3-2 パーティーの準備
それからさらに一週間後。
ソムィーズ邸は、パーティーの準備で活気づいていた。『新しい2人の娘たち』そして『正式な後継者』のお披露目のためだ。ロンハルト王国のあらゆる貴族たちに、金の装飾が入った招待状が出された。コックとキッチンメイドたちは大勢の客のために、何日も前から料理の準備をしなくてはならない。
使用人への指示は主に侯爵夫人の役目で、侯爵自身はたまにやってきて口を挟むだけだった。侯爵夫人が当日の流れについて使用人たちに指示するのを、ローリアはついて回りながらメモしていた。
「いずれ、あなたがやることになるのよ」
侯爵夫人がそう言ったからだ。
「だから、私たちがやっていることを見ておきなさい」
ローリア自身も、公式な人前での立ち居振る舞いや言葉遣いを学ばねばならず、忙しかった。貴族たちは、田舎出の令嬢のことをどう思うだろう?不安だった。だからこそ準備はしっかりとしておきたかった。ローリアは侯爵夫妻や執事、コックにもいろいろ質問して、前のパーティーはどんな様子だったか、人々は何を話していたのか、食事はどんなものが出るのかなど、いろいろ聞いて回ったりした。
アルマはあいかわらず、ほとんど部屋にこもっていた。
食事のときは出てきて、侯爵夫妻が話しかけると一応反応するのだが、なぜかローリアのことは無視していた。ローリアはその理由が分からず困惑して、前のように仲よく話せないのはどうしてだろう?と悩んでいた。
「気にするんじゃないよ」
祖母リーマが言った。
「長く病気してたから、いろんなことをやり損ねただろ。すねてるだけさ」
「そうかしら」
クィルはこんなことを言った。
「本当は、村にいたかったんじゃない?」
「それは……」
「いきなりよその家の娘になれって言われて、君だってショックで倒れてたじゃないか」
「そ、そうね」
「現実が受け入れられないのかもよ」
クィルは腕を組んでローリアを見た。
「それか、君がソムィーズの後継者になったのが気に入らないんじゃない?」
「えっ?」
「『自分のほうがふさわしいのに!』って思ってるんじゃない?妹さんがもし頭がよいなら」
「アルマはそんな子じゃないわ」
「でも、片方は莫大な財産と爵位を継ぐ、もう片方は持参金と一緒に嫁に出されるじゃ、かなり地位に差があるじゃないか。しかも、結婚相手が誰かもわからない。勝手に決められるんだろ?」
「勝手に決めたりしないわ。アルマの意見を尊重するわよ」
「それはどうかな。貴族のやることなんて」
クィルはそう言い捨てて走っていった。
貴族。
自分も今貴族になっているということに、ローリアはこの時はじめて気づいた。今まで平民で、近所のおじさんおばさんが『貴族のやることはひどい』と悪口を言うのをさんざん聞いてきた。今、自分がその貴族になっていて、人の運命を勝手に決めようとしている。
ローリアは少し反省して、アルマの部屋をノックした。
「アルマ」
ローリアは控えめに呼びかけた。
「いろんなことを勝手に決めて、ごめんなさい」
返事はない。でも続けた。
「でも、石に選ばれてしまったから、私にはもう選択肢はなかったの。それに、ソムィーズ夫妻はとてもよい方たちでしょう?きっとあなたのためにいろいろしてくださるわ」
「……あの二人がいい方なのは、私にもわかるわ」
中からか細い声がした。
「だけど、まだあなたと話す気になれない」
それからローリアは何度か呼びかけたが、アルマはもう何も話さなかった。
がっかりしながら廊下を歩いていると、
「ローリア、会場に飾る花のサンプルを見てちょうだい」
侯爵夫人が白い花を一本持って近づいてきた。
「これはあなたにあげるわ」
ローリアは差し出された花をうけとった。ふわりといい香りがした。
「ありがとうございます」
「首都からフローリストが来ているの」
侯爵夫人が説明した。
「フローリスト?」
田舎で育ったローリアは、そんな職業があることも知らなかった。
「王様の舞踏会の装飾もしている方よ」
「そ、そうなんですね」
『王様』『舞踏会』という言葉にたじろきながら、ローリアは侯爵夫人のあとを追った。今はパーティーの準備に専念しよう。がんばっていれば、きっとそのうちアルマも認めてくれるだろう、そう思いながら。




