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侯爵にお金を借りに行ったら養女にされました!  作者: 水島素良
第3章

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3-3 良家の次男たち

 パーティー当日。

 ローリアとアルマは、着慣れない豪華なドレスやアクセサリーに戸惑い、同時にはしゃぎながらも、なんとか礼儀正しさを保とうとしながら、客が来るのを待っていた。

 テーブルには色とりどりの花が飾られ、その花の色に合わせて作られた砂糖菓子も置かれていた。壁際には豪華な花飾りがいくつも置かれ、その近くには客の要望に応えるために、たくさんの男性使用人が等間隔で並んでいた。みな揃いの深い青の服を着て、見た目が麗しい。

 ローリアはその光景に圧倒されながらも、

「どうしてみんな男性なの?」

 とつぶやいた。先ほどから、たくさんいるはずの女性メイドを一人も見かけていない。

「こういう場では男性が表に出ることになっているんだよ。女性は裏にいる」

 侯爵が言った。

「客がメイドに手を出したら困るからじゃない」

 アルマが無愛想につぶやいた。

 ローリアは、服の中に隠しておいたお守り石をぎゅっと握った。

 今日はうまくいきますように。

「バンデラ伯爵夫人とカール・バンデラ殿」

 執事が来客の名前を読み上げ始めた。ローリアは背筋を正した。すると、派手な化粧の中年の婦人が、ひだ飾りの多いドレスをバタバタさせながら近づいてきた。一緒に細身の若い男を連れている。顔が似ているから息子だろう。

「まあ! まあ! 侯爵!」

 バンデラ伯爵夫人が芝居がかった声でお辞儀をした。

「お久しぶりね、バンデラ伯爵夫人」

 侯爵夫人が社交的な笑みで言った。

「驚きましたよ! 新しいお嬢様の話──」

 バンデラ伯爵夫人が、ローリアとアルマの全身を素早く見て、一瞬蔑むような顔をしてから、

「きれいなお嬢様方ですこと」

 おざなりな感じで言った。

「こちらが後継者のローリア、それから妹のアルマ」

 侯爵が2人を紹介し、姉妹は揃ってお辞儀をした。

「お目にかかれて光栄ですわ、バンデラ伯爵夫人」

 ローリアが言うと、バンデラ伯爵夫人は小声で、

「そうでしょうね」

 と、ローリアにしか聞こえない小声でつぶやいてから、

「こちら、私の息子のカール」

 笑顔で息子を紹介した。

「いやあ、お二方ともなんと美しい!」

 息子の声も芝居がかっていた。

「あ、ありがとうございます」

 ローリアは何かおかしいなと思いながら、一応礼をした。

 その時、

「ハーヴィス伯爵とガーウィン・ハーヴィス殿」

 という声とともに、見覚えのある大男と、大きな鼻以外あまり似ていない細身の紳士が入ってきた。ローリアは思わずそちらに目を向けた。二人はこちらをちらっと見ると、他の客のところに行ってしまった。

「社交界のことはまだ何もご存じないんでしょ?」

 バンデラ伯爵夫人がローリアに言った。

「うちの息子は国中の名家に招かれる人気者で、話も面白いから、きっと合うと思いますわ」

「は、はあ……」

 ローリアは緊張と、相手の態度が微妙におかしいのが気になって、うまく声が出てこなかった。

「失礼ですが」

 アルマが無表情で言った。

「カール様、ご兄弟はおいでになります?」

「兄と妹がいますが」

「では、ご次男でいらっしゃる」

「そうです」

 アルマが意味ありげな視線をローリアに送ってきた。それは『気をつけろ』という意味だと、長年の姉妹の仲でわかった。後ろの侯爵夫人を見ると、客をもてなしている最中にもかかわらず、目が笑っていなかった。

「サーリアル・ターダイン伯爵夫人とアンディ・ターダイン殿」

 執事が言った。また、別な化粧な派手な女(この化粧のしかたが今流行っているのだろうかとローリアが思うくらい、先ほどの夫人と同じ顔になっていた)と、似た顔の太っちょが近づいてきた。

「いやあ、おめでとうございます!侯爵!」

 今度は息子が先にしゃべった。

「ありがとう」

 何も気にしていなさそうな侯爵が笑顔で応じた。

「後継者のローリアと、妹のアルマ」

 姉妹はまた揃ってお辞儀をした。

「まあ、娘だけではなく妹まで引き取ったのですか?なんて寛大なのでしょう」

 ターダイン伯爵夫人がおおげさに驚いてみせた。アルマは一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに、

「アンディ様、ご兄弟はおいでになる?」

 といきなり尋ねた。

「兄と弟と、妹が3人もいるよ!うるさくてかなわん」

「というと、ご次男でいらっしゃる」

「そうだ」

 アルマがまた、さっきと同じ視線をローリアに送ってきた。

「息子はとても頭がいいのよ」

 ターダイン伯爵夫人が言った。

「法律も歴史も完璧に理解しておりますし、政治について本も執筆しておりますの」

「それは素晴らしいわ」

 ローリアが言うと、

「ですから、きっとあなたにふさわしいと思うわよ」

 ターダイン伯爵夫人が、愛想笑いと同時に見下した目つきをした。ローリアは一瞬震えた。

 その後も同じことの繰り返しだった。貴族の派手な夫人が次々と、自分の息子(アルマが全員に尋ねていたが、みんな次男か三男だった!)を連れてくるのだ。みんな表面的には愛想がいいが、ローリアにだけ、見下した態度をしてきた。中には、

「やはり良家には男がいないとね」

 と、いかに「自分のほうが後継者にふさわしいか」熱弁して、怒った侯爵に追い払われた者までいた。

 食事が始まる頃には、ローリアは疲れ切っていた。しかし、抜けるわけにはいかない。

「最近、どんな本を読んでおられますか?」

 男たちの一人がローリアに尋ねた。

「政治や歴史の本が多いです」

 ローリアが言うと、

「まあ、女が政治なんて!」

 ご夫人の一人が非難するようにつぶやいた。

「うちを継ぐんだから当たり前だろう」

 侯爵が言った。

「ソムィーズの当主は王様とも話すからね。政治がわからなければ。当たり前でしょう」

「でも、この国では、公式の場では女性は政治の話をしないことになっていますのよ。いくら田舎者でもそれはご存じよね?」

 あからさまに見下した物言いに、さすがの侯爵も、

「それはどういう意味だ?」

 不機嫌な顔になった。

「ママ、失礼だよ」

 隣の赤ら顔の息子が母親をたしなめた。

「失礼ですけど」

 別な夫人が言った。

「私たち、どうしても信じられませんの。ソムィーズの後継者が女性だなんて」

「この国で女性が継ぐのは、女神の代理人であるツヴェターエヴァ家だけですわ」

 別な夫人が言った。

「信じるも何も、石が選んだんだ」

 侯爵が強い声で言った。

「それに私は、石のことがなくても、ローリアは後継者にふさわしいと思っているんだ。それくらい人格も信用できて、魔力も高いからね」

 会場の全員がローリアを見た。ローリアは顔が真っ赤になるのを感じながら、

「そ、そう言っていただけて嬉しいですぅ……」

 なんとか、かすれ声を絞り出した。本当かどうかはともかくとして、侯爵にそう言ってもらえるのは嬉しかった。

 その後、みな愛想よく天気や本や服の話をしていたが、食事が終わるまでぎこちない空気が流れていた。

「みんな金と地位目当てよ」

 アルマが、ローリアの耳元でささやいた。

「私が思うに、ここにいる人はみんな失格」

「アルマ!」

 しかし、ローリアも同じ気持ちだった。みんな本当は、田舎出の平民であるローリアを見下している。態度からそれは明らかだ。しかし、地位は欲しい。

「次男以下に気をつけろ」

 とガーウィン・ハーヴィスが言っていたのを思い出した。彼は正しかった。

 食事が終わり、席を立って自由に会話できるようになると、やはり男たちがローリアとアルマのまわりに集まってきた。

「新しい本が手に入ったんです。一緒に読みませんか?」

「僕は演劇が好きなんですよ。一緒にどうですか?」

「面倒なことは僕に任せて、あなたはゆっくりしていればいいんですよ」

 などと口々に言うものだから、ローリアは「それはいいわね、機会があったら」とてきとうに退けるのが手一杯だった。

「君たち、そう次々と話しかけては、お嬢さんが困惑するだろう」

 数少ない大人の男性客、ハーヴィス伯爵が割って入ってきた。細身の身体に大きな鼻、いかめしい尊大な顔つき。

 彼を見るなり、男たちは散るように逃げていった。

「ハーヴィス伯爵。お会いできて光栄ですわ」

 ローリアはほっとしながら会釈した。

「弟に会っただろう」

 ハーヴィス伯爵が言った。

「ええ。面白い方ですわ。でも、あまり似てらっしゃらないのね」

「よく言われるよ。あいつがデカすぎるのか、私が小さいのか。あいつは父親似で、私は母親似でね」

 それからハーヴィス伯爵はアルマをちらっと見て、

「妹さんと2人で話がしたいんだが」

 と言った。

「アルマと?」

 ローリアは不思議に思ったが、

「かまいませんわ」

 アルマはなぜか乗り気だった。

 2人がどこかに行くと、ローリアはやっと一人になった。男たちは少し離れた所で何かを話し合っていた。まるでローリアのことはもう忘れたかのように。

 少し休もう……。

 ローリアはホールを離れ、飲み物が用意されているはずの別の部屋に向かった。

 さっそく思い知らされた。

 自分は、貴族たちに認められていない。

 どうしたらいいのだろう?もっと勉強する?魔力を高める?いや、そういう問題ではないような気がする。彼らはそもそも、女性が名家を継ぐことが理解できないのだ。この国では、ツヴェターエヴァ以外の家はみんな男性のものだった。

 ツヴェターエヴァの当主様に会えないかしら。

 ローリアは思った。そしたら「女が人の上に立つことについて」聞けるかもしれない。

 でも、私ごときが女神の代理人に会うなんて、おこがましいわね。

 ローリアは未だに自分に自信がなかった。

 お茶でも飲もう……。

 


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