4話
シオンが、五年の眠りから目を覚ましてからというもの、屋敷の中は騒がしくも喜びに満ちていた。
しかし、目覚めたとはいえ、シオンの身体はまだ神力に耐えきれるほどには成長しておらず、日常生活すらままならなかった。
「はぁ……はぁ……」
廊下をほんの数歩歩いただけで、息が上がってしまう。
額に滲む汗を、そっと手巾で拭ってくれるのは、いつも世話をしてくれる優しい侍女だった。
「大丈夫ですか、シオン様! ああ、またお顔が赤く……! お水をお持ちします!」
侍女の声が心配そうに揺れる。
彼女はシオンが倒れてしまわないかと、いつも手を伸ばせる距離にいてくれていた。
それでも、日によってはほんの少し立ち上がっただけで、シオンの身体はふらつき、倒れ込んでしまうこともある。
そしてある日。
「うぅ……身体が熱いのう……」
シオンは高熱を出して寝台の上で唸っていた。
額には冷たい布があてられ、傍ではオリヴィアが涙ぐみながらそっと手を握っている。
「シオン、しんどいわね。もうちょっと頑張ろうね。ほら、お薬、飲んで……」
「……薬などに頼るとは……情けない……」
オリヴィアは、思わずくすりと微笑む。
「ふふ……熱で不安なのね。でも大丈夫。お母さんがついてるからね」
部屋の隅では、付き添っていた医師と侍女が顔を見合わせていた。
「うう……かたじけない…。人間とは、かくも弱きものか……。頭がぐるぐるする……。この感覚は……黄泉の国へ遊びに行って……三途の川に落っこちて流された時以来じゃ……」
ぽつりとこぼされたその言葉に、医師は目を丸くする。
「……よみ……くに? さんず……? なんだそれは……?」
侍女も固まっていた。
それでも、オリヴィアは何一つ気にすることなく、慈しみ深い眼差しで息子の頭を撫でている。
「大丈夫よ、シオン。すぐによくなるからね。お薬、もうひと口だけ……ね?」
シオンは渋々と薬を口に含んだ。
人間とは誠に弱きものよ。
だが――
シオンは気付かない。
もはやそれは、五歳児の発言ではないということに。