3-5 くまさんの話と男爵夫人
ローリアが会場に戻ると、
「ヒィッ」
何人かの夫人がひきつった声を上げて、ローリアの後ろを見た。そこには岩山のような大男がいて、鋭い目で客たちを見回していたからだ。
「皆様、ご紹介しますわ」
ローリアは上機嫌で言った。
「ガーウィン・ハーヴィス。最近、イシュハから帰ってきましたの」
「どうも」
ガーウィンが低い声で言った。
「ささ、こちらに来て、イシュハのお話を聞かせてくださいな。あちらで宝石を売っていたんでしょ?」
ローリアは彼に話をするように促した。すると、ガーウィンはイシュハでの体験について話し始めた。最初怖がっていた夫人たちも、だんだんその面白さに魅了されていった。
「それでは、イシュハ人たちは、本当に魔力がないんですの?」
夫人の一人が尋ねた。
「驚いたことに全くないんですよ」
ガーウィンが言って、お得意のニッという笑い方をした。
「だからってダイヤのかわりにガラスを使うなんて」
別な夫人が言った。
「信じられないわ」
「いやあ、あいつらは見た目さえよければいいんですよ。とにかく、ロウソクの乏しい火の下で、より強く輝けばいいってわけでね。だから、金のある資産家でも、裏張りをしたガラスの指輪を好んでつけていたりする」
「まあ、なんてこと」
ご婦人方があきれた声をもらした。
「魔力がなくて、どうやって生きているのかしら」
「それがねえ、あちらには『科学技術』というものがあるんですよ。それが魔法の代わりでね。今は原始的だが、俺はそのうち、あの技術が魔法をしのいで、ロンハルト王国にも脅威になってくると思うね」
「まあ、ありえませんわ」
ある夫人が鼻で笑った。
「我らの国王の魔力をしのぐ存在など、ありえませんわ。この国は女神アニタに守られているのですから」
「まあ、そうでしょうがね」
ガーウィンはやや抑えた笑い方をした。
「ガーウィン! ちょっと来てくれ」
次男たちの一人が呼びに来た。
「じゃあ、名残惜しいが失礼するよ」
ガーウィンは去り際にローリアに、
「また会おう、お嬢さん」
と言って、男たちとどこかへ行った。
「あなた、さすがソムィーズの後継者ね」
髪の白い老婦人が近づいてきた。
「あんな獰猛そうな男をてなずけてしまうなんて!」
「獰猛?」
ローリアは笑ってしまった。
「とんでもありません。彼はとてもいい人なんです。ただ、見た目がちょっと怖いだけで」
「人の本質を見るのはよいことね」
老婦人が笑った。
「私はアメリア・ロンバート。男爵夫人よ」
「ローリアです」
ローリアはおじぎをし、ロンバート男爵夫人も同じしぐさを返した。
「あのう、一つお聞きしても?」
「何かしら」
「どうしてここには、私と同じくらいの歳の令嬢が来ていないんでしょうか」
「それは簡単よ」
ロンバート男爵夫人が人懐っこく笑った。
「社交シーズンが近づいているから、ご令嬢たちは、自分の結婚相手になりそうな殿方の気をひくために忙しいの。彼女たちは、爵位を継ぐ長男をお望みだけど、ここには……」
「継承権のない次男以下しかいない?」
ローリアはうんざりしてきた。
「そういうことよ」
男爵夫人があきれ笑いをした。
「あなたとご令嬢では、男性に求めるものが違うのよ。王様の意向で長女も跡を継げることになったのだけど、まだ実際に継いだ女性はほんのわずか。今は過渡期なのかもね。あなたがまず前例にならなくては」
「あのう、私別に、男性は求めてないんですけど」
「でも、夫は必要だと思うわ」
男爵夫人は真面目な顔で言った。
「いくらあなたが絶大な魔力や権力を得たとしても、支える家族は必要よ。ああいう、金目当ての男たちを避けるためにもね」
男爵夫人は、遠巻きにこちらを見ている若い男たちに厳しい視線を向けた。
「ほんと、砂糖にたかるアリのような連中だこと!」
「あのう」
ローリアは控えめに尋ねた。
「他のご令嬢と知り合うには、どうしたらいいですか?」
「あなたから手紙を書きなさい」
ロンバート男爵夫人が言った。
「きっとみんな、ソムィーズ初の女性後継者に興味津々よ。だけど、あなたまだ理解してないわね。ツヴェターエヴァの令嬢を除けば、あなたは彼女らの中で一番身分が高いのよ」
「えっ……」
「まだ村娘みたいな感覚で、へりくだっているわね。それはやめなさい。もっと堂々とするの。お茶会でも開いてご令嬢たちを招いたらどう?」
「お茶会ですか?」
「社交シーズンの前に知り合いができたら、心強いでしょ?マーデス伯爵の令嬢なんてどうかしら。とても優しい方でいらっしゃるから。まあ、マーデス一族は変人ばかりだけど」
「手紙はどうやって出せばよいですか」
「『手紙はどうやって出す』!?」
ロンバート男爵夫人がおかしそうに笑った。
「ただ、紙に書いて、封筒に宛名を書いて、使用人に『届けてちょうだい』と言えばいいのよ!」
「ロンバート男爵夫人!」
侯爵夫人が近づいてきた。
「来てくれたのね!」
「私はどこにでも現れるの。知ってるでしょ?」
ローリアは笑顔を交わす二人を交互に見た。どうやら、仲がよいようだ。
「私、アルマを探してきます」
ローリアは会場を再び離れた。男たちの視線のないところに行きたかったし、伯爵とアルマが何を話しているのかも気になっていた。




