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侯爵にお金を借りに行ったら養女にされました!  作者: 水島素良
第6章

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6-5 手紙

 姉妹がソムィーズ邸に戻ると、執事ラーデイルが玄関ホールで待っていた。

「お帰りなさいませ、お嬢様がた」

 ラーデイルがにこやかに言った。その後ろに、海を描いた巨大な絵があることにローリアは初めて気づいた。

 なんてこと、こんな大きな絵があるのに今まで気づかなかったなんて。

「あのっ、ラーデイル、さん」

 ローリアは緊張しながら言った。

「ここにある絵、セドリック・アーマーの『トーマムの荒波』と言うんですってね」

「やっとお気づきになりましたか」

 ラーデイルはなぜか安堵の表情を浮かべた。

「ごめんなさいね。芸術の知識がほとんどなくて」

 ローリアは絵を見つめた。灰色の荒波に、小さな船が翻弄されている。玄関に飾る絵にしては暗いテーマだ。

「これにはどんな意味があるの?」

 ローリアが尋ねながらアルマをちらっと見ると──全く興味がないらしい。話を無視して2階に行ってしまっていた。

「この絵は先々代の当主であるエリック・ソムィーズ様が、セドリック・アーマーから買い取ったものです。荒波は人生を、船はそれに立ち向かう人間を表しているのですよ」

「そうだったのね」

 ローリアが大きな絵を見あげながら言った。

「あのう、セドリックさん。もしよかったら時間のあるときに、この屋敷にある絵画や美術品について説明してくださる?」

「いつでも喜んでご説明しますよ」

 ラーデイルが微笑んだ。

「ですが、その前にお手紙をご覧になったほうがよろしいかと思います。何通か届いておりますので」

「わかったわ」

 ローリアが部屋に戻ると、ユーナが待っていた。

「ものすごく分厚い封筒が届いてますよ」

 ユーナが言った。

「それと、薄いのが2通」

 ローリアは机に向かい、まず薄い手紙を手に取った。差出人が書かれていない。

「誰かしら?」

 開けて中を見ると、


『今すぐ後継者を降りろ、この腐れ女

 侯爵をうまく誘惑したようだが

 お前の思い通りにはさせんぞ』


 と書いてあった。ローリアの顔が真っ青になった。

「お嬢様、こんなの気にしちゃいけません!」

 後ろからのぞいていたユーナがローリアの手から手紙をひったくり、魔法で暖炉に火を焚いて燃やした。

「ただの嫌がらせです。試験に落ちた男たちの仕業かもしれません。よくあることです。気にしちゃいけません」

「でも……」

「お嬢様、ショックを受けるといけないので黙っていましたが、こういう手紙は昔からよくあるんです。ソムィーズ侯爵には『この手の手紙は全て燃やせ』と命じられています。侯爵も、こういう手紙が来たら、呪いをかけて燃やしていらっしゃいます」

「の、呪い!?」

 ローリアは思わずのけぞった。怖い。

「たいした呪いじゃありませんよ『明日、歯が痛くなるぞ』みたいな軽いやつです。今ごろ、街の歯医者はさぞ儲かっているでしょうね」

「ちょっと待って。そんなにたくさん来てるの?私を悪く言う手紙が」

「ほんの何通かですよ。気にすることありません。どうせ書いてる奴はバカなんですから。ささ、ほかの手紙を開けましょう」

 ユーナがもう一通の薄い手紙をローリアに渡した。

 これも悪口だったらどうしよう……。

 ローリアは不安に思いながら封筒を見た。差出人はダン・スゥオーサーだった。ダンスパーティーで会った長男たちの一人だ。

 手紙はこんな内容だった。


『ああ、麗しの乙女よ

 亜麻色の髪は優しく

 瞳は希望に輝き

 女神に選ばれし女当主

 夜空に輝く銀色の

 星々さえ目がくらむ輝きの

 女神に祝福されし

 天上の乙女たち

 ……(以下、延々と続く)』


「こ、これはっ!?」

 ローリアは大いに困惑していた。ある意味、悪口より衝撃的だ。

「お熱いですねえ。ウフフ」

 後ろでのぞいていたユーナが薄ら笑いを浮かべていた。

「お嬢様も詩でお返事されたらどうです?」

「無理よ! 詩なんて書けない」

 ローリアは手紙をつまんで遠目に見た。

「これ、どう返事したらいいの?」

「奥様に聞いてみたらいかがです? ウフフ」

 ユーナは笑いが止まらないようだ。

「そうするわ」

 ローリアは侯爵夫人を探しに行った。侯爵夫人はリビングでドゥロソ語の小説を読んでいた。

 すごい、外国語の本を普通に読めるのね。

 ローリアが遠巻きに見ていると、

「どうしたの?」

 侯爵夫人がローリアに気づいて微笑んだ。

「どう返事していいかわからない手紙があって」

「見せて」

 ローリアは手紙を侯爵夫人に渡した。

「……プッ。ウフフ」

 侯爵夫人は見るなり笑い出した。

「これは困ったわね」

「そうなんですぅ」

「当たり障りなく、『お手紙をありがとう』くらいにして、詩についてはあまり触れないほうがいいわよ。ほめたらまた送ってくるから」

「わかりました」

 ローリアは手紙を受け取りながら、

「あのう……」

 と言った。

「何かしら?」

「いえ……なんでもないです」

 悪口の手紙について相談しようとおもったが、やめた。あんな汚い内容をこの人に向かって口にしたくなかった。

 ローリアは部屋に戻った。手紙はあと一通。大きな、分厚い封筒だ。

「カイレル・マーデスだわ」

 もしかして本のリストだろうか。こんなに分厚くなるもの?ローリアが疑問に思いながら封筒を開けると、中から本が一冊と、紙の束が出てきた。

 本は『若者のための帝王学』だった。


『やあ、新しいお嬢様!

 麗しき貴族の世界に戸惑っているのかな?

 じゃあ、このリストの本を全部読みたまえ。

 このいまいましき世界のことがわかるよ。

 じゃ、せいぜいがんばりたまえ!』


 という、ふざけた手紙も入っていた。文字が震えたように奇妙に踊っている。

「手紙を書くときまで酔っぱらっているの?」

 ローリアは呆れた。しかし、本を送ってくれるのはありがたい。

 紙の束は10枚あり、それぞれに本の題名と著者がびっしりと並んでいた。かなりの数だ。

「あのう、お嬢様」

 後ろのユーナがおびえながら言った。

「まさかそれ、全部読む気じゃないでしょうね」

「もちろん全部読まなきゃいけないわ」

 ローリアは平然と答えた。

「アルマとパーシーを呼んできて。本を探すのを手伝ってもらうから」

 ローリアはそう言いながら立ち上がり、図書室に向かった。未来の女当主として、この奇妙な酔っぱらいの挑戦を受けなければ。



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