4-2 『本物の』令嬢たち
お茶会当日。
天気がいいので「外でやったらどうだい?」という侯爵の意見を聞き、使用人たちがテーブルと椅子、花飾りなどを庭に運んだ。砂糖菓子やビスケットも用意された。
ローリアは青いドレス、アルマは薄紫色のドレスを着て、侯爵夫人が選んだ指輪をつけて、令嬢たちの到着を待っていた。
「本当に来てくれるかしら」
ローリアは心配だった。この間のパーティーの客たちのように、令嬢たちにも侮られるのではないかと不安だったのだ。
「来なかったら二人でお菓子を独占すればいいわ」
アルマはあまり心配していないようだ。
「さっき厨房を見てきたけど、すごくおいしそうなケーキがあったわよ」
「アルマ、私は今それどころじゃないのよ」
ローリアはスカートのすそを握りしめていた。
「レディ・ヴィオレッタ・マーデスが到着いたしました」
ユーナが呼びに来た。2人は屋敷の入り口に向かった。そこには赤茶色のつやのある馬車が来ていて、ちょうどご令嬢が降りてくるところだった。後ろから別な馬車も来た。
最初に降りてきたのは長い黒髪のご令嬢で、レースと花の髪飾りをつけ、エメラルドのような緑色の目を豊かなまつ毛が飾っていた。鼻は上品に高く、唇は桃のような色をしている。細身のドレスは体の曲線を強調して、なおかつ上品さを保っていた。手に扇を持ち、大きな赤い宝石のバックルがついた靴を履いている。後ろには付き人のような地味な格好の女性もいる。歳はご令嬢より少し上だろうか。
ローリアとアルマは、はじめて見た『同年代の本物のご令嬢』の美しさにくぎづけになった。全身がキラキラと輝いて見える。それに、ローリアにしかわからなかったが、強い魔力を全身から放っている。
「ち、違うっ」
ローリアは思わず言った。
「違うわ!本物のご令嬢は違う!」
「ローリア、落ち着いて」
アルマがローリアの肩を叩いた。
「今は私たちだって『本物のご令嬢』なんだから、それらしく振る舞わなくちゃ」
「そ、そうね」
後ろの馬車から、亜麻色の髪のご令嬢と、金髪のご令嬢も降りてきた。二人とも美しかったが、やはり黒髪のご令嬢が飛び抜けて美しかった。
「よく来てくださいましグフッ」
ローリアはご令嬢たちを迎えようとして数歩歩いたところで、ドレスのすそに足をひっかけて転んでしまった。
「プッ」
アルマは思わず吹き出した。
「あらあら、大丈夫ですこと?」
黒髪のご令嬢が近づいてきて、かがんでローリアの手を取った。
「ありがとうございますぅ!」
ローリアはすでに泣きそうになっていた。恥ずかしすぎて顔が真っ赤だ。できれば屋敷に逃げ込みたい。
「姉が失礼しました」
アルマがすました顔で言った。
「私はアルマで、こちらは姉のローリアですわ。ちなみに、この家の後継者は姉ですの」
すると、黒髪のご令嬢が驚いた顔でローリアを見下ろした。
「私てっきり、あなたが妹だと思っていたわ」
「アルマの方が態度が偉そうだからですかぁ」
ローリアは転んだショックからまだ立ち直っておらず、この場に適切な言い回しができなかった。
後ろから来たご令嬢がクスクスと笑った。
「私はレディ・ヴィオレッタ・マーデス」
黒髪のご令嬢が胸に手を当てて言った。
「それから、こちらが友人のレディ・サリーシャ・ティナード。伯爵令嬢」
亜麻色の髪のご令嬢が会釈した。
「こちらが、ミリア・コンマード。男爵令嬢よ」
金髪のご令嬢がおじぎをした。
ローリアはやっと我に返り、ご令嬢たちと、後ろにいる付き添いの女性たちを見た。ご令嬢たちはみな笑顔だが、付き添いの女性たちはみんな不満げな顔で、中にはあからさまにローリアをにらみつけている者もいた。
ああ、田舎出の平民が気に入らないのね。
「こちらへどうぞ。特別なお茶菓子をご用意していますわ」
ローリアはみんなを庭に案内した。ご令嬢たちは上品なしぐさで、使用人たちが引いた椅子に座った。
特別なお仕着せを身に着けた見た目のいい男性の使用人が、お茶を用意した。
「ここに来るのははじめてですわ」
レディ・サリーシャ・ティナードが言った。
「ソムィーズ侯爵は、あまり屋敷に貴族を呼ばないですから」
「そうなんですか?」
ローリアが尋ねた。あれ?と思ったからだ。侯爵は人懐っこい性格だし、あの『くまさん』だって勝手に敷地に入ってきていた。すぐ人を呼びそうなイメージがあったのに。
「社交界では有名でしたのよ。パーティーにはめったに出てこないって」
ミリア・コンマードが言った。
「後継者が決まった時には驚きましたわ」
レディ・ヴィオレッタ・マーデスが言った。
「まさか、聖なる石が女性を選ぶなんて」
「今まで、女神は男性しか選ばないと言われてきたもの」
レディ・サリーシャ・ティナードが言った。
「私もどうして選ばれたのかよくわかりません」
ローリアは正直に言った。
「失礼ですけど、メイドをしていたというのは本当ですの?」
ミリア・コンマードが尋ねた。他のご令嬢もローリアをじっと見た。
「本当です」
ローリアはこれまでのことを正直に話した。両親が早くに亡くなったこと、アルマが病気になったこと、生活費を一人で稼がなくてはいけなかったこと、もともと薬代だけ出してもらうために侯爵に会いに来たことなどを。
バカにされるかと思っていたが、
「なんてご苦労をされたんでしょう」
レディ・ヴィオレッタ・マーデスはあくまで同情しているようだった。
「私、『試験で男たちを倒した』と聞いていたから、てっきり、野心にあふれた男勝りの女が、地位を得るために来たのだと思い込んでいたわ」
「ち、ちょっと待ってください」
ローリアは慌てた。
「『男たちを倒した』って何ですか? 私はそんなことしてないです! 石の魔力を感知しただけで!」
「でも、そういう噂よ?」
ミリア・コンマードが言い、レディ・サリーシャ・ティナードもうなずいた。
「だから、あなたは男勝りの大女だと思われているわ。全然違うのに」
レディ・ヴィオレッタ・マーデスが笑った。
「こんなにかわいらしい方だとは、想像もしていなかったわ」
「そうですか」
「でも大丈夫なの?ソムィーズ家は代々、間違ったことをした貴族を戒める役割を担っているから、悪い人と戦わなきゃいけなくなるかもしれないのよ?正直、『女性に務まるのか』という声はあるわ。どうなの?」
ローリアは答えに詰まった。今のところ、胸を張って『大丈夫です!』と言う自信がない。パーティーの男たちにも『弱そう』とか言われたばかりだ。
「心配いりませんわ。姉は恐ろしく正義感が強いですから」
アルマが代わりに答えた。
「村にいたときも、泥棒を捕まえたり、酔っぱらいに説教してケンカ……」
「アルマ!その話はやめて!」
ローリアは慌てて叫んだ。ご令嬢がたの目が光った。
「そのお話、ぜひお聞きしたいわ」
レディ・ヴィオレッタ・マーデスが言った。
アルマが昔のローリアのふるまいについて面白おかしく語り、ご令嬢は笑い転げていた。ローリアは真っ赤になりながらも、先ほど言われたことが気になって仕方なかった。
『悪い人と戦わなきゃいけなくなるかもしれないのよ』
『大丈夫なの?』
本当に、私で大丈夫なの……?
ローリアは一人悩み、お茶にもお菓子にも手を付けられなかった。




