方をくらます生徒が多くてね。うんざりしてたところだ!」
「無理もないと思いますぅ」
ローリアが言った。普通の人間はあんな目にあったら二度と近づきたくないと思うだろう。たとえそれが幻覚だったとしてもだ。
デュドネはククッと笑い声をもらしながら、白い毛を草の上に降ろした。
「それは何ですか?」
「王妃さまが異界から呼び出した魔獣だ」
「い、異界?」
ローリアが驚いていると、
「王妃様は困った方だが、れっきとしたツヴェターエヴァ家の長女であらせられるからな。召喚の魔法が使えるのさ」
「しょうかん?」
ローリアはその言葉を聞いたことがなかった。
「魔獣を呼び出して攻撃する魔法なんだが、時々変なものを呼び出して、しかももとに戻せないとか言い出してね。仕方ないから連れて帰ったら子どもたちが気に入って……ま、それはどうでもいい」
「ピッキー!」
「ヒッ」
白い毛が変な鳴き声を発したので、ローリアは思わず引いた。
「今日も走り回ってもらうぞ」
デュドネがニヤニヤ笑っている。
「これからこいつが逃げるから、がんばって追いかけ回して攻撃魔法を当てろ」
「えっ?」
「こいつが練習の的さ」
「ピッキー!」
「で、でも、かわいそうじゃないですか」
「大丈夫だ。こいつに光の魔法は効かないんだ」
「そうなんですか?」
「それに、こいつは変態だから、攻撃されると喜ぶ」
「えっ」
「10回当てるまで止まらないからな」
「わ、わかりました」
「ちなみに、こいつの名前はモフモフだ」
「……そのまんまですね」
2日目の訓練が始まった。
「そら!行け!」
デュドネがモフモフを叩いた。モフモフは犬と同じくらいのスピードで走り出した。
「ま、待って!!」
ローリアは慌てて追いかけた。
「ピッキー!」
モフモフは止まらずに走っていく。
「攻撃しろよ!」
デュドネが叫んだ。
「はいっ!」
ローリアは光の魔法を飛ばしたが、モフモフは思いっきり飛んで攻撃をかわした。
「あんなにジャンプするの!?」
ローリアは追いかけながら何度も魔法を飛ばしたが、ことごとくよけられて全然当たらなかった。
「ハア、ハア……」
ローリアが走り疲れて荒い息をしていると、
「ピッキッキー」
モフモフが止まって、ローリアを見ながらその場でぴょんぴょん跳ねた。
「ピッキキー」
くるくる回ったりもしている。早く当てろよ、と挑発しているかのようだ。
「くうっ」
ローリアは悔しくなってきてまた走り出した。モフモフはまた逃げていく。
「待ちなさーい!!」
2時間後。
ローリアは草の上に、青白いうつろな顔を横に向けて死んだように横たわっていた。隣でモフモフが昼寝をしている。デュドネはその横であぐらをかいて空を見ていた。
「よくがんばった」
デュドネが空を見たまま言った。
「10発当てるのに2時間もかかるのはどうかと思うが、まあ、お嬢様の体力じゃ、やりきるまでもっただけ大したもんだ」
「もう死にます……」
ローリアがかすれ声で言った。
「これくらいで死んでたまるか。前も言ったが、本物の戦場はこんなもんじゃないんだ。もっと訓練するぞ」
「もう無理です……」
「心配するな。俺の辞書に無理という言葉はない」
「怖いですぅ」
ローリアは疲れすぎてぼんやりしていたが、そのうち、あることを思い出して起き上がった。
「そういえば、宝石屋さんで変わった石を見つけたんですけど」
ローリアは服のポケットから、金属に見える四角い石を取り出してデュドネに渡した。
「すごく魔力を感じるんですけど、どう使えばいいかよくわからなくて」
デュドネは石をなめるように見た後、
「これは面白い」
ニヤッと笑った。
「お嬢様、魔石を鑑定する素質があるな」
それから、石を額に当てて、なにやら呪文をぶつぶつつぶやいた。
『発現せよ』
仕上げにつぶやくと、石から丸い鏡のような平たい光が現れた。表面に黒髪の女性が映っている。細い顔に、意志の強そうな目をした美女だ。
「これは俺の妻のコロネリア」
次に、小さな男の子が映った。
「こいつは息子のネヴィル」
それから、もっと小さな女の子が映った。
「こいつは娘のノラ」
「わあっ!」
ローリアは驚き、喜んで目を輝かせた。
「すごい!これはなんて魔法なんですか?」
「知らん。俺も今はじめてやってみたからな」
「えっ?」
光が消えた。デュドネは改めて四角い石を観察しているようだ。
「どうやらこの石には、心で思ったことを映し出す力があるらしい。俺も初めて見た」
「そうなんですか?」
「これ、俺にくれ」
「ダメです!侯爵に買っていただいたんですから!」
ローリアは慌ててデュドネから石を取り返した。
デュドネは『チッ』と言いながら立ち上がりモフモフを抱き上げた。
「俺は帰るぞ」
「あ、待ってください! さっきの呪文を教えてください!私もやってみたいです!」
「呪文は教えるものじゃない。自分で創り出すものだ」
デュドネが振り返って笑った。
「考えてみろ」
「ええっ……」
ローリアが困っているうちに、デュドネは早足で帰っていった。




