3-4 パーティー会場のくまさん
ローリアが飲み物を探しに行くと、そこは男たちのたまり場になっていた。ローリアは目が合った男たちに会釈しながら空いた席につき、一人になりたいのになあと思いながら使用人に紅茶を頼んだ。本当は人に頼む事に慣れていなくて、自分でいれたかったくらいなのだが。
使用人を使うことに慣れなさい。
侯爵夫人に言われたことがあった。ローリアがなんでも自分でやるのを見かねたからだった。
慣れなきゃ。
ローリアが考えていると、
「なあに、どうせ実際に権力を持つのは夫だよ」
誰かが話している声がした。さっき紹介された次男たちに声が似ていた。
「女なんてのは、結婚さえすりゃあ夫の言うことをきくもんだ。しかもあんなか弱そうな女じゃないか。実質ソムィーズの当主になるのは、彼女と結婚した男だろうね」
数人の男の笑い声が続いた。
「で?そのか弱い彼女をどう落とす気だい?」
「ひたすら優しくするのさ。女は優しい男に弱いからね。で、相手が自分に情を持ったなと思ったら、急に連絡をしないようにする。そうすると、女というのは『どうしたのかしら、嫌われたのかしら』と、男のことばかり考えるようになるものさ」
それを聞いたローリアは怒りで顔を真っ赤にした。
まあ! この人たち! 女は男の言いなりになると思っているのね!
不快だったので紅茶を残して席を立ち、その場を去ろうとした。そのとき、隅っこに見覚えのある大きな背中が丸まっているのが見えた。
ガーウィン・ハーヴィスだ。
大きな体を縮こませて窮屈そうに椅子におさまり、つまらなさそうな顔でちびちびと紅茶をすすっている。その様子があまりにおかしかったので、ローリアはくすっと笑ってから、
「まあ! 大変だわ!」
わざとくさい大声で叫びながら彼に近づいた。
「人間のパーティー会場にくまさんが混ざっているわ! なんとかしなくては!」
ガーウィンはゆっくりと振り返り、ぎこちない笑顔をローリアに向けた。
「変ねえ。今日はあなたがとても小さく見えるわ」
「こういう集まりは苦手でね」
ガーウィンが言った。
「兄貴に無理やり連れてこられてね。兄貴に会ったかい?」
「さっき助けていただいたわ。あまり似ていないのね」
「よく言われるよ。見た目以上に中身も正反対でね。兄貴はとにかく堅物でね、なんでもきちんとしないと気がすまない男なのさ。だから、不快な若い連中しか来ないようなパーティーにも、義理で出席するのさ」
「あなたの言ったとおりよ」
ローリアは小声でつぶやいた。
「財産目当ての次男ばかり紹介されたわ。うんざり」
「俺も次男だからあまり悪口は言いたくないんだが、控えめに言ってもあいつらは最悪の部類でね。自力で生きるって発想がないから女の財産をあてにする」
「ねえ、一緒にホールに来てよ」
ローリアはガーウィンの腕を引っ張った。
「いや、俺はこれを飲んだら帰るよ」
ガーウィンが紅茶のカップをかかげて言った。
「ここにいても不愉快な話しか入ってこないんでね」
「だめよ! 帰るなんて!」
ローリアは引き止めようとした。
「私にあなたを紹介させてよ。イシュハから帰ってきたばかりなんでしょ? 知らない人も多いわよね?」
「別に知らせる必要はないと思うがね」
「お願い! 私にも貴族に知り合いがいるって、みんなに見せたいのよ! それに、あなたは見た目は怖いけどしゃべれば面白い人なんだから、黙って帰るなんてもったいないわ」
ローリアが言うと、ガーウィンはニッと笑って、
「まあ……仕方ないな。レディにしがみつかれて懇願されちゃ、断るのも野暮だからな」
と言いながら立ち上がった。腕をつかんでいたローリアは体を上にもっていかれて少しよろけた。
「あなた、本当に大きいわね」
ローリアはガーウィンを見上げながら言った。
「身長、2メートルは余裕で超えるでしょう?」
「まあ、そんなとこだな」
ガーウィンが言った。ローリアは気づいていなかったが、まわりの男たちは二人の様子を驚愕の目で見守っていた。
なんだ、あの大男は?お嬢さまと仲がいいのか?




