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侯爵にお金を借りに行ったら養女にされました!  作者: 水島素良
第3章

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13/16

3-1 祖母と妹、来る

 ローリアがソムィーズ邸に来てから、1ヶ月が経った。

 ソムィーズ夫妻は優しく、使用人たちも村育ちのローリアを見下すことなく親切に接してくれた。執事だけが時々不満げな様子を見せたが、彼は職務に忠実なので余計なことはしなかった。ローリアは毎日、跡継ぎに必要な政治学、歴史学、マナー、語学などを学んで、少しずつお嬢様らしいふるまいを身に着けていた。

 それでも、まだいろいろ不安だった。

 私は本当に、この家の跡継ぎにふさわしいの?



 そんなある日。

 ローリアは落ち着きなく玄関ホールを歩き回っていた。壁の際まで歩き、また反対側までいき、入り口の前まで行ってそっと外の様子をうかがい、また奥まで戻り……を際限なく繰り返していた。

「落ち着いてください」

 ユーナが見かねて声をかけた。その隣には、アルマのメイドになる予定のパーシーが、心配そうな顔で立っていた。ローリアやユーナと同じ年頃で、そばかすと三つ編みが印象的な細身の女の子だ。

「そわそわしていても、到着は早まりません」

 ユーナが言った。

「おばあちゃんとアルマが今の私を見たらどう思うかしら」

 実は数日前に「アルマの病気はほぼ回復したから、そちらに向かう」という手紙が、村の祖母から届いていたのだった。

「きっと、きれいになっていて喜びますよ」

 ユーナが言った。

「そうですよ! 孫娘がきれいになれば、たいていのおばあちゃんは喜びます!」

 パーシーも言った。

 ローリアはうろうろし続けたが、外から馬車の音が聞こえてくると、ドアにとびついた。

「開けて!」

 衛兵が両開きの重いドアをゆっくりと開けた。ローリアが外に飛び出すと、ちょうど馬車から祖母が降りてくるところだった。

「ローリア!」

 祖母リーマは、ローリアを見つけるなりかけよってきて抱きしめた。ハーブの匂いがする。白髪を後ろで丸く束ね、深いしわのある目元と口元とが優しく笑っていた。

「驚いたよ! あたしのローリアが! ねえ! こんな……」

 リーマがソムィーズ邸を見あげて驚いた。

「……でっかい家の跡継ぎなんてさ」

 かすれた声が続いた。

 後ろからローリアの妹、アルマが降りてきた。顔立ちや髪の色はローリアによく似ているが、神経質そうな目元と、長く病気で寝ていたために青白くなった顔色と、やせた頬と体つきが目立っていた。

「アルマ!」

 ローリアはアルマに抱きついた。

「よかった! 病気は治ったのね!」

「ええ、治ったわ」

 アルマはローリアを軽く抱き返したが、力は弱かった。それからすぐ、無表情で、

「疲れたから休みたいの」

 と言った。

「お部屋にご案内します」

 パーシーが近づいてきた。男の使用人たちが荷物を運びに来た。

「やあ!やっと会えたね!」

 屋敷の奥から侯爵の声がした。見ると、侯爵夫妻がそろってこちらに近づいてきていた。

 アルマは2人に向かって軽くおじぎをしたが、避けるように横を通過して奥に行ってしまった。パーシーがあわてて追いかけていった。

 ローリアはその様子を見て心配になった。アルマはあまり喜んでいない。

「アルマ!侯爵に失礼だよ!」

 リーマが怒鳴った。それから、侯爵に向かっておじぎをした。

「あの子は疲れやすいんです。きっと早く横になりたいんでしょう。気にしないでください」

「別に気にしていないよ」

 侯爵が言った。

「おばあさま。来ていただいてよかったわ。私がパトリシア、こちらはパトリックよ」

 侯爵夫人が言った。

「侯爵夫妻にじかにお目にかかれるなんて、こんな光栄なことはありません」

 リーマが感激した様子で言った。

「しかも、あたしの哀れな孫娘たちにこんな……もうなんて言ったらいいか」

 リーマは涙ぐんでいた。

「息子夫婦が亡くなって以来、この子が一人でうちの家族を養ってきたんですよ。頭が良くて魔法もできるのに、貧しくて学校にも行けず、近所の性格の悪い金持ちの家でメイドをしてたんですけどね、あそこの主人は本当に最悪でね、すぐメイドに手を出して子どもが……」

「おばあちゃん、その話はやめて!」

 ローリアがあわてて言った。

「立ち話もなんだから、お茶でも飲みながら聞こうか」

 侯爵が言った。ローリアはますます慌てた。

「あの家の話は本当にやめて」

 ローリアは祖母に怖い顔でささやいた。

「わかった、わかったよ。でも、あんたがどれだけ苦労したか、私は話さずにはいられないよ」

「ぜひ聞かせてもらいたいわね」

 侯爵夫人が言った。声は穏やかだったが表情が険しかった。もしかして怒ってる?ローリアは不安になった。

「アルマの様子を見てくるわ」

 ローリアは屋敷の廊下を走った。走ってはいけないと何度も注意されていたのだが、今は早くアルマと話したかった。ここに来てからのいろいろなことを。

 アルマの部屋のドアをノックすると、

「しばらく一人にして!」

 という答えしか返ってこなかった。パーシーが申し訳なさそうな顔をして出てきて、

「新しいお嬢様は、疲れているので横になっておいでです。ほっといてほしいと仰せです」

 と言った。

 ローリアはがっかりしながらとぼとぼ廊下を引き返し、侯爵夫人がいつもお茶を飲んでいる部屋に向かった。

「……それでねえ、怒ったローリアは、そいつの背中をつかんで食糧庫まで引きずっていったんですよ!『もう1回数えてみろ!』って。もちろん足りませんよね。そいつが盗んでたんですからね」

 やっぱり祖母は余計な話をしていた。

「おばあちゃん!」

 ローリアは部屋に飛び込んで叫んだ。

「その話はやめてって言ってるでしょ!」

「いいじゃないか。面白い話なんだから」

 リーマが得意げに言った。

「今、君が泥棒を捕まえた話を聞いたよ」

 侯爵が楽しそうに笑った。

「我が家にふさわしい気質だよ!間違ったことは許さないというのはね!」

「あなた、意外とたくましいのね」

 侯爵夫人が笑っていた。ローリアは少し安心したが、顔は真っ赤になった。

「おばあちゃん。もうしゃべらないで」

 小声でつぶやいた。

「じゃあ、今度は僕がこの家について説明する」

 侯爵がソムィーズ家の説明を始めた。ロンハルト王国を代表する格式のある家の一つであること、王や他の貴族が暴走した時に止める役割を担っていること、夫婦は愛し合っているが年齢的に子供はできないこと、後継者がなかなか見つからなかったこと。

「んまあ!」

 リーマはひたすら驚いていた。

「そんな大事な役目を、私のローリアが」

「これからいろいろ学んでもらわなきゃいけないのでね」

 侯爵が言った。

「おばあさまはぜひ、ローリアと一緒にここに住んで、支えてやってほしいんです」

「まあ、そんな、恐れ多い」

 リーマは恐縮していた。

「あたし、何をすればいいんです?歳のわりには足腰はしっかりしてるつもりだけど、力仕事はできないんですよ?掃除か、ちょっとした料理くらいしかできませんよ?」

「仕事なんかしなくても……」

 侯爵が何か言いかけたが、横で妻が自分をにらんでいることに気づいて黙った。

「好きなように過ごしていただければいいのよ」

 侯爵夫人が言った。

「やることがないと暇ですものね。気づいたことはなんでもやっていただいて構いませんわ。掃除でも読書でも裁縫でも。図書室があるし、布地もたくさんありますから。でも、できれば、ローリアの身の回りのことに気を配っていただけるとありがたいわ。私たちはまだよく知らないから」

「いやあ、だけど、こんな立派なお屋敷に……」

 リーマが天井を見上げた。金の装飾と天使の絵があった。

「いやあ、びっくりだね」

 しばらく絵を見てぼんやりしていた。ローリアはこれから起きそうな面倒なことを想像して困っていた。祖母はかなり口うるさいのだ。ここの使用人とケンカしないといいのだが。

 侯爵が出かける時間になり、侯爵夫人とローリア、リーマは、そろってアルマの部屋に行った。しかし、

「一人にして!」

 アルマは強情に言い張り、出てこなかった。

「あの子はちょっと人見知りすぎるところがあって」

 リーマは言い訳するように言った。

「無理もないわ。いきなり環境が変わったのだから」

 侯爵夫人が言った。

「家庭教師をつけようと思ってたけど、少し待ったほうがよさそうね」

「こんな幸運はめったにないのに」

 リーマが言った。

 どうしちゃったの、アルマ。

 ローリアはアルマと話せなかったのが残念で、これからどうなるか不安だった。

「心配いらないよ。ちょっとすねてるだけさ」

 リーマが言った。

「天気がよいから、庭を案内するわ」

 侯爵夫人が言った。

「庭!いいねえ!何植えてるんです?」

「バラと、あと、果樹園もあるわ」

「果樹園! いいねえ。まるで楽園みたいで!そういえば、バーリーのとこのリンゴの木が実ったときに、隣の酔っぱらいが木に登って服を脱いでね……」

「おばあちゃん! その話もやめて!!」

 ローリアがまた叫んだ。

「なんなのさ、さっきから、私が話そうとすると止めるんだから」

「別に構わないわよ」

 侯爵夫人が咲いながら言った。

「エリザベスの店で、似たような話を聞いたことがあるわ」

「え?夫人もエリザベスの店に行くんですか?」

「エリザベスは友達よ」

 侯爵夫人とリーマは、噂話をしながら外に向かった。ローリアはその後にぴったりとくっついていった。この祖母がまた余計なことをしゃべらないか、監視していなくては。



 



 

 

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