4-1 お茶会の招待状
「う〜ん……」
パーティーの翌日。ローリアは机に向かって万年筆片手にうなっていた。令嬢たちと仲良くなるためにお茶会を開きたいと侯爵に言ったら、「いい考えだね!」とあっさり了承された。それはよかったのだが、招待状を自分で書かなければいけない。
「そんなの、『何日にお茶会します。来てください』でいいじゃない」
アルマはそう言って、パーシーと一緒に出かけてしまった。ソムィーズの街を見てみたいのだそうだ。ローリアも誘われたが、行かなかった。街の人が自分をどう噂しているか、じかに聞くのはまだ怖い。
「『レディ・ヴィオレッタ・マーデス。私はソムィーズの跡継ぎになりましたローリアと言います。同年代のお友達が欲しいです……』そんなこと書くべきじゃないかしら」
ローリアは考え込んだ。
「『同年代の女性とお話がしたいです』の方がいいか」
書き直した。
ふと、侯爵が朝言っていたことを思い出した。
「あの連中ときたら! この僕に向かって『女の子を跡継ぎにするなんてどうかしてる』だの『息子を養子にしたらどうか』だの言うんだからね! 呆れたよ。女神の決定を何だと思っているんだ?」
侯爵はかなり怒っているようだった。
「予想の範囲内よ」
侯爵夫人が冷ややかに言った。
「この国の人は、女性が上に立つことに慣れていないもの。カイエナ姫が王家を継ぐことになった時だってかなり反発があったもの。しかたないわ」
それから、侯爵夫人はローリアに笑いかけ、
「あなたは気にしなくていいのよ」
と言った。
そう言われても気になる。
パーティーに来ていた貴族たちの態度から、自分が認められていないのはローリアも感じ取った。彼らにとって自分は、突然現れた田舎出の小娘にすぎない。身分もわきまえずに後継者になり、貴族に混じってきたけしからん平民の娘。ご婦人方はそういう目でローリアを見た。そして次男たちは『簡単に言いなりにできそうな弱い娘』とローリアを断じて笑っていた。
「強くならなきゃ」
ローリアは決意した。
「あんな人たちに負けたくないわ!」
そのためにもまず、味方を増やさなければならない。
「えっと、『レディ・ヴィオレッタ・マーデス。突然の手紙をお許しください』」
ローリアは、ソムィーズ邸の図書室から探し出してきた『お手紙の書き方』を参考にしつつ、自分の立場を説明することにした。
「ソムィーズ家の後継者になったローリアと申します。このたび、同年代のお嬢様方と仲良くなるためにお茶会を開くことにしました。4日の14時です。ぜひお越しください。お友達を何人か連れてきていただけると嬉しいです。
お恥ずかしながら、私は貴族の世界について何も知りません。あなた様のお名前はロンバート男爵夫人に聞きました。もしよければ、この世界についていろいろ教えていただけると嬉しいです。
妹と一緒にお待ちしています。
ローリア・ソムィーズ」
最後に署名するとき、『ソムィーズ』と書くのに少しためらった。本当に自分がこの名前を名乗っていいのだろうか。
招待状を封筒に入れて閉じ、ユーナに渡すと、ローリアは厨房に向かった。お茶会のためのお菓子を頼むためだ。
「きれいな砂糖細工をお作りしますよ!」
コックのスワードが陽気に言った。
「それと、ビスケットとケーキもね。お嬢様方にはぜひ驚いていただいて、『さすがソムィーズ! お菓子も豪華ね!』と言っていただかなきゃならん」
「そんなに派手にしなくてもいいのよ」
ローリアは言った。
「お茶を飲みながらおしゃべりしたいだけなんだから」
しかし、
「お嬢様、いけません。お茶菓子は優美でないと」
スワードが言った。
「ゆ、優美?」
聞き慣れない言葉だった。
「お嬢様、あなたはソムィーズの令嬢なんですから、お茶会一つとっても家の権威というものを見せつけないといけません。下手なもてなしをしたら、なめられますよ。社交シーズンに入ってますから、「あの家はもてなしが下手」なんて言われたら致命的です!」
ローリアは怯えた。そんな大きな話になるとは思わなかったのだ。
もてなしについて書かれた本がないか探そうと思って図書室を目指していると、
「お嬢様」
侯爵夫人つきのメイド、フローラが近づいてきた。侯爵夫人と同じくらいの歳で、黒髪と白髪が半々の、少しきつい印象の女性だ。
「お茶会のドレスはどうなさいますか?」
「ドレス?」
ローリアはまた驚いた。
「お茶を飲んで話すだけなのに、特別なドレスがいるの?」
「まあ、お嬢様、当たり前じゃないですか!」
「当たり前なの!?」
「もちろんです。ここはソムィーズ侯爵家なのですからね。それ相応の装いで来ていただかなくては。お嬢様がたはきっと、上等な生地で作ったドレスと、宝石を身に着けてきますよ。ですから、お嬢様も新しいドレスを作らなければ。もちろん、アルマさまもです」
「えぇ〜……」
「えぇ〜、などと言ってはいけません。お嬢様らしくない表現です」
「すみません……」
「使用人に謝ってはいけません」
「すみ……ドレスはどんなのがいいの?」
「上品なものがよいでしょう。日にちがありませんから、また仕立師をここに呼びましょう。侯爵夫人に聞いてきますわ」
「私は何をすればいいの?」
「マナーを徹底することです」
フローラが鋭い目つきをした。
「良家のお嬢様がたは口さがないですからね。失敗したらあっという間に噂にされます。マナーは完璧でなくてはいけません」
「そ、そうですか」
ローリアはすでに怖気づいていた。
「詳しくはこれから侯爵夫人が教えてくださるでしょう」
フローラが去っていった。ローリアはその場にへたり込みたい衝動を抑えた。
お友だちと話すだけだと思っていたのに。
こんなに大事になるなんて。
「ローリア、どうしたの?」
荷物を運んでいたクィルが話しかけてきた。
「お茶会を、開くの!」
ローリアは変な声を上げた。
「でも、決まりごとが多くてわけがわからないわ!」
「ふうん」
クィルが冷ややかな目をした。
「もうすっかり貴族だね」
「そんなことないわ。慣れないことばかりよ」
「こんど、ゆっくり話せない?」
クィルが言った。
「ここに来てからいろいろ面白いことを見聞きした。君の話も聞きたいし」
「そうね」
「大事なお茶会が終わってからでもいいよ」
「おいクィル! 何してる!?」
遠くから年配の使用人が叫ぶのが聞こえた。
「じゃ、またね」
クィルはそう言って走っていった。
「クィルはちゃんと働いているのね」
ローリアはつぶやいた。
「勉強しなきゃ」
ローリアは再び図書室を目指した。知らなければいけないことは、どうやら、山ほどありそうだ。




