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侯爵にお金を借りに行ったら養女にされました!  作者: 水島素良
第2章

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2-5 ガーウィンの話

「イシュハは今、かなりの好景気でしてね。まるで、金とモノが空を飛び交っているようですよ」

 ガーウィン・ハーヴィスが紅茶片手に語った。

「金持ちや、金持ちの真似をしたい小金持ちどもが、我がロンハルト産の宝石を買い漁っていましてね。それがあいつら、魔力が全くないものだから、石の価値はとにかく見た目だけでね。こちらでは全く価値のない魔力のないクズ石が、あちらではとんでもない高値で売れるんですよ」

「ラナ……王妃様には何度か聞いたことがあるけど」

 侯爵が尋ねた。

「イシュハ人は本当に魔力がないのかい?魔法のない生活など、我々には想像もできないんだが」

 ローリアも隣で不思議に思っていた。魔力がなかったら、明かり石をどうやって光らせるのかしら、火はどうやって起こすのかしら、と。

「それが全くないんですよ!」

 ガーウィンが言った。

「あいつらにとってはね、魔法なしの生活が普通なんです。ライターという、油を使った道具で火をつけるんです。貧しい地域だと木や石をこすって火を起こしているところもある」

「信じがたいな」

 侯爵が言った。

「夜の明かりを確保するのはなかなか大変なんですよ、あちらでは。油やろうそくを使ったランプを持ち歩かなきゃいけないんだが、これがなかなかの曲者でね。使い慣れないと火傷しますよ。でも、あちらでは光り石なんか使えないのでね」

「どうして使えないの?」

 ローリアが尋ねた。

「イシュハ人は頭のおかしいところがあってね」

 ガーウィンが懸念の顔をした。

「魔法を使うやつは、悪魔に魂を売ったと思っているのさ。ちょっと前まで『魔女狩り』というものがあってね。魔法を使う人間を嫌って、投獄までしていた。とんでもない連中だ」

「王妃様も言っていたな。一度、魔女と呼ばれて捕まったことがあると」

 侯爵が言った。

「王妃様が? 捕まった?」

 ローリアは驚いた。

「あいつらは魔法を忌み嫌ってるんです。自分に魔力がないんでね」

 ガーウィンが言った。

「ところが、ロンハルトの宝石や布地は大好きでね。きれいなものに弱いんだな。飛ぶように売れるんですよ。特にアメジストは女神アニタ様の石でもありますからね。クズ石でもあっという間に売り切れる」

 ガーウィンが侯爵に笑いかけた。

「どうです?使ってないクズ石があったら俺に預けてくれませんかね?高値で売れますよ。捨てているようなやつでいいんです。どうせイシュハ人には魔力なんてわかりませんからね」

 あら、この人ったら、商売に来たのね!

 ローリアはちょっとがっかりした。てっきり、人がよいだけのいい男だと思っていたのに。

「魔力がなくてもいいというのが信じがたいんだが」

 侯爵は少し考えているようだ。

「見た目がよいだけで使い道がない石ならたくさんあるから、いくつか見繕わせて届けようか」

「さすが侯爵、話が早い」

 ガーウィンは嬉しそうに手をこすり合わせた。

「届け先はどこだい?今はハーヴィス伯爵のところにいるのかい?」

「そうです。兄貴の居候ですよ俺は」

 ハーヴィスがちょっとすねた顔をした。

「住む家を探してるんですが、なぜかみんな、俺を見ると怖がるんでね」

「一度ハーヴィス伯爵と話したいんだ。ローリアの後ろ盾に加わってほしいからね」

 自分の名前が出てきたのでローリアは身構えた。どういうことだろう?

「兄貴なら心配いりませんよ。昨日もアッパラパー伯爵の悪口を言いまくっていましたからね」

「アッパラパーか」

 侯爵が顔をしかめた。

「あいつは厄介だな」

「アッパラパーって誰ですか?」

 ローリアが尋ねた。

「女嫌いで有名な、古狸だよ」

 ガーウィンが言って口元を歪めた。

「王様がカイエナ姫を後継者に指名した時、反対した勢力の一人だ」

 侯爵が言った。

「絶対嫌がらせをしてくるから、気をつけた方がいいぜ、お嬢さん」

 ガーウィンがローリアに言った。

「それと、これから君の周りには、財産目当ての男たちが群がってくる。特に、相続権のない次男以下には気をつけろ。あいつらは、豊かな暮らしをしたいためだけに、持参金の多いご令嬢を狙うからな。妻の財産で遊び暮らし、妻は『夫が愛してくれない』と泣く。ロンハルトではよく聞く話だ」

 ローリアが不安な顔をしたので、

「ま、俺みたいな金持ちを選べば問題ないがね!」

 と冗談を言った。

「ハハハ!」

 侯爵は楽しそうに笑ったが、ローリアは笑えなかった。

「ガーウィン、イシュハでどれくらい稼いだんだい?」

 侯爵が好奇心をあらわにして尋ねた。

「さっき家を探してるって言ってたが、城を買えるくらいは稼いだんだろう?」

 侯爵が言ったのでローリアは驚いた。城ですって?

「城なんていりませんよ。俺一人でそんなでかい家に住んだってさみしいだけです。3部屋くらいあるちっちゃい家で十分ですよ」

「で、いくら稼いだんだい?」

「侯爵、その質問はロンハルトでは無粋ですよ」

「いやいや、噂では、イシュハで複数の会社を所有し、シュッティファント家とも懇意にしていると聞いたよ。最近は、イシュハの政界にも口出ししているそうじゃないか」

「誰に聞いたんです?そんな話を」

「こちらにも情報網というものがあってね」

 侯爵が何か企んでいるような笑い方をした。

「で、どれくらい稼いだんだい?島一つくらいは買えそうかな?」

 ガーウィンは困った顔でローリアの方を見た。『この人なんとかしてくれよ』と言いたいらしい。

「侯爵はなんでも知りたがる方ですからね」

 ローリアはごまかすように言った。

 ガーウィンはその後、いくつか商売の話をしたあとで『兄貴と貴族クラブに行く約束がある』と言って帰っていった。

「貴族クラブって何ですか?」

「名前の通り、貴族しか入れない集まりさ」

 侯爵はそう言ってから戸惑ったような顔をした。

「そうだ、あそこも男しかいないな。今まで、クラブの会員は男性だけだったな……ま、なんとかなるさ。今度連れて行ってあげよう」

「楽しみにしてます」

 ローリアはそう言ったが、不安しかなかった。貴族の男だらけの空間に自分が入っていったら、どんな仕打ちを受けるか、なんとなく想像がついたからだ。しかも、アッパラパーとかいう厄介な人の話まで聞いてしまった。

「ガーウィンは面白い人ですね」

 暗い気持ちを晴らすために、ローリアは話題を変えた。

「また会えるかしら」

「彼は話すのが好きな男だから、きっとまた来るさ」

 侯爵が言った。

「ただ、なんといってもあの見た目だからね……ご婦人方の中には、見ただけで怖がって逃げていく人もいるくらいだよ。そういえば、ローリア、君は全然怖がってなかったね」

「ちっとも怖くありません。むしろ話しやすかったわ。貴族だと思わなかったから普通にしゃべってしまいました」

「長くイシュハにいたからね。庶民に近いんだろうな、感覚が」

 執事が別な来客を告げたので、ローリアは自室に引き払った。机に向かってノートを広げ、今日会った奇妙な大男について書きとめた。

『君はこの家に来る運命だったのさ』

 と言ってくれた。好意的だ。

 また会えるかしら。

 考えていると、誰かがドアをノックした。

「どうぞ」

 入ってきたのは、クィルだった。






 

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