2-6 クィルの話
「すごく怖い男が来たって使用人たちが騒いでいたけど、大丈夫?」
クィルがローリアに尋ねた。
「怖い人?ああ、ガーウィンのことね。心配ないわ。全然怖い人じゃないから。彼はハーヴィス伯爵の弟で、商売の話をしに来たのよ」
「怪物みたいな男だったってみんな言ってるけど」
「怪物だなんて!」
ローリアは笑ってしまった。
「失礼よ。ただの面白い人だったわ。でも、体が大きすぎるからびっくりするわよね。まるで熊だもの」
「そうか……ねえ、ローリア。君にはこれから変な男がたくさん近づいてくるから、気をつけた方がいいよ」
「ガーウィンと同じ事を言うのね」
「誰にだって予想できることだからさ!」
クィルが興奮気味に言った。
「君は急に地位と財産を手に入れた。まだそれに慣れていない。気持ちが揺れてる。金と地位がほしい男はそこを突いてくる。ローリア、君は真面目で優しいからわからないかもしれないけど、世の中にはとんでもなく卑怯な奴がたくさんいるんだ。むやみに誰にでも優しくしないほうがいいよ」
「わかったわよ。心配しないで」
「あと、僕は弟じゃないって、いいかげんみんなに言ってくれない?」
クィルはふてくされた顔をした。
「『君のお姉さんどんな人?』ってみんなに聞かれるんだ。答えられないよ。会ったばっかなんだから」
「そうだったわね……」
ローリアはクィルのことを忘れていたことを後悔し始めた。自分のせいでここにいるのに。
「もうすぐ妹とおばあちゃんが来るんだろ?僕を見たら『あんた誰?』ってなるじゃないか。その前に誤解は解いておきたいんだ」
「わかった。あとでみんなに話すわ」
「それに僕、君に弟だと思われたくない」
クィルが言った。
「地位も財産もないけど、僕だって男だ」
それからあわてて目をそらして、
「薪割りしなきゃいけないから、もう行くよ」
部屋を出ていった。
「幼く見えるけど、男の子っぽいプライドはあるのね」
ローリアは一人つぶやいた。それから、午前中に学んだことを復習するため、机に向かった。
『君はもともとここに来る運命だったんだ』
と、ガーウィンが言っていたのを思い出した。それから、亡くなった両親のことを。
お父さんとお母さんが今の私を見たら、きっとびっくりするわ。
それから部屋を見回し、
「この屋敷を見せたかったな」
とつぶやいた。両親はつつましく暮らしていたので、豪華なものやきれいなものを見る機会はあまりなかったのだ。
それから、ポケットからピンク色のお守り石を取り出し、眺めた。淡い、優しい魔力に包まれている。
「女神様、お守りください」
ローリアはつぶやいた。それから、石をしまい、勉強に集中した。




