5-2 なのに、ダンスパーティーの招待状が来る
「マーデス家からダンスパーティーの招待状が来ているよ」
ある日の夕方、侯爵がにこやかに言った。
「ちょうどいいわ。レッスンの成果を試せるし、王様の舞踏会のための練習にもなるわね」
侯爵夫人が言った。
「やった!」
ダンスが得意なアルマは小躍りして喜んだ。
しかし、隣のローリアは真っ青だった。
「あのう」
弱々しい声で言った。
「私、欠席してはダメですか」
「ダメよ!」
侯爵夫人とアルマが同時に言った。
「くうっ」
ローリアが変な声を出したので、侯爵が「ハハッ!」と笑った。
「心配いらないよ。貴族の息子たちも来る。彼らは君に会いたがっているから、きっと踊ってくれるよ」
侯爵は勘違いしていた。かわいい娘が『誰も誘ってくれなかったらどうしよう』と心配しているのだと思っていたのだ。
しかしローリアの心配はこうだった。
『偉い人の足を踏んだり、吹っ飛ばしたりしてしまったらどうしよう?』
しかも、貴族の息子と踊ったりなどしたら、また街に噂が出てしまう。
「あのう」
ローリアが尋ねた。
「ダンスに誘われても、断っちゃダメですか」
「ローリア。最初は誘われたら素直に受けて、慣れていったほうがいいのよ」
侯爵夫人が言った。
「何人かと踊ってみて、どうしても態度が悪くて耐えられない相手がいたら、『気分が悪いので』と言ってその場を離れればいいのよ」
ローリアは決めた。当日は仮病を使おう。
しかし、
「ローリア、当日に『頭が痛い』とか言うのはやめてよね」
妹は全てを見抜いていた。
「せっかくのダンスパーティーなんだから!」
「ううっ……」
ローリアは悲痛な表情をしながら、ふらふらと部屋を出ていった。
「ローリアはどうしたんだい?」
侯爵が不思議そうな顔をした。
「あんなにダンスパーティーを嫌がるなんて」
「ダンスが苦手すぎるからです」
アルマが苦笑いで答えた。
「ちょっと様子を見てきます」
数分後、アルマは、ローリアがお祈り用の祭壇の前にいるのを発見した。女神アニタの像に向かってひざまずき、何か祈っている。
「女神アニタ様。どうか、ダンスパーティーに出なくて済むようにしてください。天変地異でも熱でもなんでもいいですから!」
ローリアが小声でぶつぶつ言っている。
アルマは呆れた。
「女神様はそんな祈りは聞かないわよ!」
後ろから近づいていくと、ローリアが振り返って妹をきつい目でにらんだ。
「街で聞いたんだけど」
アルマはかまわずに言った。
「こないだのお嬢様たちが言ってた通り、『ソムィーズの後継ぎになった女は男勝りで筋肉ムキムキの女で、大きな武器を振り回して男たちをなぎ倒した』って噂になってるわよ」
「やめてぇぇぇ!」
ローリアは耳をふさいだ。
「ねえ。あんたも街に出て、人に姿を見せたほうがいいわよ。そしたら、本当のあんたがどんな人か、みんなわかってくれるでしょ?」
アルマが言った。しかし、ローリアにはまだその勇気がなかった。自分を悪く言っているいじわるな人たちと対峙する勇気が。
「だから、ダンスパーティーはいいきっかけになると思うわ」
アルマが隣に来て言った。それから、ひざまずいて女神に祈るポーズをし、
「姉が仮病を使わずにパーティーに出ますように」
と言った。
「私、時々」
ローリアが弱った様子で言った。
「あなたが姉だったらよかったと思うことがあるわ」
「冗談でしょ?」
アルマが笑った。
「本当よ。ソムィーズに選ばれるのもあなたのほうが向いてたんじゃないかしら。気が強いもの」
「だめよ。私は真面目じゃないし、責任感もないもの」
アルマが座り直しながら言った。
「はっきり言って、私は『この状況を利用して、いい相手を見つけて贅沢してやろう』としか思ってないから」
「まあ!アルマったら!」
「だから、私にいい男を回してよね」
アルマが言った。
「ただ、私たちは田舎出の平民だから、バカにして相手にしてくれない人も多そうだけど」
「そうねえ」
ローリアは前のお披露目パーティーでの、ご婦人方の蔑んだ目や、次男たちの態度の悪さを思い出した。
「どうしたら認めてもらえるのかしら」
ローリアはため息交じりに言った。
「だから、私たちはせいぜい『本物のお嬢様』を目指していろいろ身につけなきゃいけないのよ」
アルマが立ち上がった。
「部屋に戻って、ダンスの練習しましょ」
「えっ」
「当日に恥をかきたくないでしょ?」
「あの、でも私、歴史学の復習をしないと」
ローリアは逃げようとしたが、
「だめよ!今はダンスのほうが大事でしょ!? 試験が迫ってるようなもんなんだから!」
アルマがローリアの腕をつかんだ。
「さあ、来なさいったら!」
「イヤァァァァァ!」
アルマは、抵抗するローリアを無理やり部屋まで引きずっていった。




