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侯爵にお金を借りに行ったら養女にされました!  作者: 水島素良
第3章

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3-6 ハーヴィス伯爵とアルマの話

 その頃、ハーヴィス伯爵とアルマは、パーティー会場から少し離れた部屋の窓から外を見ていた。

「この庭もいずれ、お姉さんのものになるということだ」

 ハーヴィス伯爵が言った。

「君の話を聞く限り、お姉さんはとても真面目で家族思いで、正義感が強い。ソムィーズ侯爵に会いに来たのも、君の病気の薬代のためだった」

「そうよ」

「しかし、君はそれが許しがたい」

「許せないわけじゃないわ。ただ、納得がいかないだけよ。どうしてそんな重荷を背負わなきゃいけないの?女の身でソムィーズの当主になれですって?しかも、ただの平民の女に?」

 アルマは感情的な声で言った。

「この世の中が身分の低い女にどんなにつらく当たるか、わかっているの?さっきの男たちときたら!ローリアのことを金と地位を手に入れるための道具としか思っていない。ご婦人方なんて、侯爵が目の前にいるのに、あからさまに私たちを見下していたわ」

「しかし、君たちは今や公爵令嬢だ」

「誰も認めないわ」

「家宝の石に選ばれたんだろう?なら、女神アニタに選ばれたも同じだ。あの石が決めたなら、王様にすら覆せない決定だ」

「選ばれたのはローリアだけよ」

「それが気に入らないのか」

「そうじゃない……そうじゃないのよ」

 アルマは首を振ってつらそうな顔をした。

「ただ、私のせいでこれ以上ローリアが苦労するのは嫌なの。今までずっとそうだった。私が病気で寝込んでいたせいで、ローリアは一人で生活費を稼がなくてはいけなかった」

「君のせいじゃないさ」

 ハーヴィス伯爵が言った。

「断じて君のせいではない。いいかね、これは女神のおぼし召しだよ。女神が君たち姉妹にはこれがふさわしいとお決めになったのだ。誰が何と言おうと、君はもうソムィーズ侯爵の娘だ。長い付き合いだから分かる。侯爵は少々軽いところがあるが、誠実な男だ。きっと君たちにもよくしてくれるさ」

 2人は話に夢中で、ローリアが近くに来ていることに気づいていなかった。

 そうだったのね、アルマ。

 ローリアは悲しくなった。アルマが口をきいてくれなくなったのは怒っているからではなかったのだ。

「ところで、私の弟に会ったかね?」

 ハーヴィス伯爵がアルマに尋ねた。

「とんでもない大男なんだが」

「会場に来た時に見たわ。まるで神話に出てくる怪物のようね」

 まあ、アルマったら!

「神話の怪物か!ハハッ」

 ハーヴィス伯爵が笑った。

「しかし、私はその怪物がうらやましくてね」

「なぜ?」

「自由だからさ」

 ハーヴィス伯爵が遠くを見る目をした。

「遠い外国に行き、冒険をして金を稼ぐ。私もそんなことをしてみたかった。しかし私には爵位がある。領地が、責任がある」

 少し間を置いて、ハーヴィス伯爵は言った。

「あいつは面白いやつだが、私はつまらない男だ」

「まあ、なんてご謙遜を」

 アルマが言った。

「私から見たら、自分の領地のために戦うのだって、立派な冒険だわ」

 そろそろアルマの軽い口調を注意すべきか、黙って立ち去るべきか、ローリアは迷っていたが、

「まあアルマ。伯爵にそんな口のききかたをしてはだめよ」

 侯爵夫人に先を越された。

「申し訳ありません」

 アルマが気まずそうに下を向いた。

「私はかまわんよ」

 ハーヴィス伯爵が無表情で言った。

「弟さんが探していましたよ。もう帰りたいと」

「じゃあ、しばらく探してもらおうかな」

 ハーヴィス伯爵が言った。

「奥の部屋を借りるよ。少し静かなところで休みたいのでね」

 ハーヴィス伯爵は廊下に出ていった。

「アルマ、ここにいたのね」

 ローリアは今来たばかりのふりをした。

「金目当ての男たちの相手は終わった?」

 アルマが言った。

「アルマったら!」

「今日来た人の中に、気に入った人はいた?」

 侯爵夫人がローリアに尋ねた。

「いません」

 ローリアは即答した。

「でも、くまさんの話は面白かったし、ロンバート男爵夫人は親切にいろいろ教えてくれました」

「くまさん?」

 アルマが疑問の顔で言った。

「あなたが話してた人の弟よ」

「ああ、怪物のこと」

「怪物じゃないったら!」

「私はパトリックを探してくるわ」

 侯爵夫人が困った顔で言った。

「さっきから姿が見えないのよ。どこに行ったのかしら」

 侯爵夫人はそう言いながら出ていった。

「ねえ、アルマ」

 ローリアが尋ねた。

「まだ、私が勝手に決めたこと、怒ってる?」

「怒ってるわけじゃないわ」

 アルマが言った。

「ただ、急になにもかも変わったから……慣れないだけ。だって、私たち、ついこの間まで村で貧しい暮らしをしていたじゃない。着るものは2着しかなかったし、食べるものも固いパンと野菜のスープだけ」

「そうね、そうだったわ」

「なのに、いきなり侯爵令嬢だなんて!」

 アルマが自分が着ているドレスを見下ろして言った。

「わけがわからないわ」

 アルマがはじめて、ローリアをまっすぐ見た。

「本当にいいの?」

「いいって、何が?」

「あんたの人生よ!」

 アルマがたまらない様子で叫んだ。

「この家のために人生を捧げて、本当にいいの?」

「人生を捧げるとは思っていないの」

 ローリアが言った。

「むしろ、私はチャンスだと思っているの。確かに、課せられたものは重いわ。たくさん勉強しなきゃいけないし、今日わかったけど、反発する人もいるし。でも、私はこれを機会に、もっといい人間になれそうな気がしているわ。いろんなことを知って……」

 本当は、ローリアもいろいろなことが不安で怖かったのだが、妹にそんなことを言いたくなかった。

「だから、あなたを巻き込んだのは申し訳ないわ」

「巻き込んだですって?違うわ。きっと私は何か役割があってここに来たのよ。例えば、変な男があんたに近寄らないように見張るとか」

「まあ、アルマ」

「今日ここに来た男たちは全員だめよ」

 アルマが真面目な顔で言ったので、ローリアは笑ってしまった。

「わかってるわ。フフッ」

 ローリアは笑いながら、

「あなたとまた普通に話せるようになって、うれしいわ」

 と言った。アルマはちょっとすねた顔をして、

「いいから会場に戻りましょ。そのくまさんとかいう大男に、『お兄さんは隠れてますよ』とおしえてあげなきゃ」

 と言って、ローリアの手を取った。

「そうね。いつまでも徘徊させちゃかわいそうだわ」

 姉妹は仲良く手をつないで、パーティー会場に戻っていった。



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