表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

4話


 シオンが、五年の眠りから目を覚ましてからというもの、屋敷の中は騒がしくも喜びに満ちていた。

しかし、目覚めたとはいえ、シオンの身体はまだ神力に耐えきれるほどには成長しておらず、日常生活すらままならなかった。


「はぁ……はぁ……」


廊下をほんの数歩歩いただけで、息が上がってしまう。

額に滲む汗を、そっと手巾で拭ってくれるのは、いつも世話をしてくれる優しい侍女だった。


「大丈夫ですか、シオン様! ああ、またお顔が赤く……! お水をお持ちします!」


侍女の声が心配そうに揺れる。

彼女はシオンが倒れてしまわないかと、いつも手を伸ばせる距離にいてくれていた。

それでも、日によってはほんの少し立ち上がっただけで、シオンの身体はふらつき、倒れ込んでしまうこともある。


そしてある日。


「うぅ……身体が熱いのう……」


シオンは高熱を出して寝台の上で唸っていた。

額には冷たい布があてられ、傍ではオリヴィアが涙ぐみながらそっと手を握っている。


「シオン、しんどいわね。もうちょっと頑張ろうね。ほら、お薬、飲んで……」


「……薬などに頼るとは……情けない……」


オリヴィアは、思わずくすりと微笑む。


「ふふ……熱で不安なのね。でも大丈夫。お母さんがついてるからね」


部屋の隅では、付き添っていた医師と侍女が顔を見合わせていた。


「うう……かたじけない…。人間とは、かくも弱きものか……。頭がぐるぐるする……。この感覚は……黄泉の国へ遊びに行って……三途の川に落っこちて流された時以来じゃ……」


ぽつりとこぼされたその言葉に、医師は目を丸くする。


「……よみ……くに? さんず……? なんだそれは……?」


侍女も固まっていた。

それでも、オリヴィアは何一つ気にすることなく、慈しみ深い眼差しで息子の頭を撫でている。


「大丈夫よ、シオン。すぐによくなるからね。お薬、もうひと口だけ……ね?」


シオンは渋々と薬を口に含んだ。

人間とは誠に弱きものよ。


だが――


シオンは気付かない。

もはやそれは、五歳児の発言ではないということに。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ