1-3 22日、ソムィーズ広場にて
22日。ローリアはクィルと一緒に広場に向かった。そこには既にたくさんの男の子が集まっていた。身なりがよい子もいれば、みすぼらしい子もいた。みんな、この一攫千金のチャンスにわくわくしているようだった。ソムィーズ家の跡継ぎになれば、お金も爵位も手に入る。一気に国の重要人物になれるのだ。ワクワクしないわけがない。
「どうして男の子ばっかりなのかしら」
ローリアは思った。
「女の子だって魔力はあるのに」
「ああ、そういえば、新しい『白の司祭』には、女性が指名されたらしいね」
近くにいた茶色い髪の男が話しかけてきた。
「ほんと?」
ローリアは驚いた。『白の司祭』とは、ロンハルトの魔法使いの最高位で、女神に仕える重要な役割である。
「先代のデュドネ・カユザクの配下に、ものすごく魔力の強い女性がいたらしい」
「どうせ愛人だろ」
隣の黒髪の男の子が言うと、まわりの男たちがいっせいに下品な笑い声を発した。ローリアはこの笑い声が嫌いだった。帰りたくなったが、妹のために我慢した。侯爵に会ってお金を借りるまで、あきらめるわけにはいかない。
「お前、女のくせになんでここにいるんだよ」
身なりの汚い男が近づいてきた。
「弟の付き添いよ」
ローリアはクィルにくっついた。
「男のくせに一人で来れねえのかお前は」
「しょうがないじゃないか。どうしてもついてくるって言って聞かないんだから」
クィルが言った。
「それに、僕が金持ちになる瞬間を家族に見せたいしね」
「ずいぶん自信があるじゃねえか」
男がクィルににじりよってきた。
「俺と勝負しろ」
「やめたまえ」
大きな宝石をつけた手が割って入ってきた。いかにも金持ちのような、派手な身なりをした青年だった。
「勝負は侯爵に会ってからにしよう。見たまえ。馬車が何台もこちらに向かってくるよ。侯爵の使いが迎えに来たんだろう」
それはかなり珍しい光景だった。1台でも目立つ、高級な木材を使った金の飾りのある馬車が、何台も何台も広場に入ってくるのだ。まるで、貴族が集まってきたかのようだ。
「諸君、乗りたまえ!」
飾りのついた派手な服を着た男が叫んだ。
「ソムィーズ侯爵がお待ちだ!」
男の子たちが、先を争うように馬車に群がり出した。
「早く乗らなきゃ!」
ローリアとクィルも馬車に向かったが、男の子の数が多くてなかなか進めない。
「お嬢ちゃん、ここで何をしてるんだ?」
声がした。見ると、1台だけあまり立派ではない、あちこち傷んだ馬車があった。そこから、庶民的な身なりの、汚れたシルクハットをかぶった男が、人懐っこい笑いをこちらに向けていた。
「ここは女の子の来るところじゃねえぜ!欲に駆られた男たちがひしめいてて危ないったらねえよ!」
「私たちを乗せてくれる?」
ローリアは叫んだ。
「もちろんよ!こっち来な!」
ローリアとクィルは傷んだ馬車に近づいた。御者が手を貸してくれて、なんとか乗り込むことができた。
「金持ちのボンボンどもめ!」
御者が外から叫んだ。
「侯爵が「馬車が足りないから来てくれ」って言うから喜んで飛んできてやったのに、誰も俺の愛車に乗りたがらねえとは!」
「どうせ乗るなら立派なのに乗りたいよね」
クィルが冷めた顔でつぶやいた。
「クィル!」
ローリアは注意してから、そっと、小さな窓の外を見た。
「侯爵に会ったことがあるの?」
「エリザベスの店で一緒に飲んだよ」
御者が笑った。
「あの方は、うさんくさい街の連中とも普通に話すんだよ。ま、貴族にしちゃ変わり者だな」
「まあ」
噂は本当だったらしい。
どこかから男の子たちの怒鳴り声と轟音が聞こえてきた。どうやら馬車の数が足りず、誰が乗るかで争いが起きているらしい。魔法らしき光が断続的にかすめていく。
「なんだか怖いわ」
ローリアがつぶやいた。
「人は金が絡むと変わるんだよ」
御者が言った。
「しかも今回は爵位まで絡んでるからな。こんなチャンスはもう二度とないしな」
「どうしてソムィーズ侯爵は跡継ぎを公募したのかしら。由緒ある別な家から子供を選べばいいのに」
「さあな!何考えてんだか!」
御者の叫びとともに馬車が動き出した。争い合う声の中を通り抜け、広場を離れると、まわりが急に静かになった。
とうとう、侯爵に会えるんだわ。
ローリアは両手を膝の上で握りしめた。
急に緊張してきた。自分のような田舎のメイドが、高貴な方に急に会って、きちんと話ができるのだろうか。




